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獣人族と人族

「見てよ、ノア兄ちゃん!ちゃんと人間に化けれてるだろ!」

 そう言って10歳になったばかりの子供たちは、練習していた変化の成果を村の皆に披露して回っていた。

「ああ、上手に変化できているな。よく頑張ったな」

 僕はそう言って子供たちの頭を順番に撫でていった。子供たちは満足したのか次の村人の元へ報告しに行った。

 僕が住むここは獣人族が暮らしている小さな村だ。この国には獣人族と人族が存在しており、昔は半々くらいの割合だったそうで、人族とともに同じ街でくらしていた。しかし、今は人族に見つからないように身を潜めて暮らしている。その訳は先の大戦での出来事だった。

 獣人族は獣の姿と人族に似た姿になれる特別な存在だ。そして人族と比べて身体能力が高く、体格も種族によっては人族よりも恵まれていた。

それ故に、この国では獣人族を戦士として雇い、戦いに駆り出していた。そして先の大戦でも獣人族は多く駆り出されたが、相手国の罠にはまってしまい大半が亡くなってしまった。

 このことを嘆いた獣人族の長は、これ以上同胞が死ぬのを避けるためにも国の戦いに関与しないと人族の国王と誓いを交わしたのだが人族の反発は大きく、結果人族の街では暮らせなくなった為国の端っこに隠れるように暮らすことになったのだ。

 その後人族は数少ない獣人族を密猟して貴族たちに売る者や、獣人族のことを恨んで殺害する者がでてきた。

 そのため、獣人族は昔から人族の姿に完璧に変化する特別な技を持っていたのだが、それを10歳になるまでに必ず習得させるように義務付けた。そうして変化を習得したものは、人族に紛れてお金を稼ぎ村に住む者たちの生活を支えている。

 なかにはいくら練習しても完全に変化できない者もおり、そういった者は村で子供たちの世話や農作業をしている。僕もそのひとりだった。獣人族特有の瞳や牙や爪は隠せても、なぜか必ず耳と尻尾が出てしまうのだ。

 僕はこの先も村から出られないが今の村での生活を十分満喫していた。




 翌日、朝早くに目が覚めたので村の周りを散歩していると、なにやら子供たちが数人集まりどこかに出かける姿が見えた。いつもは、村の近くの森で木の実を摘むのだがなぜか別の方角へ向かっていた。

 心配になり後を追うと、人族の住む街が見えてきた。僕は変化できなかったため、人族の街がどこにあるのか正確に把握しておらず、直接見える距離に来てようやく人族の街だと気が付いた。

 よく見るとこの子たちは昨日変化を習得したことを披露してくれていた子供たちだった。しかし、耳や尻尾を覗かせてまだ変化が完璧ではない子もいた。

(森を出る前に止めないと‼)

 僕は急いで子とも達を追いかけ、なんとか人族の街へ入る前に子供たちを捕獲した。

「お前たち!まだ外に出る許可をもらっていないのに抜け出したな。人族に見つかればどうなるか知っているだろう‼」

 あまり怒るのが得意ではないが、こればかりは命に関わることなので見過ごすことができなかった。

「「「――ごめんなさい」」」

 子供たちは僕の前に一列に並び、泣きながら必死に謝る。どうやら、働きに出ている家族に会いたかったようだ。親と離れ離れになっている子供たちも多く、少し同情した。

 子供たちを慰めながら帰っていると、後ろから数人の足音が聞こえてきた。こちらが足を止めるとピタリと足音も止まった。嫌な予感がしたので、子供たちに村まで走って逃げるように指示を出す。

 茂みから覆面姿の人族の男が三人現れる。

「ちっ、ガキの獣人逃しちまったじゃねーか」

「まあまあ、一匹いるからこいつさえ捕まえればいいさ」

「そうそう、最近なかなか捕まえれなくなったから、高く売れるぜ」

 そう言うと、男たちはじわじわと近づきながら僕を取り囲んでいく。隙を見て僕は村とは反対の方向に入りだす。しかし、生まれてきてからずっと村の中でしか過ごしていない僕の体力は限られており、あっけなく捕えられてしまった。

 どうにかして逃げようと必死に抵抗していると、どこからか筒のようなものこちらに投げられた。すると火花を上げながら煙が辺り一面に充満していった。僕を捕えていた男たちはパタリと倒れ込んでいった。その隙に逃げようと立ち上がるも、煙を吸い込んでしまい視界が途切れる。




目を覚ますと目の前には見知らぬ天井が広がっていた。

(どこだなんだここは。僕はいったい――)

 曖昧になっていた記憶をなんとか、思い出す。たしか、森で人族に掴まって――。

「そうだ。変な煙を吸って倒れたんだった」

 手をぐっぱと動かし、痺れや違和感が残っていないことに安心する。どうやら心優しい誰かが助けてくれて、こうしてベッドに寝かせてくれたようだ。

 そうこうしていると扉が開かれ、筋肉質な大男が入って来た。

 目の前に人族が現れたことに驚き急いでベッドから飛び降りて、近くの棚に置いてあった花瓶を手に取る。武器にするには申し分ない重量の花瓶を男の前でかまえる。

 男は灰色の短い髪に水色の瞳をしており、まだ肌寒いにも関わらずタンクトップを着ていた。肌にはいくつもの切られた痕が残っていた。体格や切られた痕からしてこの男は戦闘経験が豊富だと推測する。

 とうてい勝てそうもない相手に、僕は必死に思考をめぐらす。

(窓から逃げるとしても僕の足じゃ到底逃げ切れない。相手の目を潰すか……いやでも、近づいて掴まりでもしたら――)

「そんなに怯えなくてもいい。俺はお前をどうこうするつもりはない」

「嘘だね。人族は僕らを捕まえて売り払う極悪人なんだ。そんな言葉で騙されると思うなよ」

 男は手を上げて敵意がないことを示そうとしているみたいだが、僕は警戒を解かなかった。

「そう思われるのも仕方がないな」

 そう言うと男は部屋の隅に置かれていた椅子に腰かける。

「まだ身体が怠いだろ。眠り薬を吸い込んだせいだからだ。身体に害はないものだから安心しろ」

「あの時の煙はお前の仕業だったのか。どうしてあんなことをしたんだ。僕を捕まえるためか?助けて恩を売るためか?」

「どれも違う。お前たちにあの場を踏み割らされると困るからだ。あそこには貴重な薬草がたくさん自生しているんだ。俺は薬師をしている」

 男からの予想外の回答に僕は混乱する。

 僕を捕まえるためでも助けるためでもなく、ただ薬草を守るためだったとは。

たしかに男の行動を振り返ると、納得がいった。僕を捕まえるもしくは助けて恩を売るなら、他の人族をその場で殺した方がこの大男にとっては手っ取り早いだろう。

「僕を捕まえようとしてた人族はどこにやった?」

「あぁ、あいつらは適当に森の外に放り出しておいた。人が通る道だから、だれかに起こしてもらえるだろう」

 あの男ら三人を森の外まで運び出したのか。この大男ほどではないが、それなりに体格が大きかったはずだが、この大男にとっては造作もないことなのだろうか。僕はますますこの男に警戒心を抱く。

「じゃ、じゃあなんで僕をこんな場所に連れてきたんだ?」

 動揺しながらも、必死に自分の置かれた状況を理解しようと質問する。

「それは獣人族の村がどこら辺にあるのか知らなかったからだ。とりあえず他の人族に見つからないように、俺の住んでるこの山小屋に連れて帰ったんだ。さっきも言ったが俺は獣人族だからといってどうこうするつもりはない。ただ静かに暮らしたいんだ」

 男は僕の目を見て真剣な表情で話す。

 どうやらこと男は本当に獣人族である僕をどうこうするつもりはないらしい。

 僕を捕えるためなら手足を拘束して、逃げられないようにするのが普通だろうと今になって気づく。

「――疑って悪かった」

 僕は男に対する無礼な態度に反省して謝る。

「問題ない。実際獣人族を捕まえようとしてる人間いるのは事実だからな」

 男はそう言うと椅子から立ち上がり、部屋を出ようと扉を開ける。

「どこにいくんだ?」

「腹減ってるだろ。用意してくるから、少しの間ベッドに横になっておけ」

 そう言う男は無表情ながらも少し優しい雰囲気に感じられた。

男が部屋を出ていき緊張が解け、僕はそのまま床に座り込んだ。

(よかった。生きてる――)

 一息つくと急に眠気が襲ってきた。少しこのまま休憩しようとベッドに寄りかかり、目を閉じた。


続きます!

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