第1話 聖夜に悪夢かよ
聖夜と呼ばれる降誕祭前夜。
この日は“運び屋”にとって一番の稼ぎ時。当然、一年で最も忙しい夜。
“運び屋”として、天界からの贈り物やお告げを人々に届けるのが主な仕事。
その“運び屋”を生業とするひとりの少年がいた。
少年の名は、サンタ・クルーズ。天界と下界を行き来できる半神、つまり天界人と下界の人間のハーフである。
サンタは赤いライダースに身を包み、運び屋仲間からは“韋駄天”と異名をとるスピードキング。
今宵、満天の星と白い月明かりが聖なる夜を照らす中、愛車フライングモービルを操り、星を渡り、月夜を駆け抜けていた。
降誕祭は、遥か昔に人々が崇める神の子が、満点の星空の下に降誕した日を祝して、毎年感謝の祈りを捧げる祭事であり、下界に暮らす人々にとっては特別な聖なる日である。
そして、その前夜である聖夜は厳かに神への祈りを捧げる習わしであるが、現在では家族、友人、知人、恋人と共に日常を忘れて生きる喜びを分かち合い、神に感謝して祝いの宴を催す一夜でもある。
サンタは、手元のリストで今夜最後の届け先を確認する。
「今夜最後の受取人は.....ジョン・ウーン? 名前からしてちょっと怪しそうだな」
人間と神のハーフである特殊な人体構造を持つサンタだから可能な能力。人間モードの時には普通に人々と触れあえるし、もちろん会話もできる。
逆に神モードになれば、普通の人間にはサンタの存在を認識出来ない。
それを自在にコントロール出来る特殊な存在である。
ジョン・ウーンという人物に届けるのは、天界からの贈り物。
「ジョンさーん、お届け物ですよー! なーんてね。普通の人間は、今の俺の姿も声も認識出来ないんだよな〜」
だが、このジョンは、歪な夢を持った非望因子であった。
つまり、既にナイトメア・メーカーに操られていた。そのため、サンタの存在をはっきりと認識出来ていた。
ジョンは届けられたブツを素早く手に取って、サンタの背後に立っている。
サンタが届けた贈り物―――――。
それは、歪な夢を『非望』へと素早く昇華させるための魔界のレアドリンク“スゴイナージュース”、略して“スゴジュウ”という悪夢の強壮剤であった。
「これがそうか......これさえ飲めば、夢が叶うのだ」
ジョンは、いかにも凄そうな名前のドリンクを一気に飲み干す。
“スゴジュウ”の効力で、黒い霧が全身を包み込み、皮膚の下で筋肉が蠢き、瞳には“非望”の鈍い光が宿る。
ついにジョン・ウーンは非望を完成させた。それは、ナイトメア・メーカーに付け込まれ“悪魔の家畜”に成り下がった瞬間であった。
「ぐわはははははあ、これで俺は世界の支配者になれるぞぉぉ!」
サンタは天界人に化けていた魔人に騙されて、途轍も無いブツを届けてしまったのである。
さらに騙された挙句、自分の身までも危険に晒してしまう。
非望を宿したジョン・ウーンは一気にパワーアップしていた。そして、己の力を試したい衝動が顕になる。
「先ずは、手始めにあの運び屋にこの力を試してやろう。俺の力がこいつら天界人にも通用すれば怖いものは何もなくなるぞぉぉぉ」
非望を昇華させたジョン・ウーンの身体から発せられた黒い霧がサンタの背後を襲う。
サンタは背後から不意打ちを食らい、もんどり打って倒れてしまう。
ジョンの夢の中に巣食うナイトメア・メーカーが非望をダークマターへと昇華させたことで、非望因子であるジョンは、完全にナイトメア・メーカーのマリオネット状態になっている。
「素晴らしい! 力が漲ってくるのがわかるぞぉぉ、もう一発喰らうがいいーぃ!」
倒れ込んだサンタの溝落にドス黒い闇の掌底を打ち据えた。
「ウゲーーーッ、ゲホッ、なんだよ、こいつ、デリバリー業者にこんな扱いひどくねえかぁ」
ダメ押しの掌底を食らったサンタの身体から金色に光る生気が、まるでガスが漏れ出すように漏れ出している。
「おやぁぁ? お前の気の量はえらく少ないようだな〜。次の一撃で完全に消滅させてやるぞ、消えて無くなれー!!」
ジョンを操るナイトメア・メーカーが、トドメの一撃を加えようと再度掌底を打ち据える。
あわやサンタの存在が完全消滅と思われた。
その時!――――
サンタの頭上から流星のような二筋の光の柱が降り注ぐ。
「うぉ〜、なんだあ? この気色の悪い光は、まさかああああ.........」
「間一髪だな」
眩い光と共に現れたのは、輝く黄金の翼を持つ天使長――ミカエルだった。
更にその背後から静かに現れたもうひとりの夢幻戦士。
銀髪……無表情……無言、そして――静寂の圧。
……この戦士こそが、ドリーム・クラッシャー。
次の瞬間、彼は一言も発さず、光を纏った剣を振り下ろす。
ジョンの身体が内側から破裂した。
――“クラッシュ・アウト!!”
光の粒子となって消えてゆくジョンの非望。
命拾いしたサンタは、消えてゆくジョンを見つめながら呆然と呟いた。
「な、なんだ今の……人間技じゃあねえ……あっ、天界人か」
サンタの能天気な発言には全く触れずに、ミカエルが静かに言葉を落とす。
「“夢を打ち砕く者”――ドリーム・クラッシャー見参」




