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第6話 大切なこと

冬の気配が滲みはじめた放課後。

校舎を出た美智と峻は、並んで歩いていた。


美智の手が、峻の手にふれる。

峻が軽く握り返す。まだ少しぎこちない繋ぎ方。


「……なんだか、不思議だね」


美智がぽつりと呟くと、峻は照れくさそうに笑った。


「俺も。昨日まで、こんなふうになるなんて思ってなかった」


そのとき、不意に後ろから声が飛んでくる。


「はいはい、お二人さん。奇襲攻撃、大・成・功ってわけね」


腕を組み、にやりと笑う史織が立っていた。


「ちょっと! そんな大きな声で言わないで!」


美智は慌てて抗議し、顔を真っ赤にする。


「奇襲攻撃?」


峻が首をかしげる。


「結局は、着飾った美智じゃなく、素の美智が勝ったって訳ね」


美智は恥ずかしさに俯く。


「最後に、二人に大切なことを教えてあげるわ。

将軍にも恋愛にも必要なことは、『智・信・仁・勇・厳』よ」


「将軍?」


峻は、不思議そうに聞き返す。


「この子、ちょっと変わってるの。気にしないで、あははっ」


美智は、笑ってごまかす。


「理解、信頼、思いやり、勇気、そして時には厳しさ。

これさえ守れば、大抵の恋愛はうまくいくわ」


史織は得意満面で言い放った。


「へえ……」


峻が変に感心して頷く。


「じゃあ、お二人さん、仲良くね」


「ありがとう、史織」


美智は、去っていく背中を見送りながら、小さな声で呟いた。




***




「何か言った?」


峻が、美智の顔を覗き込む。


「……ごめん。実は史織に色々、相談していたんだ。デートの作戦とか」


峻は一瞬きょとんとしたあと、可笑しそうに笑った。


「そうなんだ。でも、そのおかげでみっちゃんと付き合うことができた」


峻が、離れていた手を握り直した。

今度は、確かに。


「本当のみっちゃんのことを知れたし、俺は、それが一番嬉しい」


穏やかな声だった。

その声を聞きながら、美智は胸の奥に静かな温もりを感じていた。


夕陽が校舎を朱に染め、二人の影が、グラウンドの上に長く伸びる。


もう、完璧でいる必要はない。

臆病で、不器用で、見栄っ張りな自分でも。

ありのままの自分を、峻は否定しなかった。


ふと、観覧車のハートマークが脳裏をよぎる。

あのとき、欠けていた光。


今はきっと、もう途切れていない。


美智は小さく微笑み、隣を歩く峻の横顔を見つめた。


こうして、二人の物語は新しい季節へと歩き出す。


(第1篇 始計篇 完)



第1篇 始計篇 あとがき


孫子の『始計篇』は、戦う前に勝敗の流れを見極めよ、と説きます。

けれど、恋における「計」は、相手を打ち負かすためのものではありません。


恋は、好きな人を「もっと知りたい」という願いから始まり、

自分を「もっと知ってほしい」という勇気へと進んでいく。


――それこそが、恋の始計なのだと思います。


完璧な仮面を被った美智の計算は、結果として崩れました。

けれど、その崩壊こそが、本当の想いへ踏み出すための「準備」でもありました。


恋は準備から始まります。ですが、準備だけでは届かない場所がある。


この物語が、あなた自身の恋の「最初の一歩」を踏み出す、

ささやかなきっかけになれば幸いです。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

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