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蓮美のメンテナンス①

大熊邸を出た俺は再び車に乗り、次の仕事に向かっていた。


車に搭載されたAIに90年代のテクノを流してもらい、俺は大熊の話について考えていた。


大熊がくれた3日の猶予はきっと無駄になる。俺がプロジェクトに参加することはない。その事実が変わることはない。そう割り切っているはずなのに、挑戦の誘惑は俺を逃がしてくれない。


別のことを考えようと俺は目を閉じた。運転中にこんなことができるのも、3年前ようやく自動運転のレベル5が日本の公道に導入されたからだ。


特定の条件下でのみドライバーレス走行を可能にするレベル4と違い、レベル5はどんな場所、時間、天候でもドライバーレス走行を可能にする必要がある。2030年代の実現は難しいと言われていた第5段階は通信技術の発達によってめでたく8年前の2035年に達成された。


だが、道路への通信インフラ整備に手間取った以上に法整備にあまりにも時間がかかった。


世界に誇る日本の自動車メーカーは決してレベル5の実現が遅れていたわけではなかった。しかし、レベル5を導入するための法の立案は遅々として進まず、結局導入は他の国に大きく後れを取った。


政治家を責める気はない。完全自動運転の車が事故を起こした時誰が責任を負うのか、自動運転車を国民にどう信頼してもらうかなど、慎重に議論するべき問題は多い。だからこそ導入が遅れるのも分かる。


だがそれ以上に、新技術への臆病さが隠れているように感じてしまう。これも、デミヒューマンの暴走のせいだろうか。


そんなことを考えるうち、目的地に着いた。そこも品の良さが感じられる綺麗な家だったが、大熊邸を見た後だとどうにも小さく見えてしまう。


インターホンを押し、カメラから見えるように立つと、しばらくして家の中からドタドタと音が聞こえてきた。そしてガチャッ、と勢いよく玄関のドアが開き、


「おじさん久しぶり!」


制服を着た少女が飛び出してきた。半袖からは、俺が作った左腕が見えている。


「久しぶり、蓮美はすみちゃん。また大きくなったね」


「分かる? 去年から3cmも伸びたんだ!」


嬉しそうに話す黒髪の少女に連れられ、俺は家の中に入った。そのままリビングに通されると、整理整頓が行き届いた部屋の壁際に黒いアップライトピアノがあった。クロスが敷かれたピアノの屋根の上には、メトロノームと数冊の楽譜本が置かれている。


「親御さんはお仕事かな?」


そう問うと、蓮美はうん、と答えた。どうやら急な予定が入ったらしく、1時間後に帰ってくるそうだ。俺の事を信用してくれているのは嬉しいが、少々不用心じゃないだろうか。


「じゃあ、ちょっと左腕を見せてくれるかな」


そう言いながら、俺は工具鞄を床に置いて必要な道具を取り出した。蓮美はピアノの前の椅子に腰かけ、左腕を差し出してきた。


ちょっとでも可愛いデザインにしようと思い薄ピンクに塗装したメタリックな義手。作った時は名案だと思ったが、この年頃の子にピンクは子供っぽいだろうか。


義手を触り、持ち上げたり軽く回転させたりして軋みやがたつき、引っかかりがないかを確認する。


子供は激しく動くことが多く、特に蓮美はピアニストを目指しているので演奏に支障がないようメンテナンスを1年に1回にしている。ただ、俺の義足はそう簡単に故障するようには作っていないので、ほとんど不具合はなかった。


「今日は義手外さなくていいの?」


「見たところ直すところもほとんど無さそうだしね。どこか気になるところはある?」


そう答えながら、いくつか見つけた摩耗部分と小さながたつき部分の修理に取りかかる。こうして直していると、どうしても蓮美と初めて会った時のことを思い出してしまう。

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