3 狂気
三話目です。
「私たち、で?」
「そう、叛逆を興そう。同じく、肩身の狭い思いをしている人たちを集めて。協力者はクロフォード家の伝手で、既に揃っているから」
齢は16程だろうか。そんな彼女は、大の大人ですら投げ出してしまいたくなるほどの重い責任を負う覚悟があると言うのだろうか。
「もう、私が失うものはないの。運命は、転ぶ方に転ぶから、正解・不正解を考えるのは無駄だって思うから。その為に、仲間が欲しいの」
プリムは、まだ短い人生だが、人生で最大の決断を強いられていた。確かに、この世界が住みやすくなって欲しいと願う気持ちはある。しかしそれ以上に、未知の世界への恐怖があるのだ。
プリムには、親という概念が存在しなかった。また、愛される事を知らなかった。彼女は日々、「生きること」を考える事しかできなかったのだ。
数分の沈黙の末、決断を下した彼女の返答は、
「…分かった。協力する」
イエスだった。
「ありがとう。丁度いい時に出会えたよ。これから、拠点へ向かう所だったんだ。今は、合図を待ってる」
これが運命の賭けだ。
失敗すれば当然命はない。それでも、彼女は、プリムローズは、今置かれている環境に納得がいかなかったのだ。
茂みに身を潜める事2時間と少し。辺りが暗くなり始めた頃に、ライトを使ってモールス信号が送られてきた。
『・・-・- ・-・ ・・-・- -・-・ ---・- ---・- -・・・-』
「…南に進め、か」
「でも、方角なんて分からないよ」
しかしレイは、さも当然かのように、左の方角へと歩み出した。
「まだ陽がある。今は日没直前だから、沈みかけている太陽の方角が西。南はそこから反時計回りに90°」
学問のよく分からないプリムにとっては、異国語を聞かされた気分だったが、レイが言うのなら間違いはないのであろう。
「行こう。幸いまだバレてないから、急いで」
「うん」
プリムはレイに手を引かれて、太陽を右手に走り出した。日々荊棘の道を歩むプリムにとって、駆け出したレイの華奢な背中を追うこの時が、如何にも息苦しさから救ってくれそうで、胸に炎が灯った様に、野望が身体を熱く燃え上がらせる感覚を抱いた。
15分程走ったのだろうか。疲れ切った身体は酸素を欲し、浅い呼吸に激しく鼓動する心臓を宥めようとはしない。額を伝う汗は既に九割九分沈んでしまった太陽の光によって、輝く。
林を抜け、未だかつて見たことのない街並みが流れていく。暫く走ると、とある赤煉瓦造りの、可愛らしい伏せ屋に辿り着く。
「此処が私たちの拠点だよ。叛逆の第一歩に願いを込めて、起源って呼んでる」
レイは扉を引くと、プリムを内部へと招き入れた。暖炉を囲うようにソファが置かれていて、パチパチと火花の音が心地よい。ふんわりと香る沈丁花は、プリムたちを迎え入れる様に、部屋中を包み込んだ。
「本当の居場所は、何処なんだろうな…」
何処か寂しそうなレイの瞳には、美しく、そして執拗に輝く炎が灯っていた。
tx!:)
ありがとうございます(╹◡╹)