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新世界の魁  作者: 黒狼
プロローグ
2/74

プロローグ2

 正体不明の化け物、”蜘蛛モドキ”(俺の脳内で命名)を何とか倒した後、俺とメイド服の金髪青眼の少女プリムラは、その場でへたり込んでいた。

 数分前まで”蜘蛛モドキ”に襲われていたのだから、仕方の無い事だと思う。


「はぁー…ったく、ありゃなんだったんだ…」

「私の方でも見覚えの無い魔物でした。 カイの方でも見覚え無いのですよね?」

「見覚えも何も…あんなのは、ゲームか漫画でしかお目にかかれないシロモノだぜ」

「げーむ? まんが?」


 プリムラは、小首を傾げる。


(文化の違いだろうか、イマイチ通じないワードがあるみたいだ。 でも、言葉は通じている様だしどうなっているんだろう…)

「カイ?」

「ん…ンンッ!?」


 声がする方を向くと、目の前にプリムラの顔があった。


(ち…近い近いッ! この子には、警戒心って物が無いのか!? 主に異性に対しての…)


「驚かせちゃいました?」

「い、いや大丈夫。 で、なに?」


 俺は、ドキマギしていた自分を押し込めて平静を保って聞き返す。 女の子に耐性が無さすぎる自分を情けなく思いながら…


「カイは、魔導剣士だったのですね。 初見では、全然そう見えなかったです」


(まど…また、聞き覚えの無いワードが出た…。)


「あー…もしかして、あのバケモノを斬った時のアレの事か?」

「はい。 あれは、剣に魔法を付与(エンチャント)した斬撃だったのですよね?」


 完全に勘違いをしているようだ。


(とはいえ、あれは俺も謎だった。 なぜ、剣が急加速したのか…。 何せ、剣を握っているだけで精いっぱいだったからなぁ…)


「ほら、カイが剣を振った場所に魔力を放出した痕跡が残ってます」

「え!?」


 俺はそう言われて、さっき剣を振るった場所に目を向ける。 確かにその場所には、確かに痕跡があった。

 ただし、何かが爆発した様な跡が…


「これってさ…痕跡ってかさ…」

「えっと、爆裂魔法の爆風で無理矢理加速した…そんな感じですか?」

「俺は、やった覚え無いぞ…。 魔法なんて使った事無いし、多分…使えない」

「え、そうなんですか!?」

「それに、この剣もその辺に落ちていた物だしな」

「え…でも、カイを介抱していた時にはそんな物落ちていませんでした。 私は、てっきり収納の魔法で持ち歩いていた物を取り出したのだとばかり…」


(どういうことだ? それじゃ、いきなり剣が湧いて出たみたいじゃないか!?)


 謎は残ったままだが、このままだと更なる誤解を招きそうだ。


「とりあえず、はっきりさせておこう! いいか?」

「何をですか?」

「まず、俺は魔導剣士とやらじゃ無いし、魔法も使えない! 更に言うなら、魔法なんて見た事無いし、真剣に触れるのも初めてだ!」

「え…」


 やはり驚いているようだ。 だがこの際、言える所まで言ってしまおう。 これ以上引っ張るとお互い誤解したままって事になりそうだ。


「それと、これは推測の域を出ない事なんだが…」

「…はい」


 プリムラも神妙な面持ちになる。


「ここは、俺がいた世界じゃ無い…と、思う。 少なくとも、魔法なんて無かったし、魔物もいなかった」

「では…カイは、異世界から来たのですか?」

「確認できた訳じゃ無いから、”そうだ”と、断言も出来ないんだけどな」






「腑に落ちない事もあるけど、兎も角落ち着ける場所を探そう。 また、さっきみたいなバケモノが出ないとも限らないし」


 俺は、プリムラにそう提案して二人で森を歩いている。 身を護る為にも、あの剣を持ち歩いて…


 木々から覗く空は、段々と赤く染ってきた。 もうすぐ夜になる。


「やばいな…日が暮れる」

「そうですね…。火を起こせないと、野宿は危険かもしれません」

「まいったな…俺は、タバコなんて吸わないからライターもマッチも持って無いしな…」

「らいたー?まっち?」

「あー…火打石よりも簡単に火がつく道具…かな?」

「それは便利そうですね。 私も魔法が使える訳でも無いですし…火打石は、背嚢(バックパック)に入れてあったんですけど、背嚢ごと無くしてしまって…」

「こりゃ、森を抜けるまで強行軍かな?」

「ですね…」


 二人して溜息をつく。


「……カイ」

「……ああ、なんかデジャヴを感じるぜ…」


 何かが蠢く気配がした。

 どちらとも無く背中合わせに立って武器を構える。


「勘弁してほしいぜ、まったく…」


 俺は、小声で悪態ついた。 さっきと同じようにやれるとも限らない…。



 ガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサ



「って!? どんだけいやがるんだッ!!?」

「まさか、群で動く魔物だったなんて…!」


 さっきの”蜘蛛モドキ”と同じか、似たようなバケモノが群でいるらしい。 どうやら俺達を包囲しようとしているらしかった。


「やばいな…」

「はい、まずいです…」

「こうなりゃ…」

「…カイ」

「ん?」

「……私が囮に…」


 グッ!!


 プリムラが踏み出そうとした所を腕をつかんで止める。


「カイ!?」

「さっきと同じ事やるな! さすがに無茶だ!!」

「でも、このままでは……あッ!?」


 俺は、プリムラの腕をつかんだまま全力で駆け出した。


「カイ!」

「いいから、逃げるんだよ!!」


 俺は、”右手一本で剣を振り回し”ながら、左手でプリムラの腕を掴んで走った。

 ”蜘蛛モドキ”の包囲が薄い場所を剣を振り回しながら強引に突破する。

 その際に俺の手足を”蜘蛛モドキ”の前足が掠めて幾つもの傷を作ったが、構わず駆けた。


「このままじゃ追いつかれます!」

「いいから、走れ!!」

「せめて、腕を離してください!」

「残ろうとするから却下ッ!!!」


 俺は、プリムラの腕を掴んだまま走り続けた。

 プリムラも腕を掴まれたまま俺のスピードについてくる。

 或いは、彼女の方が足が速いのかもしれないが、今は腕を離すわけにはいかなかった。

 今も無数の”蜘蛛モドキ”が後ろから怒涛の如く追ってくる。 追いつかれたら、間違いなくボロボロに蹂躙されて、貪り食われるのだろう。


 もう、どれだけ走っただろう。

 俺もプリムラも身体のあちこちに傷を負いながらも走り続けた。 幸いにも、大きな傷を負わずに済んでいるがさすがに体力が尽きてきたらしい。 走る速度が俺もプリムラも落ちてきた様に感じる。


「カイ、前を!」

「ッ! 視界が開けて来てる…」

「森から出れます!!」

「ああッ!!」


 俺達は、最後の力を振り絞って走る速度を上げた。

 もちろん、それで”蜘蛛モドキ”振り切れるとも限らないが…


 木と木の間を抜けた瞬間、一気に視界が開けた。

 目の前に広がるのは、だだっ広い草原と森の脇を這う様に整備された土の地面の街道だった。


「道か!」

「この道を辿れば、街に出れるかも…」

「よし! これであの”蜘蛛モドキ”が森から出て来てなきゃ…」

「はい!」


 俺とプリムラは、一縷の期待を込めて後ろを振り向く。


 ”蜘蛛モドキ”は、次々と森から出て追ってくる。


「構わず出てきました…」

「くっそぉ! いい加減にしろぉぉぉ!!!!」


 俺とプリムラは、再び駆け出す。 それを追って来る”蜘蛛モドキ”の群。


(ちッ! さすがにもうもたないかッ!!)


 すでに”蜘蛛モドキ”は、すぐ背後まで迫っていた。


「カイ!追いつかれます!!」

「くっそぉぉぉぉぉぉッ!!!」


 ”蜘蛛モドキ”が俺達に飛びかかって来た。


(もう、だめだッ!!!)




 ダーーーーーーンッ!



 その音が響いた時、俺達に飛びかかって来た”蜘蛛モドキ”が目の前で爆散した。


「そこの二人、助かりたかったらこっちまで走って来い!!」


 その声と共に目の前が真っ白になる。 強い光が二つ、目の前で急に点いたようだった。


「く…車のヘッド……ライト!? それにさっきのは…もしかして銃声!?」

「早くしろ!死にたいか!!」

「カイ!」

「ああ!!」


 色々と腑に落ちない所があったが、俺達は光に向かって走り出した。

 俺達が走り出すと同時に、銃声が幾つも響き渡る。 その度に”蜘蛛モドキ”が爆散する耳障りな音がする。


「埒が明かんな。 ハッサン!!」

「うむ」


 光の中から巨大な影が現れる。

 それは身長2mを超すだろうスキンヘッドの大男だった。 その手には、アサルトライフル(銃には詳しくないので恐らくだが)が握られている。

 その大男の横を俺達は走り抜ける。



 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!



 俺達の後ろで爆音が響き渡る。


「奴らの足は止めた。 後は爺さん達に任せるぞ!」


 爆音が鳴りやむと、俺達の横を武装した集団が横切って行く。


「応、任された!! マルコとハッサンは下がってて良いぞ!!」


 先頭を行くのは、全身を金属の鎧で身を包んだ老人。 その手には、槍に斧がくっついた武器、”ハルバード”が握られている。

 それに続くは、朱い長い髪をした二刀の剣士。 見た感じ妖艶な女性の様だった。

 更に、鎧は身に着けず長い棒を一本だけ持った東洋人風の男。 中華風に見えた。

 最後に、銀髪の少年。 マントを羽織ってるだけで一見武器らしき物は見えなかった。


 三人は、”蜘蛛モドキ”の群に飛び込んでいく。 銀髪の少年だけは、ハッサンと呼ばれた男の横で立ち止まり両手を広げて何やらぶつぶつと唱え始めた。


「よぉ! 無事かい、ご両人」


 横を走り抜けた四人に気を取られていた俺達の背後から不意に呼び掛けられる。

 そこには陽気な笑顔を浮かべた褐色の肌で金髪の色男が立っていた。 その手には、男の身の丈ほどはあるだろうライフルが握られている。


「はぁはぁ…た、助かった…」

「はぁ…ありがとうございます…」


 俺とプリムラは、息も絶え絶えで礼を言う。


「まぁ、後はうちの連中に任せとけばいいよ」


 男は、緊張感の無い口調で言うと、俺達が逃げてきた方を指さす。

 俺とプリムラは、つられてそっちを見た。



「ウォルフ老、あと30秒稼いでくれ。 でかいので一掃する!」

「おお! 外すなよ、アンリ坊!」


 銀髪の少年は、両手に光る宝石を握りしめて朗々と呪文らしきものを唱える。

 鎧姿の老人は、巨大なハルバードを棒きれでも振り回すが如く振り回し、群がる”蜘蛛モドキ”を蹴散らしていく。


「カルメシー! (ツァオ)! 坊がでかいのをぶっ放すぞ! 儂が合図したら左右に回避しろ!!」

「了解よ!」 「承知」


 左右に散って、個別に”蜘蛛モドキ”を相手取っていた残りの二人が老人の言葉に応える。


「我が手に集え、蒼き雷火ッ!!」


 銀髪の少年が握りしめていた宝石が音を立てて弾けた。 その手には、青白い雷がバリバリと音を立てながら玉の形をとる。


「散れぇいッ!!!」


 宝石が弾けた音に反応して、老人が声を張り上げる。

 ”蜘蛛モドキ”と戦っていた二人と老人が、素早く四方に散った。


「解き放てッ! 蒼雷の豪雨エクレール・アヴェルスッ!!!」


 銀髪の少年は、両手の雷球を”蜘蛛モドキ”の群の中に投げ放つ。

 瞬間…



 ドォゴォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!



 轟音を轟かせて、無数の青白い雷光が”蜘蛛モドキ”の居る空間に降り注いだ。

 青白い雷光は、”蜘蛛モドキ”を次々と焼き、砕いていった。


 そして数秒後には、雷光は消えていた。


「ふん、雑魚の”蜘蛛モドキ(パウーク)”じゃあいくら居ても話にならないな!」


 そこには数秒前まで”蜘蛛モドキ(パウーク)”だった黒い塊が無数に散らばっているだけの焼け焦げた大地が広がっていた。


「ほざいてな、お子様が。 誰が時間を稼いでやったと思ってるんだい?」

「なんだとぉ!!」


 妖艶な二刀剣士のからかいに、銀髪の少年が声を荒げる。


「はいはい、お前らそこまで!」


 後ろに控えてたライフルを持った男が二人の間に割って入る。


「臨時の仕事、ご苦労さん。 御疲れの所悪いが本来の仕事に戻ってくれ」

「ほら、お前ら戻るぞ! 早くせい!!」


 むくれる少年の背中を、老人がバシッと叩いて促す。

 老人に習うように、他の三人も後に続く。


「さぁてと…」


 ライフルを持った男が俺達の方を向く。


「お二人さんもついて来てくれるかな? なに、悪い様にはしないよ」


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