第二十話 パーティー結成
「おや、もうすぐ夕方ですね。 そろそろ調査の結果も出ている頃でしょう。 少々お待ちくださいね、今確認してきますので…」
そう言うと教皇はいそいそと部屋から出て行った。
「はぁー……長かったぁ~!」
「僕は大雑把には聞いた事はあったけど、やっぱり当事者の視点だとだいぶ違うね」
「しかし……魁があんなとんでもない物だったとはな……」
「そうですね」
八つ集めるとこの世界の理に介入できる能力を持つ”創造主の力の欠片、神の欠片。
何か、話が大きくなり過ぎだな……
ガチャ
「どうやら話は終わったようじゃのぉ」
「紅玉さん、お帰りなさい」
教皇が話し始める前に離席していた紅玉姉さんが部屋に入って来た。
「聞いたのじゃな、ワシの事も…」
「ああ、なんていうか……かける言葉が見つからない…」
「あーあー、辛気臭い! もう気にするな!! 所詮過去の事じゃ!!」
「うん。 でもさ…」
「何じゃ?」
「いやぁ、昔のお姉さんはものすごく”乙女”だったんだねぇ~!」
「ぬ!? ええい、その話はするでないわッ!!!」
余計なひと言を言ったヴィクターに紅玉姉さんの”お仕置き”が炸裂していた。
ゲンコツで左右のこめかみをグリグリやる”アレ”である。
「いだだだだだだだッ!!! ギブッ! ぎぃぶぅッ!!」
「あーあ、言わなきゃいいのに……」
まったく、しょうがねぇな……
「カイ?」
「ん?」
気がついたら、目の前にプリムの顔があった。
相変わらず、警戒心の無いヤツだな。
うぅ……いい香りがする。 この天然娘はこの辺自重してほしい。
「さっきまで深刻そうな顔をしていたので、大丈夫かなと思って」
「目の前であんなの見せられたらな。 難しく考えるのが馬鹿らしくなってきたって、そう思っただけだ」
「それなら良いのですけど…」
「プリムは自分の事を優先させた方がいい。 お嬢様、見つかるといいな?」
「はい…」
とは、強がっては見たものの……まあ、不安はある訳なんだけど…
◆
三十分後……
「お待たせいたしました。 ようやく結果が出ましたよ」
「ようやくか…。 随分手間取ったのぅ?」
「申し訳ありません。 返す言葉も無い……」
「それで結果は?」
教皇は頷くと、手に持っていた書類に視線を落とす。
「結果だけを先にお答えすると、”ハズレ”ですね。 名前や年代等は一致するのですが、外見に違いがありました。 お嬢さんのお嬢様は銀髪で紫の瞳だとお聞きしましたが、その方は金髪で碧眼ですね」
「……そうですか」
残念な報告にプリムが目に見えて肩を落とす。
「おお……気を落とさないでくださいお嬢さん。 貴女の大事な人は”この私”が必ず見つけて差し上げます。 ですから……」
そんな言葉をプリムの横で囁きながら、指をワキワキさせてプリムの肩に手を回そうとする教皇。
ビュンッ……
「……い、いやだなぁ…切原殿。 ほ、ほんの冗談じゃないで……ヒッ!?」
「…………」
俺が気がついた時には魁は教皇の喉元に突き付けられていた。
「カイ、ワシが許す! 殺れッ!!」
「いやいや、それはまずいだろう!?」
紅玉姉さんが煽る中、フリスが俺達の間に入って止めに入った。
「そんな事やったら流石に国際問題になるからッ!!!」
「そ、そうですよ! 私は大丈夫ですから……」
「むぅ…」
プリムが宥めてきたので、俺は渋々剣を下ろす。
「はぁはぁ……こ、殺されるかと思いました……」
「いい加減自重せい、このスケコマシッ!!」
「自重はしています! 私が手…もとい、優しく囁きかけるのは、フリーのお嬢さんだけですッ!!」
「それって、胸張って言う事?」
「こやつは………今後の為に”不能にしてやろう”か?」
「ヒィッ!!?」
紅玉姉さんの凄みを利かせた脅しに、教皇が悲鳴を上げて壁まで逃げる。 内股で……
(カイ…カイ!)
その光景を見かねたのか、フリスが俺に耳打ちしてきた。
(このままじゃマズい! 国際的にも、男性的にも……)
「まあ、ちょっとはまずいかなとは思うけど…でも、自業自得だぜ?」
(でもマズいから……。 で、穏便に事を済ませる為に……)
「ふんふん……。 ッ!?」
(流石に”うら若き乙女達”の前で”〇〇〇〇”はマズいだろう!? いいからやるんだ!!)
俺達が内緒話をしている間にも、教皇の”男としての人生”は刻一刻と終わりに近づいていた。
「こ、紅玉さん…もういいですから!」
「これも多くの娘達の貞操をこの教皇の毒牙から護る為じゃ。 仕方の無い事なのじゃ!」
「なんか、話が大きくなってませんかねッ!?」
「あー、ちょ…ちょっと待った!」
そのままほっとけばいいんじゃないかと思いつつ、俺は待ったをかけた。
「なあ、教皇? アンタ、”私が手を出すのはフリーの女だけ”とかさっき言ってたよな?」
「は…はぁ、確かにそのような事を言いましたけど……」
「よし……」
俺は意を決して”プリムの肩に手を回して俺の方に引き寄せた”。
ああ…俺、この香りに弱いんだよな……今、ハッキリと自覚したぜ…。
「プリムは”俺の女”だ。 悪いが”お手付き”なんだ」
ふぅ…言わされてるとはいえ、俺ってば何言ってるんだろう?
「ほほう、怪しいとは思っておったが……やはりのぅ(ニヤリ)」
「えー、いつの間に!?(驚愕)」
「え、そうだったんですか!?」
おいおい、何でお前がそんな反応してるんだ……
「なんとッ!? そうだったのですか……それは申し訳ない事をいたしました」
って、それで信じるのかよ!?
「そういう訳なので聖下、お世話になりました! いい時間になってしまったので我々はこれで!!」
俺の”爆弾発言”に呆気にとられている隙をついてフリスが一気に締めに入る。
素早く一礼すると、俺達の背中をグイグイ押して部屋から追い出した。
◆
「なんじゃとッ!? あの”爆弾発言”は嘘じゃと言うのか?」
「いや、そんなアッサリ信じるなよ……」
「そ、そうだったんですね…。 ビックリしました」
「ごめんね、ああでもしておかないとあの事態は止まらないと思ったんだよ。 流石にあのままだと教皇聖下の”男としての人生”が終わりを迎えていたからね」
俺達は神殿を出て、夕闇に沈みかけたアルモリアの街中を歩いていた。
神殿に来る前にフリスが宿を取っていてくれたらしいので、今はそこに向かっている。
「とりあえず、宿についたら報酬を渡すよ。 それから、”これから”の事を話そう」
そうだった、フリスはあくまで”俺達の雇い主”であり、俺達は”護衛”だったんだ。
◆
「それじゃあ、依頼達成お疲れ様って事で…乾杯ッ!!」
「「「「乾杯!」」」」
『乾杯』の掛け声を合図に俺達は注文した大量の料理に取り掛かった。
本当はもう少しのんびりやりたかったが”暴食の権化”がいるので皆必死だった。
三十分後……
「いやぁ、食った食った!!」
「ボク等も頑張ったけど、あの大群の6~7割を一人で持っていくなんて……」
「しかも大物を一人で平らげるとは……僕の予想を超えていたよ…」
「うぅ…あれだけ食べて、何であの体型を維持できるんでしょうね……?」
驚愕する俺達を尻目に紅玉姉さんは近くのウェイトレスを呼びつける。
「食後の甘味にこれとこれとこれも追加するのじゃ!」
「その上で更に増援……だとッ!?」
十年前のしおらしさは何処へやら……紅玉姉さんの胃袋は絶好調だった。
◆
食後にフリスは俺達へ報酬を渡してくれた。
「お、結構重いな」
「今回の仕事は色々と実入りも大きかったからね。 実は一番高額だったのは”将軍熊”から剥ぎ取った毛皮だけどね」
「因みにいくらぐらい?」
「……3万ステラ」
「ぶッ!!!」
因みに今の一般的な相場は、『1ステラ=パン一個』『30ステラ=お手頃な値段の宿代』である。
「三人への報酬はちょっとオマケして一人8500ステラ包んでおいたから」
「は……8500……俺の持ち金が10倍以上になったんだが……」
「それだけ将軍熊がおいしい魔物だったって事さ」
「そういえば、将軍熊の皮鎧は上等なものだと1万を超えてたのぉ」
「まあ、小型拳銃の弾ぐらいなら平気で弾く硬さだからね」
思いがけない所で大金が入ってきてしまった……
「それじゃあ、次はこれからの事だね。 ボクとカイ、プリムの三人は南の港町”グラナダ”から船に乗って教皇国の西の港町”メール”を経由して武王国の海の玄関口”バイア”に向かう。 その後は陸路で”慶楼”に入る予定だよ」
ヴィクターが地図を開いてこれからの予定航路を指でなぞっていく。
「フリスさんと紅玉さんは、どうするつもりなのですか?」
「ふむ、ワシは元々当ても無くあちこちを旅しておるからのぉ。 まあ、主等と共に行くのは退屈せんで済みそうじゃからな。 迷惑で無ければ同行させてもらえるかの?」
紅玉姉さんはこの先も俺達に同行するつもりらしい。
「僕の方は、ちょっと皆に相談があるんだ。 いいかな?」
そう言ってフリスは、一枚の書類を俺達に提示する。
「丁度”慶楼”に荷物運搬の依頼があってね、僕向きの依頼だったんで受けようと思ってたんだ」
「へぇ、うまい事都合がいい依頼があったんだねぇ」
「まあね。 それに……」
「それに?」
「ここまで関わったんだからお嬢様との感動の再会を見届けたいって、そう思ったんだ。 迷惑じゃ無ければ僕も同行させてくれないか?」
「紅玉さん…フリスさん……」
「その方が”護衛代”も浮くしね?」
「うわ、そっちが狙いかよッ!!」
「まぁまぁ、分け前は弾むからさ!」
なんだかんだ言いつつもフリスも一緒に来てくれるのか。
「何じゃ、結局フリスも行くのか?」
「皆とは、何か気が合うしね。 それに紅玉さんじゃないけど、確かに皆を見ていると”面白い”。 …まぁ、苦労も多いけどね」
「あ、そうだ!」
そう言うと、ヴィクターは立ち上がって俺達に”ある事”を提案してきた。
「こうして皆で旅するんだしさ、ボク達で”パーティー”組んでみない?」
「パーティー…ですか?」
「うん!」
「おお、そういうのは良いのぉ! どうこうなるものでは無いが、皆が同じパーティーだと意識すると連帯感も高まるものじゃしな」
「僕も賛成。 能力的にもバランスが取れていると思うし、何より楽しそうだ」
「私も皆さんと一緒にいられるのは嬉しいです」
「カイは?」
「いいんじゃないか? 今までもそんな感じだったんだしな」
「うん! それじゃ”パーティー結成”ね!!」
ヴィクターがそう宣言すると、誰とも無く杯を掲げて、再び乾杯をした。
「さて、それじゃあ決めなくちゃいけない大事な事が二つあるから、そのまま決めちゃおうか?」
「決めなくちゃいけない事?」
「それは勿論、”パーティーリーダー”と”パーティー名”だよ!!」
「なるほど、確かに軍隊でも部隊単位で動く時に隊長を決めるね」
「そうなると、ワシは辞退じゃ。 ワシは普段怠けてて、いざという時に本気を出す方が性にあっておるからのぉ」
「僕は皆ほど押しが強い訳でも無いからね。 どちらかと言うとサブに回ってサポートに徹する方があってると思うんだ」
年長者二人が”理由を拵えて”、”パーティーリーダー”を辞退した。
この流れはヤバイ気がする……
「私は元々使用人という立場だった性か、人を率いるという事にちょっと抵抗が……」
「まさか、十四歳のか弱い女の子にそんな事やらせないよね?」
「って、最初から俺に押し付ける気満々じゃねぇか!?」
流れで俺に”パーティーリーダー”が回って来た。
「だって、この中だとカイが適任だと思ったんだもん!」
「カイは面倒見がいいからね」
「まあ、諦めるんじゃな」
「カイがリーダーなら頼もしいです!」
とても断れる空気じゃ無い……
「あー、分かったよ! 俺がやればいいんだろ!?」
「じゃあ、なんて呼ぼうか? リーダー? 大将? マイロード?」
「今のままでいいッ!!!!!」
なし崩しで決まってしまった……
だが、よくよく考えれば下手にプリムやヴィクターがリーダーになるより”マシ”な事態とも言えるので、何とも微妙な気分だ。
「で、チーム名とかどうするんだよ?」
「そりゃあ……」
「「「リーダーに決めて貰わないと!」」」
「お前等なぁ……」
俺は悪態をつきつつ、パーティー名を考えて見る。
元々俺達はバラバラだったのが、何の因果かこうして集まって仲間になった連中だ。
何ていうか、良くも悪くも個性が際立った連中だと思う。
そんな色々な個性を束ねるのが”リーダー”を押し付けられた俺の役目な訳だが……
「何か、一人に押し付ける形になってしまってごめんなさい、カイ」
「あー、もういいよ。 良く考えりゃ、他に任せる方が心配だ」
「?」
不意に何かいい香りがした。
……香り? ……束ねる
で、個性が際立つっていうのは”枠にはまらない”って事……
あー、良さげなのが出て来た。
「うん、決めた」
「おお、早いのぉ!」
「で、どんなの?」
「”らしく無い”とか言って笑うなよ……」
『Wild Flower』……野生の花…
それが俺達のパーティーにつけられた名前だった。




