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大熊との出会い②

「何を言ってるんですか」


あまりに衝撃的な提案すぎて、俺は呆れを隠すことも忘れて聞き返した。


「私は本気だよ、片西君。すでにメンバーも揃いつつある。君が参加してくれれば、間違いなく成功するはずだ」


「馬鹿言わないでください。ヒューマノイドロボットを作るのが違法なのはあなたもよく理解しているはずだ。デミヒューマンの件をお忘れですか」


こんなこと、大ぴらに議論することじゃない。心臓の音がうるさく鳴る。


悪びれる様子もなく続ける大熊に、思わず口調を荒げてしまった。しかし、大熊は全く気にする様子はなかった。


「そんなことはよく分かっているとも。だがね、偉大な挑戦に多少のリスクはつきものだ。君なら分かってくれると思うんだがね」


「分かりませんよ全く。造人禁止法のせいでただでさえ義肢師の立場は危ういんです。もし俺がヒューマノイドロボットの開発に加担したことがばれて、義肢師の技術をヒューマノイドロボットに活かせた実例ができてしまったら、義肢師は完全に終わりです。そんなこと、できるはずがない」


そう反論しても、大熊はなおも食い下がってきた。


「大丈夫、バレさせやしない。それに、もしバレてしまったとして、職を失うのは片西君以外の義肢師だ。片西君の生活は私が保証する。他人の人生を片西君が心配する必要はないよ」


「馬鹿げてます。とんだ空想だ。あなたが言う保証を信じる理由が私には一切ない。もしそれがあなたの話したかったことなら、すみませんが私にできることは何もない。これで失礼します」


そう言って念のため持ってきた工具鞄を片手に立ち上がろうとした俺を諭すように、大熊が静かに言った。


「嘉之さんが生体電位信号式義肢の開発のために立ち上げたプロジェクトに私もいくらか出資していてね。嘉之さんとは技術の在り方についてよく議論したものだよ」


思いがけない話に、俺は思わず「は?」と返した。それしか言えなかった。構わず大熊は話し続ける。


「嘉之さんはよく言っていたよ。人間の体が全部機械に置き換わったら、人間はそれを人間と認められるのかとね。あれからもう何十年と経ったが、いまだにあの問いを忘れられない。君も聞いたことがあるんじゃないかな?」


大熊の話で、父との思い出が一気に思い出された。大熊の言う通り、その問いは何度も聞いたことがあった。その問いに囚われているから俺は義肢師をやめられないんだ。


俺の沈黙を肯定と受け取ったようで、大熊は満足げに続けた。


「人間は技術の発達によって限界を更新してきた。これは賛成してもらえるね? スマートフォンが最たる例だ。これによって人間はコミュニケーションの限界を突破した。


私はこの義足もいい例だと思っている。これは嘉之さんに拵えてもらったものなんだがね。私は暴漢に右足を奪われた。本来なら加齢とともに衰え、いずれ自分の体も満足に支えられなくなるはずだった足だ。


だがどうだろう。この義足は衰えるどころか若い頃の私をも超える状態を維持し続けている。つまり、私は老いという人間の限界を義足によって部分的に超えることができた、と言える。そうは思わないかい?」


「……まあ、考え方によってはそうとも言えるでしょうね」


「私はこのプロジェクトによって、老いという人間の限界を完全に超える、そのきっかけを作りたいと考えている。一生老いることのない究極の肉体を作り出すんだ。


そして、このプロジェクトを通して嘉之さんの問いの答えを得られるはずだ。その確信が、私にはある。どうだろう、私を信じて君も一緒に答えを探してはくれないだろうか」


正直に言おう。大熊の提案にはかなり魅力を感じていた。


父が父自身の問いにいまだ答えを見つけられていないことを、俺は知っていた。もしかしたら父より先に答えを見つけられるかもしれまい。ようやく父を超えることができるかもしれない。人間とは何か、という長年求め続けた問いの答えを見つけられるかもしれない。


だが、大熊の提案を呑むにはあまりにも俺は理性的で、諦観的だった。何よりリスクが怖かった。


「義足はあくまで義足ですよ。機能以上の意味はない。人間の体には機能以上の意味があるはずだ。それが何かは私にも分かりませんけどね。あなたが嫌う老いもきっと体に意味を与える要因の一つなんでしょう。とにかく、私にできることはありません。すみませんが、今回の話はなかったということで」


そう言って今度こそ俺は立ち上がった。大熊はやれやれ、と首を振った。


「それは残念だ。そこまで言うなら無理にとは言わない。ただ、私の話に魅力を感じる君も確かにいるはずだ。3日後まで答えを待とう。もし気が変わったらまた連絡してくれ」


挨拶もそこそこに部屋を出ようとする私の背中に、「後悔のないように」という大熊の言葉がへばりついた。

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