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第3話 天界十二柱 女神アンドロメダ

 眩しい光に包まれながら、サンタは目を開けた。


 視界に広がるのは、真っ白な世界。影も音もない。

ただ、柔らかな風だけが静かに流れていた。


「……んっ、ここは?   俺、天国行っちゃった系?」


 隣で腕を組む光輝くマッチョな男がため息をつく。

 そう、彼こそ天界軍の大隊長――天使長ミカエル。

「天国ではなく、天界だ。しかも“中枢”にある謁見の間だぞ。我が連れてきてやったことをもう忘れたのか!?」


「あっ! そういえば手とか繋いじゃったけど、まさか! 俺を手篭めにする気なんじゃあ・・・」


「そんなことするかあーー!!」


▽ ▼ ▽ ▼ ▽


 サンタは初めて、天界門(ヘブンズゲート)の“内側”に足を踏み入れた。


 天界門(ヘブンズゲート)は神々以外の者を通さない聖なる絶対結界である。


 本来、半神である彼には、決して入ることができない場所だが、ミカエルのテレポートによって特別に許可を得た。


「初めて入れたけど……なんか意外と地味だな」


「地味とは何事だ!」


「だって、随分と殺風景だからあ」


「いいか、今回お前は特別にここへ入ることを許されたのだ。キョロキョロせず、姿勢を正して静かにしておれ」


 ミカエルが頭を抱えている間に、ふわりと光が満ちた。


 清らかで柔らかな光が集まり、やがてその中心からひとりの女神が姿を現した。

 白銀の柔らかな衣装に身を包み、長く煌びやかな金色の髪の毛に可憐な顔立ち。 

 そして完璧すぎる微笑み。そこに顕現しただけで空気が変わる圧倒的なオーラ。


「……えっ! めっちゃ美人出てきた。俺のタイプだぜ」


「口を慎め! あのお方は天界十二柱のひとり、“アンドロメダ”様だぞ!」

サンタを軽く小突いたミカエルは、片膝をついて恭しく(こうべ)を垂れた。


(おもて)を上げなさい、ミカエル」


 女神は、立ち上がって再び敬礼するミカエルを一瞥すると、徐にサンタに訊ねる。


「我は天界十二柱がひとり、“隣のお姉さん”的女神と謳われるアンドロメダである。其方(そなた)が半分存在を消されてしまったという半神の少年であるか?」


「隣のお姉さん?? ってことは、あの思春期の青少年達を(たら)し込んではダメ人間に落とし入れてしまうというあの有名な・・・!? 」


「誰がエッチなお姉さんだっちゅーーの! それよりも、我の話を聞いておるのか? 其方は幻魔に半分存在を消された少年なのかな? と訊ねておるのだ」


「あっ、それは失礼しました。そうです! あっ、俺はサンタっていいます。正直自分では存在が半分という実感はないんです。だけど、このままだと仕事に支障が出るから困ってるんすよ。お姉さんの持ち前のエッチな力で何とかならないですかねー?」


「エッチな力とな?  其方、何故にそれを.........ふっふっふ、それについては、またの機会にみっちり、ムッチリと教えてやろうぞ。しかしのう、被害者の其方を元通りにしてあげたいのは山々なのだが、我が力だけではそれを叶えるのが困難なのじゃよ」


 下ネタには多少なりの理解がありそうな女神が、身も蓋も無いことを伝える。


「ええ〜〜! そんな殺生なー! 突然出てきてNGを突きつけるなんて、あんたそれでも神なのかよ!」


「こらっ! 先程から女神様に向かってなんて失礼なことを言うのだ。口を慎め!!」

後ろに控えていたミカエルが慌ててサンタを叱咤する。


「だって、神様なのに元に戻せないなんてひどい話じゃあないか! これじゃあ本当に神様なのかどうか疑わしくなるでしょーが。実はただのエロいお姉さんなんじゃあないのかな? とかさー。まあ、それはそれで嬉しくもあるんだけど」


「お前はまだ言うのか!! 口を慎め、馬鹿者が!!」


ミカエルの怒りが強くなるが、それを遮るように女神が口を開く。


「善いのじゃ、ミカエル。この半神の少年を元に戻す方法が全くない訳ではない。我は“隣のお姉さん”的女神じゃからなあ! どうだ少年、期待してしまうだろ~!」


「えっ! ホントっすか? なーんだ、俺はもうてっきりいろいろダメかと思っちゃったよ。方法があるならあると早く言ってくれよー、もう焦らすのが上手いなあ」


「焦らされるのがよほど好きと見えるのお〜、善し善し、では、その方法を教えてあげましょう。但し、その方法が其方にとって最善といえるのかどうかはわかりませんよ」


「こんな状態だからな、それに賭けるしかないぜ! よろしくお願いしまーす!」


 女神は優しいオーラを放ちながらその方法を告げる。


「不届きなナイトメア・メーカーによって其方の存在が半分消滅したのであれば、逆にその幻魔衆ナイトメア・メーカーを消滅させるしかない。其方の半分の存在は恐らく消滅したというより、魔界のエネルギー源としてダークマターにでも吸収されてしまったのであろう。だから、その吸収されてしまった生体エネルギーを取り返しに行けば良いのじゃ」


「う〜ん、要するに、俺の存在を取り戻すことは可能ってことだな! やってやるぜ、女神様! で、そのダークなんとかってのはどこにあるんだい?」


「うむ。それはだな、魔界の王ルシフェルの統治エリアのどこかであろうな!  とにかく、ルシフェルの野望を打ち壊すことが出来れば其方の存在は元に戻るはずじゃ」


 女神は偉そうな割には、詳しい場所までは特定できていなかった。しかも偉そうに語った方法は、自分で何とかしろと言わんばかりの無茶な方法である。


「魔界の王っすか?……そいつの野望を……俺がっすか?  いやいや、冗談キツイっすよ! いくら俺が地元じゃ負け知らずの韋駄天だからって、それはないでしょー」


「冗談などではないぞ!  まあ、嫌なら無理にとは言わんが、其方が本来の存在に戻るにはそれしか方法がないということなのじゃよ」


 女神の無茶振りに、単純で単細胞、更に生まれついてのスーパー・ポジティブな性質のサンタは迷わず即決する。


「だったら仕方ないぜ。俺が魔界の王って野郎をブっ飛ばすしかないんだろう。んじゃあ、男らしくビシッっと覚悟を決めてやってやろうじゃあないの!」


 サンタの色良い返答を聞いた女神はご満悦の表情でミカエルに目線を移す。


「よろしい! では、ミカエルよ、この少年をそなたのドリーム・クラッシャー部隊に編入させなさい!」


「御意!」


「それから半神の少年よ! 私の加護を授けます。きっと其方の助けとなるでしょう」


 女神アンドロメダは、そう告げると唇に両手をあててサンタへ投げキッスを決め、更におまけとばかりにウインクをひとつ与えた。


「おおーーっ! やっぱりエロいお姉さん女神だけのことはあるなー、なんて心地良くて清々しくて、幸せな気分なんだろう」


 優しく柔らかな光がサンタの全身を包み込んで、“女神の加護”が付与された。


「おおぉ・・・なんか力が漲ってくるぜー! やってやるっすよ、お姉さ……いや、女神様!」


「“お姉さん”で構わぬぞ」


「えっ、マジで!?・・・・・好きです」


「調子に乗るなっ!!!」


 天界が軽く震えた。


 サンタはミカエルに向き直って問いかける。


「眩しいおっさーん、ところでそのドリームなんちゃらっていう、ぶたい(・・・)ってやつだけど、劇とか歌ったりとかする舞台(・・)ってやつなんだろう!?  喜劇とか笑えるやつだといいなあ! 『しむ◯、後ろーー!!』とか叫んだりしたいよなー。あれ叫ぶの、憧れていたんだよなぁ、俺ってばさあ」


「…………………………………」


 ミカエルは返す言葉を失った。


 当然のことだが、サンタはドリームクラッシャー部隊を知っているわけがなかった。


 サンタのボケを微笑みながら見守るアンドロメダは直感していた。

 彼が、もう半分の存在を取り入れる(・・・・・)日が近いことを。


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