表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

4 英雄……英雄?



「メガネ、夜逃げって知ってる?」


「藪から棒になんだ」


 荷物を整理している私の頭に、メガネがぽすっと落ちる。

 それに気取られることなく、私は一心不乱に荷物を分別した。


「まずはね、物の整理をする」


「お前、昨日帰って来た時から様子がおかしいぞ」


 とうとうメガネに心配までされてしまった。

 しかし、私がおかしいのではない。


「メガネ、あの人ヤバかった」


 動かしていた手を止め、頭の上にのってたメガネを手に取る。


「昨日なにがあったんだ」


 その言葉を皮切りに、私は昨日あった出来事をすべて話した。

 無論、あの大樹の記憶のこともだ。






「じゃあ、あの英雄って奴は大樹を破壊する気なのか」


「わからない。でも、明らかに大樹に対して良い感情は抱いていないし……」


 そもそも、なんで“万象の大樹”を破壊するのかわからない。

 あの人も魔術を使ってるし、大樹を破壊してしまったら使えなくなるのに。


「まあ、大樹がなくなってもお前には影響ないから放置すればいいだろ」


「それがそうもいかないんだよ……」


 英雄に「大樹の記憶が読めた」と申告してしまったが故に、王命を賜ってしまったのだ。


 ベッドの横にある机に向かう。

 そして、そこに置いていた一枚の高級そうな紙を手に取った。


「『各地の“万象の大樹”の異常を治癒し、世界に安寧をもたらせ』、だってさ」


 紙には、その命が下されたメンバーの名も記されている。


「キヨカ・イヨ…………“異邦の英雄”カルス」

 

 私の名前の隣には、しっかりと例の人物の名がある。

 メンバーは以上である。

 この2名で世界を救えと言っているのだ。


 この国の王は阿呆なのだろうか。


「重荷がすぎるわ!」


「まあ、お前たちは異邦人だからどんな結果になっても構わないんだろ」


「結果が出せなくても、切り捨てればいいってこと!?」


「まあ、はっきり言えばそうだ」


「ひどい」


 なんて汚い人たちなんだ。

 責任の所在を余所者に押し付けるだなんて!


「だが、お前は危ないな」


「え、なんで?」


「相方が大樹をぶっ壊そうとしてるんだぞ。その責任は連帯だ」


「……………………」


 今から逃げたら間に合うだろうか。

 そっとまとめていたリュックに手を伸ばす。


 コンコンコン


「お、迎えが来たぞ」

 

「え、行きたくない」


「無理だな。さっさと行け」


「このっ薄情メガネ!」


 ノロノロとリュックを背負い、ドアを開ける。


 そこには、神々しい御仁が立っていた。

 我らが英雄殿である。

 輝く銀髪は今日も健在だ。


「準備はいいだろうか」


「はい、もちろんです……」


 そうして私は、王宮へと連行された。












「え、一緒に行かなくていいんですか!?」


「うむ、カルス殿も一人の方が動きやすいだろう」


 大仰に頷く王様が、とても神々しくみえる。

 私は背負っていたリュックを下ろし、隣にいる英雄に渡した。


「英雄殿、こちらを私だと思ってお使いください……!」


 泣く泣く見送る的な演技で、リュックを彼に託す。

 ほら、恋する乙女って好きな人と離れ離れになるの嫌がるから。

 私の設定はこの人に恋してる乙女ってことになってるから。


 泣いてるように俯いてリュックを差し出す。


「…………ああ、行ってくる」


 こうして、玉座の間でのお見送りは無事に終わった。

















「大樹さん、聞いてくださいよ。今日、私の出兵が免れたんですよ!」


 私は今、王宮にある“万象の大樹”の温室に来ていた。

 本当は部屋が用意されていたが、陰口がすごくて使うに使えなかったのだ。


『あの女、英雄様についていこうとしてたらしいわよ』

『あんな女に付きまとわれて、お可哀そうに』

『勘違いしてるんじゃない?』


(怖かった……!女性の陰口があそこまでメンタルを削ってくるとは思わなかった……!)


 英雄の人気ぶりを改めて痛感した。

 だがしかし、私はあの面の良さに騙されない。


「大樹さん、今日もちょっと失礼します」


 そう言って大樹に手を添える。

 そっと目を閉じ、来る衝撃に備える。


 すると、今回はゆっくりと記憶が流れ込んできた。













『ここはもうお終いだな』


 廃れた酒場で、誰かが呟く。

 上から酒場を見ており、全体を見渡せる。

 どうやら今回の視点は、誰のものでもないようだ。


『あっちの大樹も燃えた』


『俺達、どうなるんだろうな』


 酒場には二人の男しかいなかった。

 マスターすらいない。

 よく見ると、酒場はあちこち荒れている。


 もしかして、ここはすでに廃墟なのかもしれない。


『もう……止められないのか』


 酒場から視点が変わる。

 次に映ったのは、戦場だった。


 片方の陣営は剣、もう片方は剣と魔術を使って戦っている。

 劣勢なのは、明らかに剣のみで戦っている陣営だった。


『大樹を奪え!』

『押されるな!魔術はいくらでも使っていい!』


 両陣営から怒号が飛び交う。 

 交戦はどんどん激しくなっている。

 そんな状況下で、私の目は大樹に引き寄せられていた。


(これは……悲鳴?)


 何かが聞こえる。

 声にならない何かからの悲鳴。

 その悲鳴に耳を澄ませようとした瞬間。


『“裁断者”だ!奴がやってきたぞ!』


 戦場から悲鳴が上がった。

 彼らの視線の先には、見覚えのある人物がいた。


(英雄…………)

 

 黒の外套を纏った彼は、まるで死神のようだ。

 それを肯定するように、戦場の誰もが彼に恐怖の表情を浮かべていた。 


 彼の近くにいた人たちがどんどん倒れていく。

 その場から逃げ出す兵士もいた。

 しかし、そんな人たちは地面から生えてきた黒い槍に貫かれた。


 視点が切り替わった時、私は誰かの視点で戦場にあった大樹を見ていた。

 誰かが大樹に手を伸ばす。

 そして、その手から炎を出した。


(また、英雄の記憶……)

 

 大樹の記憶は、なぜか必ず英雄とつながっている。

 このことが偶然であるとは、私には思えなかった。


 大樹が燃え盛る瞬間。

 記憶が途切れた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ