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始動

「どうやら、納得して頂けたようで」

「まぁな……あの歴史を知れば、否定するわけにも行くまい。我が松平家……いや、徳川家が天下を取るとあればな」

「……そして、信長様の行った比叡山焼き討ち……本願寺衆との戦……どれも、多くの死者を出します……それに、避ける事は出来たはず。時田様が出来る限りの命を救いたいと思うのも頷けます」

 

 平松と小次郎、そして孫次郎も歴史書を読み、納得したようであった。

 しかし、康高は良い顔をしていなかった。

 

「……酒井忠尚様は、どうなるんだ?」


 時田は敢えてその部分については記していなかった。

 康高が気にするというのは知っていたが、歴史に大きく関わらないので、書いていなかったのだ。


「……彼はあまり大きく歴史に関わりません。ですが、松平家と争い、敗れ、亡くなっています。詳しい事は不明ですが」

 

 康高は少し深呼吸をし、続ける。

 

「……まぁ、あのお方だからな。一応確認しておくが、俺は酒井忠尚様の家臣だ。こちらには忠尚様のご命令で来ているに過ぎない。しかし……この歴史を知るとな……」

 

 自分の主家が滅亡する。

 その事実は大変重いものとなるであろう。

 その様子を見て、時田は康高に声を掛ける。

 

「……離れてもらっても構いません。止めることはしません」

「いや、あんたの理念に異論があるわけじゃない。むしろ立派だと思う……だが……」

「……では、一つだけ」

 

 康高は時田の言葉に耳を傾ける。

 

「あなたは酒井忠尚が竹千代君に反旗を翻すと、娘婿の榊原康政と共に松平側へ仕えるようになります。どういう心境の変化があったのかは分かりませんが、その後あなたは松平家に必要な存在となります」

「つまりは……どちらにせよ俺は松平家に仕えることになる、か。……応龍団によって」

 

 時田は頷く。

 

「……まぁ良い。どちらにせよ、俺が酒井忠尚様を見限って松平につくというのなら、そこでくよくよ悩んでも仕方ないな。分かった。異論は無い」

「では、皆問題は無い。ということで良いですね?」

 

 皆が頷く。

 因みに、お冬は一人残って自習していた。

 

「さて、皆に納得頂けたので、組織として次の方針を示しておきたいと思います。孫次郎君。次、歴史の大きな転換点はどこだと思う?」

「そうですね……」 

 

 孫次郎は先ほどの歴史書を読んだ記憶を辿る。

 

「永禄三年……未来では、1560年に起こるという、桶狭間の戦い、ですか?」

「正解」

 

 時田は説明を続けた。

 

「斎藤道三様の生存によって信長様は尾張を速やかにまとめ上げ、対今川に専念するはず。もしかすると、強大な今川は避けて伊勢の方面へ進出するかもしれない。そうなれば、桶狭間の戦いが起こらないかもしれないんです」

「ですが……桶狭間の戦いが起こらないのは良いのでは? 信長様が一早く上洛すれば、それだけ犠牲少なく乱世が終わりますが」

 

 小次郎がそう言うが、時田は首を横に振った。

 

「いえ、これだけは駄目なんです。今川義元が大軍を投じて尾張を攻め、その最中に討死。それによって空になった岡崎城に竹千代君が帰還。後に天下を取る徳川家がここから始まるんです。それに、東海道一の弓取りと言われる今川義元を討ち取ったという実績は、信長様にとっても必要。これは欠かせない事象なのです」

「では……平松商会は今後、桶狭間の戦いを起こさせるために労力を割いて良いのだな?」

 

 時田は頷く。

 

「はい。今後は甲斐、信濃、そして関東までも平松商会の支部を増やして下さい。そして、人員も先の戦の倍は欲しいですね。銃も含めて必要数確保するように努めて下さい」

「……じゃあ京、堺への進出は先送りだな」

「平松殿。申し訳ありません。商会としての活動的にそちらへの進出がしたいのも重々承知してるのですが……」

 

 すると、平松が笑う。

 

「なぁに、構わんさ。自分の息子の為ならば、な」

 

 その言葉に、時田は安堵する。

 そして、改めて指示を出すのであった。

 

「では、皆様方、どうか宜しくお願いします!」

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