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02 朝の約束
パン屋の名前は「朝の約束」といった。
ヴィクトルが扉を開けると、カウンターの向こうで少女が振り向いた。十六か、十七か。粉で白くなったエプロン。頬は竈の熱で赤く染まっている。
「いらっしゃいませ。すみません、まだ焼きあがっていないんです。でもよければ、待っていてください」
「なぜこんな時間に」彼は訊いた。
「朝一番のお客さんに、焼きたてを届けたいんです。冷めたパンなんて、パンじゃないですから」
少女がカップを持ってきた。
「私、エマっていいます。お客さん、お名前は?」
「ヴィクトル」
「珍しい名前ですね。どこから来たんですか?」
ヴィクトルはカップを見つめた。「とても、遠くから」




