9 逃避
九話目。明日完結です。
「...レイ!」
レイは彼女の拘束具を解くと、ほんのり柔らかな笑みを浮かべた。そしてすぐ、悲しそうな目をした。
「ごめん、プリム。私は貴女を傷つけた」
牢獄での事だろうか。あれが偽りだという事は、プリムにも分かっていた。レイは、嘘を吐く時、必ず「あの髪飾り」を握りしめる。それは、彼女なりの贖罪なのか、それとも、亡き母への謝罪なのか。どちらにせよ、悪く思っているのだろう。
「知ってるよ。ニコラスを欺く為だったんだよね」
プリムは話をする時、必ず目を見る。並大抵の人なら、瞳の奥に隠された真意までは偽れないのだ。
彼女には、過ちを犯した時点で、頼る術がない。どんな判断でも間違えないように、いつも、瞳を覗くのだ。
「私を救ってくれてありがとう。レイ」
もう、迷いは無くなった。私たちが居るべき場所は此処じゃない。
「...この国を出よう。それに、この帝国はもう長くないよ」
皇族の血を継ぐ者は、皆死を遂げた。放っておけば、統制はとれなくなるだろう。
レイは、白鳥のように、宝石のように清い。その瞳は、全てを見透かしているようだ。
彼女は、あの時のように、真っ直ぐな瞳で答えを乞う。
「貴女は皇帝にならないの?」
レイは、ようやく気付いたのだ。私は、記憶を無くしていない。そして、皇族の血を継ぐものだと自覚している。それでも、血が穢れたとして捨て子にした母に愛情なんてない。殺したのも、本望だ。
プリムは静かに首を横に振り、否定した。
私は、人を殺した、穢らわしき生物。崇め称えられる程の者じゃない。
「もう、失うものはないから。だから、自由に暮らせる安息の地を求めて、旅に出ようと思う」
未だ見ぬ理想郷へと、夢見る少女は橋を架ける。
「その旅、私も着いて行っていい?」
良き相棒は、何処までも献身的で、心優しい。住み親しんだ故郷を去ってまで、出会って間もない少女を支えようとしているのだ。
プリムの目からは止め処なく涙が溢れた。
「っ...ありがとう。レイは、私の太陽だよ」
この世界に終焉が訪れる時まで、プリムの荒んだ心を、レイは照らし続けることとなる。
醜い争いの末には、それまで"当たり前"だと思っていたことが、途方もなく美しいものに感じるのだと、二人は感銘を受けた。
綺麗事ではないのだが、人間は、夢を追い求める最中こそが、最も輝く時なのだろう。
彼女らは、平穏を求めて、夢を見る。
tx!:)
ありがとうございます(╹◡╹)