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新世界の魁  作者: 黒狼
第一章 旅立ち編
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第九話 運び屋フリストフォール

 俺達は、新たに仲間に加えた”探偵見習いの少女”ヴィクターと共に、合衆国の南の都市”オレルアン”に向かう乗り合いバス(正確にはトラック)に乗っていた。

 スチームヒルからオレルアンまで乗り合いバスで一日半程の距離である。


「そういやさ、ヴィクター」

「ん、何?」

「旅の荷物以外に持ってる鞄あるだろ?」

「この肩がけ鞄?」

「ああ」

「これには、ボクの武器が入ってるんだよ」


 そう言うと、鞄をごそごそと漁り始める。


「じゃーん!」

「それは……?」

「銃か?」


 それは確かに銃だった。

 ただ、明らかに口径が大きい。 拳銃(ハンドガン)よりは、小型榴弾砲(ハンディキャノン)といった所だ。

 更には、銃身には管が繋がっており、それは鞄の中にまで伸びていた。


「ボク”お手製”の”スチームキャノン”さ! まあ、攻撃力的には見かけ倒しもいい所だけどね」

「そうなのか?」


 ヴィクターは、鞄から”スチームキャノン”の弾を取り出して一個づつ並べていく。


「これはゴム製のスタンバレット、こっちはフラッシュバレット、煙幕のスモークバレット……」

「なるほど、相手を無効化する様な弾ばかりだな」

「スタンバレット以外は、当てなくても効果あるしね!」

「……当てられるのか?」

「うん、自信は”無い”!!」


 勿論、その後”俺達の後ろから撃つ時は必ず声をかけろ”というルールを作ったのは言うまでも無い。




          ◆




 スチームヒルを出てから一日半、”国境の街オレルアン”に到着した。

 街並みは、俺の知る限り”中世ヨーロッパの田舎町”の様な感じだった。


「ニューデトロイトやスチームヒルとは違って、落ち着いた感じの街ですね」

「いや、比較対象が極端すぎだ……」

「だねぇ。 魔法文明側の街だと、規模にもよるけど大体こんな感じだね」

「ともかくとして、先ずは今夜の宿の確保だな」

「それなら、こっちの方に”冒険者御用達”の宿屋があるよ! 二人ともついて来て!!」


 俺達は、ヴィクターの先導で街の大通りを歩いて行く。

 流石に国境の街だけあって、大通りは活気に満ちていた。


「露店が沢山出てますね」

「そうだな。 食べ物に酒……へぇ、武器や魔法薬、EC(エネクリ)の加工物の露店まで出てるのか」

「オレルアンは、”創造主(ジェネシス)の玉座”の”魔物討伐目当ての冒険者”への商売で発展した街だからね」

「だから、こんなに色々な物が並んでいるんですね」

「あ…ほら、見えて来たよ! あれがこの街の冒険者協会指定の宿屋だよ!」


 ヴィクターが指さした先には、木造の三階建ての建物があった。


 ”(ひら)かれた(みち)亭”


 それがその宿屋の名前だった。



 ガランガラン


 扉についた鈴を鳴らしながら、店の中に入る。

 中は、アニメやラノベのファンタジーものでありがちな感じの”宿屋兼酒場”だった。

 夕方前の微妙な時間の為、店の中は閑散としていた。


「おや、いらっしゃい。 お泊りかい?」


 店に入って来た俺達に気が付いた宿屋の女将さんと思わしき中年女性が、俺達に声をかけて来た。


「うん、そうだよ。 三人なんだけど部屋空いてる?」

「ああ、空いているよ。 三人部屋でいいかい?」

「どうする?」


 さて、問題だ。

 三人部屋となると、俺が”女子二人”と同じ部屋で寝泊まりする事になる。


「私は、問題ありません」


 またコイツは……相変わらず、男女って枠組みの警戒心が無さすぎる……。


「カイは?」


 まぁ……ヴィクターは、お子様だからそういう警戒心も薄いか……。


「同じ部屋の中で着替えとかしないならいいぞ」

「意外と紳士?」

「……ほっとけ!」


 そんな訳で、俺達三人は三階の三人部屋に通された。





          ◆





 部屋で荷解きをした後、俺達三人は車座になっていた。


「私は、2672(ステラ)ですね」

「ボクは、1850(ステラ)だね」

「……691(ステラ)

「ここの宿代が一日20(ステラ)だから今の所は大丈夫だけど……」

「この先旅をするとなると、心許無いですね……」

「”カイの懐具合”がね!」

「うるせぇ…!」


 とはいえ、路銀が心許無いのは事実。

 さて、どうしたものか……


「旅に支障が出ない程度に冒険者の依頼を受けようか?」

「支障が出ない程度っていうと?」

「”討伐”とか”調査”だと足止めされそうだから……目的地が進路上ある場所への”配達”とか”護衛”なんかがいいかな?」

「そんな都合良く依頼があるものか?」

「西回りのルートの状況から考えれば、あえてこっちでって人もいると思う。 まぁ、探してみようよ。 一階の酒場に依頼書とか掲示されてるから、先ずはそれを見に行こうよ!」





          ◆





「ん~……アルモリア行の”配達”依頼も”護衛”依頼も無いなぁ……」

「どれもアルモリアから大きくそれちゃう依頼ばっかりだね」


 俺達は、宿屋の一階にある依頼書の掲示板に来ていた。

 しかし、うまい具合の依頼が中々無い……


「おや、依頼を探しているのかい?」


 見かねて女将さんが俺達に声をかけてくる。


「うん。 アルモリア行で”配達”か”護衛”の依頼を探しているんだけどね」

「それなら仲間探し用の掲示板を見てみたらどうだい?」

「仲間探し用の?」

「ああ、冒険者自身が臨時で仲間を募るための物さ。 そっちには、お気に召すものもあるかもしれないね」

「なるほど。 ありがとう、おばちゃん! 探してみるよ!!」


 女将さんのアドバイスに従い、仲間探し用の掲示板を見てみる事にした。


「ん~、無いなぁ……」

「やっぱり、魔物討伐が多いね~…」

「え~と………これなんか良いのではないでしょうか?」

「いいのあった?」



 求む、護衛要員!


 聖都アルモリアまでの輸送依頼の護衛を募集。


 募集条件:戦闘能力C以上の冒険者が複数人いる少人数のパーティー。


 報酬:一人につき、基本報酬1000(ステラ)+危険報酬(応相談)


 備考:特殊車両での移動となりますので、荷物があまり多いと積み込みきれない場合があります。



 詳しい事は、304号室 フリストフォールまで…




「正しくピッタリな依頼だね!」

「でかした、プリム!」

「先ずは、詳しいお話を聞いてみた方がいいですよね?」

「そうだね。 早速、この”フリストフォール”って人に話を聞きに行ってみようか?」


 まさか、こうまで条件にあう依頼があるとは……

 ともあれ、俺達は依頼主の”フリストフォール”に詳しい話を聞きに三階の彼の部屋まで赴いた。




          ◆




 コンコンッ


 ノックをして待つ事暫し、扉を開けて一人の男が出て来た。


 出て来たのは、俺の身長よりも僅かに高い、長身の細身の男だった。

 プリムよりも色が薄めの金髪でエメラルドグリーンの瞳をしていた。

 一見すると、モデルと言っても通りそうな色男だった。


「フリストフォールさん? ボク達この依頼書を見て来たんだけど…」

「依頼書? ああ、仕事を受けてくれる冒険者の人達だね」

「うん。 詳しい話を聞かせてくれる?」

「立ち話もなんだから部屋にどうぞ」


 フリストフォールに招かれて、俺達は部屋に入った。

 そこは一人部屋な様で、三人部屋の半分ほどの広さしか無く、小さなテーブルと椅子、ベットがある以外はフリストフォールの手荷物があるだけだった。


 部屋の主が椅子に陣取り、プリムとヴィクターがベッドに腰掛ける。 俺は、扉の近くの壁に立ったまま寄りかかった。


「先ずは、自己紹介から…僕は”フリストフォール”。 親しい人達は”フリス”と、僕を呼ぶね。 職業は、冒険者兼”運び屋”」

「ボクは、ヴィクトリア・ロウ。 ヴィクターだよ。 冒険者兼探偵見習い!」

「プリムラです。 プリムと呼んでください」

切原(きりはら) (かい)だ。 カイでいい」


 自己紹介を終えると、フリスはジッと俺達三人を見回した。


「なんか面白い組み合わせだね」

「成り行きって奴だよ」

「なるほど…興味深い」


 何がだ?


「最初に皆の”証明証”を確認させて貰っていいかな?」

「あ、はい」


 フリスは、各々から冒険者証明証を受け取ると、内容を確認する。


「ほぉ…戦闘能力は、カイはC+でプリムがBか。 人は見かけに寄らないものだね。 ヴィクターの方は、戦闘以外は中々だね」

「ボクは、二人の足りない所を補うのが役目だからそれでいいんだよ!」

「ははッ! 確かに、そんな感じだね。 うん、能力的には問題なさそうだ」


 フリスは、満足げに頷くと証明証を返してきた。


「ねね、フリスの証明証も見せてよ?」

「ああ、いいよ」




____________________________________


 氏名:フリストフォール  年齢:27  性別:男


 出身世界:ガラクーチカ


 戦闘能力:D

 世界知識:A

 情報収集:B

 生存能力:B

 個人資質:A+ (科学文明系の車両全般 スターリ・スヴィータ含む)


____________________________________




なるほど、戦闘以外は優秀だな。 しかし、”スターリ・スヴィータ”ってなんだ?


「フリスって、”スターリ”持ってるの!?」

「”スターリ”?」

「”スターリ・スヴィータ”… 終末世界ガラクーチカ製の機甲兵器。 つまりは”ロボット”だな」


 ロボット……デウス・カルケル(このせかい)でその単語を聞く事になるとは……


「”ろぼっと”?? ごめんなさい、何の事だか……」


 流石に魔法文明出身のプリムには分からないか。


「分かりやすく言えば、”人が乗り込んで操る巨大な鎧”だな。 まあ、”スターリ・スヴィータ”は、人の身長の二倍程の大きさだけどね」

「……なるほど」

「プリム、分かったのか?」

「……何と無く……」


 まあ、無理もないか。


「もっとも僕が持っている”スターリ”は、廃棄された機体を修理、改造したもので戦闘能力はほとんど無いけどね。 出力と走破能力を重視して改造したからね」

「まあ、だからこそ護衛が必要なんだろう?」

「うん、その通りだ」


 あれ? いつの間にか、馴染んでる?


「わぁ…ボク”スターリ”って見るの初めてなんだよね! これは受けるしかないよ!!」


 ヴィクターって、割とメカオタクだな。 眼の色が違う……


「フリスさんも話して見た限り、気さくな方みたいですし良いのでは無いでしょうか?」


 まあ、プリムはそう来るよな。


「んじゃ、依頼の方受けさせてもらうよ。 よろしく、フリス」

「こちらこそよろしく、カイ。 ヴィクターと、プリムもね」


 どちらとも無く手を差し出しガッチリと握手をする。

 契約成立だ。


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