1 現実
予約投稿済み、十話完結です。
毎晩21:10に投稿します。
1.1万字程度しかありません。
「はぁ、こんな人生、もううんざりだよ」
人目につかない裏路地に彳む少女は、静かに愚痴を溢した。
「信じている神様が違うから、血が穢れたから。それがどうしたというの?そんなくだらないことが、私の人生の隔たりになっているということに、何故誰も気づかないの?」
美しい銀色の髪を持つ彼女はお使いの最中だったのか、中身の詰まった紙袋を抱え込んでいた。小柄な少女には大きすぎる袋は重量もあったようで、一歩歩みを進めると同時に収まっていたはずの内容物は底を突き破って、周囲に拡散した。
「あ、やっちゃった...」
丸い果物は転がっていき、遂には大通りまで辿り着いてしまった。地に撒かれた果物や、困惑する少女の姿は街行く人々の目にも留まっているはずなのに、何故だか誰も、手を貸そうとはしない。
そんな、切ない空気を打ち払うかのように、座り込み荷物を拾い集める少女の隣に、ある一人の少女が蹲踞した。その少女の黄金色の前髪は左目を覆い隠しており、碧く澄んだ右目へと視線が誘導される。
——ああ、綺麗な瞳。偽りなく真っ直ぐだ。
「手伝うよ、一人じゃ大変でしょ」
「ありがとう」
金髪の少女は自身の持っていたトートバッグを銀髪の少女に与え、そこに荷物を詰めるよう命じた。
「でも、それだとあなたが...」
「いいの。私の家、すぐそこだから」
すぐそこと言われても、この辺りにある住まいは領主であるクロフォード家の屋敷のみである。この言葉は、銀髪の少女に罪悪感を与えない為に吐いた嘘なのか、彼女はクロフォード家の娘なのか。
「...」
彼女には、それ以上問いかける勇気はなかった。
「...はい、これで最後。気を付けて帰ってね」
「本当に、ありがとう」
「私が勝手に手伝っただけだし、そんな大層なこともしてないって」
そう言ってはにかむ彼女は、女神のように見えた。そして、彼女は再び口を開いた。
「私は、レイア・セリシア・クロフォード。レイって呼んで。貴女は?」
「...プリムローズ」
金髪の少女ことレイア、レイは本当に貴族の娘だった。貴族であれば、当然プリムローズのような、「迫害を受けている人種」についての知識もあるだろう。
「私のこと、気持ち悪がらないの...?」
「どうして?」
「だって、私は...」
私は人の姿形をした化け物だから。そんな言葉は、彼女には重すぎて、口から発せられることはなかった。レイは太陽を背にして、顔に影がかかるように立ち位置を調整すると、先程まで左目に掛かっていた前髪を避けた。
「...それは、私も、貴女と近しい立場にいるから」
レイの左目は、あらゆる物をも飲み込んでしまいそうなほど深い、紅色をしていた。
「神に呪われた子だとか、馬鹿馬鹿しいの。左右の目の色が違うから、何だというの?」
プリムローズは、家柄も住まう世界も、何もかも違うこの少女に、妙な親近感を覚えた。
「レイア、帰るぞ」
背後から唸るような低い声が聞こえた。その元を辿ると、身長は190はあるであろう、長身の男が鞄を持って立っていた。その男の髪や目は、レイのものとよく似通っていた。
「...はい、お父様」
「レイア、忠告しておこう」
お父様と呼ばれた男は、プリムローズを鋭く見据えると、無慈悲な言葉を発する。
「其奴は、人の姿をした化け物だ。関わるんじゃない」
「っ...!」
レイは、怒りや悲しみといった感情が暴走しないように、必死に堪えているようだ。
「お前もだ。俺の権力で捩じ伏せているだけで、所詮は其奴と変わりはない。分かったのなら、飛び火の来る前に離れるんだな」
ぷつっと、何かの切れる音がした気がする。レイは、大きく息を吸い込むと、反撃を開始した。
「お父様は、何も分かってない!生命は皆等しく貴くて、優劣なんてあるわけない。どうしてみんな、蔑む対象がいないと生きていけないの?その大きな体には、優越感しか詰まってないの?」
「お前...誰に口を聞いているのか分かってるのか!」
「逃げよう!」
「えっ」
レイはプリムローズの手首を掴むと、裏路地の方向へと走り出した。
tx!:)
ありがとうございます(╹◡╹)