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義龍との対話

「腹を割って……ですか」

「あぁ。そうだ。お主が何かを企んでいる事は察しがつく。あの織田信長が儂に援軍を送るとは考えられんからな」

 

 稲葉山城にて、たった二人きりで対話が始まった。

 しかし、義龍から敵意のような物は消えており、時田もあまり身構えずに話すことが出来ていた。

 

「援軍だと油断させて背後を狙うつもりか……それとも……」

「ええ。そうです。企んでいます」

 

 時田も義龍のその思いに応え、応じる。

 

「まぁ詳しく話すことはさすがに出来ませんが、あなたを負けさせる為に、色々と動いているのです」

「そうだろうな。……儂がお主の立場ならばそうする」

 

 その義龍の言葉に、時田は反応する。

 

「やはり、後悔されているのですか?」

「ふ……まさか。ただ、軽率だったとは思っている」

 

 義龍は俯きつつ、続けた。

 

「ただ、焦っていたのだ。正徳寺の会見で父上が信長殿が気に入り、いずれ我が息子たちは信長の門前に馬をつなぐ事になるだろうと言ったのに加え、儂は嫌われておる……土岐頼芸様の息子だと言う噂も流れ、いよいよ家督を継げないのでは……とな」

「……義龍様は家督を継ぎたかったのでは? それで、土岐頼芸様の息子だという話を使っていたのかと……」

 

 義龍は頷く。

 

「うむ。それは間違ってはおらぬ。しかしな。そのような噂を信じず、もっと自分磨きに性を注げばこのようなことをせずとも家督を継げたのではないかと後悔しているのだ」

「……後悔してるんじゃないですか」

 

 時田の言葉で、義龍は気付く。

 そして、少し笑う。

 

「ふ……そうだな。後悔している。お主が現れ、父上が気に入った時にお主の話を聞いておけば、無駄に血を流す事は無かったのかもしれぬ」

「……」

 

 少しの沈黙が続いた後、義龍が立ち上がった。

 

「さて。無駄話もここまでにしよう。お主も何か策があるのだろう? 何も邪魔はせぬ。お主の力を見せてみよ。しかし、この部屋を出たならば、もう敵同士だ。そのつもりでおるがよい」

「ええ。そうさせてもらいます」

 

 時田は頭を下げる。

 

「この度はお目通り叶いましたこと、誠に嬉しく思います。ここでの対話、決して他言致しませぬことを約束致します」

「うむ。そうしてくれ。お主の連れも、早々に立ち去ると良い。城を出るまでは手出しはせぬ」

 

 時田は義龍の言葉を聞き、頭を上げ、その場を後にする。

 

(……あやつが動くのならば、儂はもう負けたのかもしれぬな……ならば、無駄なあがきはせぬほうが良いのか……無駄な血を流す事は、本望では無いからな……)

 

 時田の訪れは義龍の心を少し動かした。

 その結果がどう歴史に影響するのか、それはまだ誰も知らない。

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