掃き溜め
人は決して分かり合えない、だからこそ、人は共通点を求める。
そこは教会のようだった。中は薄暗く、キリスト教の十字架が真ん中にそびえ立ち、神の子は周りを見回すようになっていた。その周りは祈りができる場所となっていて、説教場も存在していた。少女の目はキラキラと輝きながら、はしゃいでいた。
「きれいだな~。あたし、こんな場所知らなかった。ここはなんていう教会なの?」
「聖ジョージ教会さ。さっきのは隠し扉で、ま、悪い奴らを欺くための仕掛けでもあるのさ」
「えーと、ありがとう。名前なんだっけ。そもそも名前教えてもらったかな?」
「俺の名前は山中陽介。君たち流で言えば、ヨースケ・ヤマナカだな」
「へー、日本人なんだ。やっぱりアジア人何だ」
「ああ、そうさ。ところで、君の他は誰もいないのか、ここに」
「あたしの他はみんな、ロンドン地下街にいるわ。でも、みんなここを信じないわ。誰もが疑心暗鬼に陥ってるから」
「で、でもね。マリーは違うわ。あたしの一番の友人だもん。マリーならあたしのこと信じてくれるから、ちょっと行ってくる」
「お、おい。気を付けろよ。もうすぐ夕方だ。奴らに見つかるなよ」
彼女を見送った陽介はあわてて返事をした。
一人になった、陽介は昔を懐かしむように辺りを見回した。教会にいるのに彼の心は決して晴れやかにはならなかった。
(ここだけは変わらない。外は荒れ果てていた。この写真にあった百年前の正門海峡、これが百年前なんて誰が信じるものか。今そこにあった場所は、見る影もなくなった。どう見ても人為的に破壊されてる。あの時、俺たちは破壊していない。だったら、誰がやったのだろうか。ここに住む人々か?それとも奴自身が出向いて破壊したのか?分からないな)
太陽の光がガラスに反射されて眩しく、上を見ながら陽介は考え続けた。
(大体イギリスがこうも破壊されていたなんて、フレンジアにどう説明すればいいんだ。アホな報告すれば絶対に鉄拳が飛んでくる。ケリー、君は今の俺を見たらさぞかし、笑うだろうな。ああ、なんとも最悪だ。しかし、アガメムノン・ミケネか。少し調べてみようかな)
そんなことを思いながら、陽介は一本の柱に手を置いた。手は柱の中に吸い込まれていった。
(アガメムノン・ミケネ・・・こういう男か。なるほどな。で、場所はこんなところにいるのか。ふむ、面白い所に拠点を置いているな)
「あの子の名前聞くのを忘れたな。彼女はまだ戻ってこない。これは捕まったか、マリーを探しに行って説得中かな。俺もロンドン地下街に行ってみるか」
扉から出た陽介はかつて地下鉄のマークがある場所を見つける。その階段を下りて行った。
デパートの地下街よりも汚く、辺りに人が座っていた。それぞれの目は死んでおり、どこか虚無感が感じられた。陽介は白いひげを生やした老人の近くを通り過ぎた。老人は陽介の顔を見ながら、言った。
「あんた、ここの町の人間じゃねぇな。何処のもんだ」
「旅人だよ。俺が生まれた国なんて消えちまったよ」
老人の目はやはり活き活きとした目ではなく、全てを諦めような目だった。
「そうか、もうわしは生きていない。見なさい、この貧弱の体。生きる気力も消え、皮と骨しかないものを。こんな腐った世界を作ったあの大逆罪人を許せん。信じられるか、百年前は、ここは考えられないほど平和で、豊かだった。一体わしら何をしたというのだ」
「町を見れば分かる。人々は皆疑心暗鬼なんだな。吐き気しか湧いてこないよ」
陽介が老人と話していると、遠くの方が騒がしかった。
「一体何があったんじゃ」
「何が起こったんだ」
すると、言葉遊びのように次々と伝言が広がっていく。「マリーがエレンを密告した」「エレンがあいつに攫われた」「もうこれで六回目だぞ。そんなに自分が可愛いかマリーは」「エレンにとって初めての友達なのに」などである。
「またか、ハァー。若者よ、これが今の状態じゃよ」
「・・・(エレンって名前なんだ。エレン、俺も分かるぞ。友人に裏切られるのがどれほど辛いものなのか)ん?何だ、あの集団は」
「すまんと思うが、若者よ。密告させてもらった。わしらも命がおしい」
集団と呼ぶべき存在はあまりにも変な恰好だった。昔KKKという集団があって、その集団のように白い布で覆われていると思いきや、彼らは緑色だった。最初森が動いたかと思うほどだった。その内の一人が陽介に向かって言った。
「我々と来て貰おう、流れ者よ」
「嫌と言ったら?」
「ここで死んでもらうまでだ」
「「全ては緑の王のために!!」」
「そうか・・・」
KKKの緑バージョンってことで、掃き溜めの色ですね。あんなのが目の前にいたら、私なら履くね