ゲームスタート
「みんな来てくれてありがとう」
ルーナが、僕らのところにやってきた。
「ルッカから事情は聴いたと思うけれど、ごめんなさいね。今まで騙すようなことをして」
「ルーナさん……」
「私たちは別にいいわよ。遊んでいただけなんだから」
僕たちは純粋に遊んでいた。
僕らの遊びに、世界の命運がかかっていたなんて一つも知らずに。
「ごめんね。折角集まってくれた、オフ会でも、ゲームしてほしいなんて頼むことになって」
僕は首を振る。
「もういいよ。ルーナの気持ちはみんなわかっているから」
ゴロウとリンも僕の言葉にうなずいた。
他のオフ会なんかよく知らないけど、
今まで踏み込めなかった事情を聴いて寄り添う、それがオフ会ってやつだと思う。
仲間が困っているのなら、助けたい。
「それより、魔王戦はできそうなのか?」
「なんとか、魔王の城にゲートをつなげることができたわ。もって1、2時間かしら」
なるほど、時折現れる魔王討伐緊急イベントは、ルーナの頑張りのおかげだったわけだ。
キャラが死ねば、復活できないので、ほとんど死にイベントだった。
僕らのようなガチ勢以外にとっては。
魔王戦。
何か月もかけて準備して、全てが無駄になってしまうかもしれない
一発勝負の究極のゲーム。
「ルッカ、フォーメーションはいつも通りで大丈夫?」
「大丈夫、問題ないよ」
戦士のアッシュ。
シーフのエイク。
回復師のサラスティー。
このメンバーだと、勇者は中衛よりの魔法主体の戦い方だった。
それが魔法使いのアンスに代わったとしても同じだ。
トドメに特大の魔法をお見舞いしてやる。
「さあ、盛大に花火をぶちかましてやろうじゃないか」
◇ ◇ ◇
アンス達は、魔王の間に降り立った。
燭台に灯る炎は心もとなく、部屋中に暗黒が広がっているよう。
魔王の城にふさわしく、空気が重く悪意に満ちている。
壁には謎めいた魔法陣が描かれ、仲間であるはずのモンスターは死体となって転がったままにされている。
異様な空間にむしろなじむような気配があった。
魔王が悠然と玉座に座っていた。
まるで影に包まれているような、圧倒的な邪悪で暗黒の力が満ちている。
見つめられるだけで死んでしまう。
それは、比喩などではなく、彼の二つ名そのもの。
【即死の魔王】
骨のような皮膚は灰色に近い青白さを持ち、血管が透けて見えるほどの薄い。
アンデットかと思うほど、口からは死の冷気がこぼれている。
「くっ」
アンスが息をのむ。
僕は、キーボードで、アンスを鼓舞した。
『大丈夫。僕らがついてる』
動けなくなるほどの、恐怖も、プレイヤーである僕らには届かない。
それこそ、ゲームの演出程度にしか思えない。
『アッシュ、お願いね』
「任せてくれ。俺は、女神様の忠実なしもべ」
盾職である、アッシュがみんなを守るように、一歩前に出た。
『絶対、誰も死なせない』
「もちろんですわ」
サラスティーは、一歩下がり、みんなを守るため慈愛のベールを展開していく。
「守ってみせる。世界ごと君を」
『やろう。一緒に』
エイクの殺意が、刃のように研ぎ澄まされていく。
皆がそれぞれ自分のキャラと思いを重ねていく。
誰かが誰かを想う気持ちに限界なんてないはずだ。
君を守りたい。
だから、世界を救う。
それでいい。
『いくよ。アンス』
僕がキーボードをたたくと、アンスの心に響く。
「はい!」
アンスの声と同時に、画面の表示がゲームのものに変わっていく。
魔王にHPが表示されて、アンスのスキルと魔法の表示が並び、仲間たちの状況が並ぶ。
ルーナの力によって、異世界の現実が数値化されてゲームとなった。
魔王のHPは、億単位で表示されているのに対して、アンス達は数千。
力の差は歴然。
ラスボスとして表示された魔王が僕らを嘲笑うように言う。
「貴様らが他の魔王を倒したというパーティーか。だが、最強の勇者は死んだのだろう」
勇者は死んだ。
それは紛れもない事実。
だけど、気持ち―――魂を引き継いだ僕はここにいる。
シャイルのためにも負けられない。
心を揺り動かすものは全部、画面の向こう側で手に入れた。
遊びに本気で人生をかけた僕らの力みせてやる!
「さあ、ゲームスタートだ」