閉店間近
雨で少し濡れた肩が冷たかった。畳んだ傘を無造作に投げると、場違いに軽快な音をたてながら自動ドアが開く。色褪せたゲーム機が点在する店内に人の姿は無かった。光と音楽だけが空回りしている店内をゆっくり歩きながら昔と変わらない映像が流れる画面を眺めていた。すると奥に人影があった。思わず足を止めると、その顔には見覚えがあった。
「よう、咲良。奇遇だな。」
彼女の顔を直視できず、視線のやり場に困る。お互い何も喋らない。やがて彼女がゆっくりと口を開く。
「久しぶり、優斗。」
なにか喋ろうとするが、上手く言葉が出てこない。
「今日でこの店閉店って知ってさ。ほら、色々思い出あるだろ?」
やっとの思いで絞り出した声は、か細く、すぐ消えてしまいそうだった。咲良と一緒にクレーンゲームでお金をつぎ込んだこと、レースゲームで手を抜いたら怒られたこと。頭の奥に閉じ込めてあった記憶がとめどなく溢れてきた。
「思い出、ね。そうだね。」
咲良は微笑んでそう言った。
「あのさ!咲良!」
大きな声が店内に反響して、自分でもビックリする。
「あの人生最大の過ち、まだ許して貰えない……かな?」
彼女の顔から笑みが消えた。外で降る雨の音だけが鼓膜に届く。いきなり彼女が手を振りあげ、思わず後ずさり目を背けた。頬に何の痛みも感じないことを不思議に思い彼女を見ると、左手の薬指には鈍く光るものがあった。
「会えてよかった、さようなら。」
そう言うと彼女は一度も振り返ることなく、店を後にした。やがて人の居ない店内に響いていた足音が消えた。俺は傘を手に取ることなく、彼女の後を追いかけるように土砂降りの中走り出した。




