イギリス
2011年をモデルにしてます。この年にどれだけのことが起きたのか振り返っても、悪夢しか感じません。
二〇十一年、世界にあった様々な国家は消えた。地球という青く、美しい星は無残にも茶色い塊で、青い海も黒く濁った物になってしまった。世界は一人の男によって崩壊した。伝統、文化、国、人間が誇れるもの全てが消え去った。全ての法律や秩序は混乱し、憲法など死語と化した。世界人口十八億もあったはずが、二〇十一年以降は十億人に減り、約五十年後には五億人にも減ってしまった。これほど人口が減ったのは自然災害でも、第三次世界大戦でも、流行病の蔓延でもない。たった一人の男のせいであった。その男は突然発狂でもしたかのように世界に喧嘩を売った。その国家の文明、文化、全てを否定化するかのように破壊した。
それだけなら単なる国家破壊者である。精神的におかしいから病院にいれられるか、死刑されるかで終わるはずだった。その男はどれだけ銃で撃たれても、ナイフで刺されても、大量出血でも死ななかった。男は次第に狂気に取りつかれ、自らの狂気を満たすために人々を殺し続けた。殺人を常識化した男の元に、思想を共感した同市たちが集まった。彼らは快楽主義者と呼ばれるようになった。
二〇十一年以降、世界は暗黒時代に突入し、千年間、快楽主義者の楽園と呼ばれるようになる。
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二〇百十一年、イギリス、ロンドン。百年後経っても快楽時代は終わらなかった。かつて、ヨーロッパの要として有名だった場所は廃墟と化した。イギリスの象徴であるビックバンは市民に時を告げることなく、唯存在し、時計は全く動くことなく単なる置物になっていた。その場所に住む人々は生きる気力を失い、英国の誇りも埃と同様に消え去っていった。そこに一人の男が歩いていた。その男はアジア系の顔をしていて、髪は黒髪で短め、全身は真っ黒なコートで身を隠していた。
「ここに来るのも、ロンドン大虐殺以来だな。やはり、世界は変わらなかった」
小さく呟いた彼は、その声に悲しみを感じさせるようでもあった。男は当たりを見回し、周辺をうろついた。どこも壁は瓦礫であり、ペンキは剥がれ落ち、ロンドンの町はなかった。貧民街よりも酷い有様である。小便の臭いも犬の糞の臭いも、死臭の臭いもない。だが、人の気配が全くしなかった。男が何処へともなく歩いていると、何かを見つける。
「ん、あそこに誰かいる。まだこの町に生きてる人がいるのか。少し会ってみるか」
そう呟きながら、その人に近づいていった。
“Hey, you!! What are you doing here? Where are your parents?”
(おい、君!ここで何をしている。君の両親はどこにいる?)
男の英語はイギリス英語とはかけ離れた発音だった。しかし、彼の発音はアジア特有の発音でもなく、昔あったアメリカという国の発音に近かった。
“Go away!! You came here to rape me, right? I believe that you are the member of that guy”
(来ないで、あなたも私を犯しに来たのでしょう?あの男の仲間何でしょう?)
鋭く小さな声で、年齢的に言えば小学生にも満たないものだった。男に強烈な拒絶反応を示した。男はちょっとびっくりしながらも、冷静に彼女に話しかけた。
(以下日本語に訳したものです)
「おいおい、俺は子供を犯す趣味は無いぜ。ところであの男ってのは誰だ」
「あの男を知らないの?この町なら誰でも知っているわ。あの大逆罪人の忠実な部下、欲望に忠実で、自分以外は餌としか考えていないわ」
「知らないな。俺の友人にイギリス人はいない。俺がイギリス人に見えるか?」
彼女は男を見据えながら、独り言のように言葉を口にした。
「アジア系?で、でもどうみてもあの大逆罪人に似ている。まさか、あの男の差し金かな」
それを聞いた男は慌てて、女の子に言った。
「おいおい、ちょっと待ってくれ。俺はその男を知らないって言ったぜ。俺は当てもなく気ままに旅をしている旅人だ。お前が言う、あの男っての誰だ」
彼女は震えていた。その名前を出したいが彼女にとって恐怖そのものであるかのようだった。
「名前を言ってくれないと、わからないぜ」
「・・・ガメ・・」
「ん?なんだって?」
「アガメムノン・ミケネ」
その名前を言った直後、彼女は全身震えていた。その名前を口にしたことで声も呼吸も消えそうだった。
男は遠くを見つめて考えた。
(あいつじゃないのか。あいつは俺が何処にいるのかも分かりはしないし、それにアガメムノンなんて、ギリシャ人みたいな奴知らないぞ)
「両親はどうした。まさか、孤児かな?それにこんな所にいるということは、その男に犯される心配があるぞ」
率直な疑問を彼女にぶつけた。彼女の年齢でこんな場所にいることが不思議だったからだ。
「両親・・・グスン・・・私は犯されて出来た子供だから、何処にいるかわからない」
小さな瞳から大粒の涙が頬に流れる。彼女の雰囲気に慌てた、男は急いで彼女を慰め始めた。
「す、すまん。野暮な質問をしてしまった。俺が悪かった、だから泣くな。どうだ、少し歩かないか、こんな廃墟にいても気分が悪いだろう」
「そういいながら、私を犯す気ね」
「いや、だから、俺はそういう趣味ないって」
そのちょっとの間に笑いが生んだ。彼女にあった緊張感はどこへともなく消え去った。
「うふふふ。ごめんなさい。でも何処へ行っても廃墟よ。あ、あたしがここにいたのは、あの男とその配下も夕方ごろにこの町に来て、人狩りをするの」
「人狩りか、趣味が悪いな。だったら俺のとっておきな場所に連れてってやる」
「どんな場所?きれいな所なの」
「見た人によって意見は変わるな。俺は綺麗だと思うけど、一回友人たちと来たときはそれぞれ違った反応だったな」
男はかつての記憶を探りながら、遠く昔の日々を思い出していた。男と少女は当たり障りのない事柄を話し合っていた。少女にとって外の情報は夢のようなものであったからだ。彼女はしきり他の国について聞きたがった。しかし、男はなんとも言えずにいた。彼が見てきた国というものは全てイギリスと同じようなものだったからだ。人々の目から生きる気力は消え、他人を平気で裏切り、殺人も平気で理由もなく殺していたからだ。少女の考える夢とは大きく異なっていた。
「イギリスも終わってしまったか」
消えるような声で言った言葉に少女も反応した。
「ええ、終わりよ。もう私たちイギリス人は何もかも失った。だからあたしはイギリス人じゃないのかもしれないわ」
しかし、男は強く少女に言った。
「違う。イギリスという国は確かに終わった。政府自体消え去ったから仕方がない。だけどまだ君たちイギリス人は生きている。この国がかつてイギリスだといわれていただけで、人は生き残っている。だからイギリス人はイギリス人だ。国の名前が変わろうとも、君たちはイギリス人なんだよ」
「そうかな?」
首をかしげた少女を見ながら男は目的地までついた。廃墟であったが、何かのビルのようなものだった。彼女はキョロキョロと辺りを見回しながら、不思議に思っていた。彼女が何回もここを通っていたからだ。
「ここ?あたしはここに何回も来たことあるけど、別に綺麗なところじゃないよ」
男は黙って、壁に手を置いた。突如、男の手が壁の一部に沈み込み、ガコンという音共に壁だったところの一部が扉へと変化した。
「何これ?知らなかった。こんな仕掛けがあったなんて」
「どうだ?君はここを知っているかな?」
男は少し誇らしげに扉を開いた。
英語・・・こんなんだっけ?




