何となくミカンが入ってた段ボールを被ってみた。
へい、ちわーッス。
この前バケツ被ってゲロった奴です。
あの後は友達が後始末したけど、俺は朝起きたらベランダで鳥さんおはよう此処ドコデスカ?だったぜ。
まだ夏だったからいいけど、冬だったら凍死してるぜ俺。
しかもゲロロンで汚れたまんまだし。
アイツはさっさと家に帰ってるし。
いや、必死に後始末をしてくれたらしい無惨な光景が広がってたけど。
ただね、扉を開けた瞬間の異臭はハンパなかった。
絶対入りたくないと思い、蚊と格闘しながら一時間はベランダで日光浴していた。
そんなことはどうでもいいんだ。
今はこの安心感に浸ってるのだから。
田舎から送られてきたミカンの箱。
中のミカンは遊びに来た友人に分け与えて、そっと被ってみた。
いやぁ…段ボールいいね!
この段ボールの臭いがめちゃくちゃ落ち着く。
ミカンがめちゃくちゃ入ってたからその臭いも相まって、ううん素晴らしい!
しかもこの広さ!
この大きさ!
この高さ!
この臭い!
この解放感!
いいね!
いいよいいよ!
この傷跡とか田舎を思い出すね!
母ちゃん思い出すね!
ガキの頃に見たミカン畑を思い出すね!
これは明らかにスーパーのミカンだけど!
にしても、何だろう…この安心感。
猫が潜り込む気持ちがわかる。
俺も猫になりたい。
誰か美人なお姉さん可愛がってくれ。
「で、お前は何時までそれを被ってんだ?かれこれ二時間三分はそのままだぞ」
「俺は一生これを被って生きていく」
「あっそ」
隣でモシャモシャミカンを貪ってる友人を無視して余韻に浸る。
あの夏の日。
照り付ける太陽。
ミカン畑の香り。
ばあちゃんのブッサイクな笑顔。
蜂に襲われる俺。
それを眺めて笑う家族。
ゲラゲラゲラゲラ。
ギャハハハギャハハハ。
………。
「アイツらめ…」
「は?」
スッ
両手を段ボールの中にイン。
グッと少しだけ力を込めて厚みを確認。
集中力や童貞力をその手に高める。
「お前…何やらかす気だ?やめろよ?ホントにやめろよ?」
「バルスぁあああああああああああああ!!!」
バッリイイインン!!
「ぶぐぅ!!?」
蜂がトレードマークの段ボールを真っ二つに粉砕。
ついでに友人の顔面に俺の平手が直撃。
中指と薬指が鼻の穴にミラクルヒット。
恐る恐る引き抜くと鼻くそと血が爪を汚した。
うわ、汚い。
手を洗わないと。
「お、まえ…なぁ…ガクッ」
ボタボタと鼻血を垂らす友人を尻目にさっさと台所で手を洗う。
うぇ、爪に詰まってる。
マジで最悪。
アイツ死んだ方がいいって。
てか、何で横に座ってんだよ。
何で大晦日に家でミカン食ってんだよ。
ホモか。
気色悪ぃ。
ガチで死ね。
…てか、アイツコタツに鼻血つけてないよな。
先月買ったばかりのオニューなんだから。
一滴でもついてたら真っ裸で放り出してやる…
「っぎ、ぃやあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!???」
何か死んでる!?
血の水溜まり出来てやがる!!
アイツピクリとも動いてねぇ!!
…んなことより!!
「お前コタツに汚い血を浸すんじゃねぇえええええええええ!!!!」
ガキッ!!
「べぶぅ!!?」
顔面キックで友人をコタツから引き摺り出す。
うげぇ。
靴下にも血がついちまった。
マジなんなんコイツ。
死ね!