7 呪縛
七話目です。
「…遂にできた」
——ニコラスが裏切った。そんな知らせを聴いて、居ても立っても居られなかったレイは、せめて、悪役に仕立て上げられたプリムだけでも救うべく、秘密兵器の開発に当たっていた。
プリムに突放された所で挫けるレイではなく、寧ろその真逆であった。
彼女は、プリムにとって、「不必要だった」過去の自分が不甲斐なく、尚裏切り行為を見過ごした事の罪滅ぼしとして、全精力を注いで救出計画を練っている。幾つか実行の目処が付いた物があるが、どの作戦に置いても、如何しても、レイには克服しなくてはならない壁があった。
『人殺し』、それは、彼女のトラウマその物だった。どんな計画でも、確実、なんてものはない。少しでも蓋然性を高めるのであれば、少々手荒な手段をも取らなくてはならないのだ。そしてそれは、「せめて苦しまずに、一息に」殺す為、彼女が恐ろしい兵器を生み出すこととなる。
レイは真っ暗な洞窟に身を潜め、蝋燭の僅かな光のみを頼りに、かつて無い殺傷力を持つ武器を開発した。火薬を用いて金属片を撃ち出すこの武具を、拳銃
——Pistolと名付けた。
しかし、これはまだ射程距離が短く、計画には不向きだった。改良の余地はあるだろうから、プリムが処刑される「三ヶ月後」、タイムリミット迄に練り直そう。
********************
レイには、もう一つやらねばならぬ事があった。それは、プリムとコンタクトを取ることだ。救いの手を差し伸べたところで、思い通りに動いてくれないと、どうしようもない。不確定要素はできる限り排除すべきだろう。
独房へ入れられたプリムと会う手段は、多くはない。年に一度の解放日のみである。それは、正に今日であった。これを逃すと後がない。
松明に火を灯し、既に慣れ親しんだ洞窟を後にした。
「——面会を望むのか?」
看守の長は重く、低い声で尋ねる。レイは物怖じもせずに答える。
「はい。プリムローズ・アルフォンスへご通達を」
彼女には、事実を伝えてはならなかった。実の母を手にかけたとしれば、嫌悪の念に押し潰されることになるだろう。隠し子であり、忌子である彼女は、まだ、自身の置かれた境遇を理解しない。記憶が無い。
これが、執拗に過去を話したがらない理由だった。そもそも、覚えてすらいないのだ。愛すべき母の顔、生誕を祝う暖かい視線、幼き頃の美しい思い出も。
何としても、彼女を生かさなくてはならない。一人の少女を、たった一人の、癒えない少女を。
tx!:)
ありがとうございます(╹◡╹)