表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

集合と恋心の行方

 集合の日がきた。

 いわゆるオフ会である。

 初めてのオフ会が異世界になるとは思っていなかった。


「ルッカ、お出迎えよろしくね。ちょっと今手を離せなくて」


「わかったよ」


 ルーナは相変わらず忙しそうだ。


 僕がドキドキしながら、二人を待っていると、急に空間が輝き、人が現れた。


 黒髪をパッツンと切りそろえたちんまりした美少女が現れた。

 美少女、つまり少し僕よりも幼い。

 多分、高校生くらいだろうか。


 美少女は、値踏みをするように僕の顔を見ている。


「君は……もしかしてリン?」


「その声、あなたルッカね」


「そうだよ」


「そんな感じね」


 声と容姿があっていたということだろう。

 いい意味なのか、悪い意味なのか。


「えーとどこから説明しようか、実はここは異世界で実はルーナが女神……」


「そんなことより、あの人は来てないの?」


 僕の言葉を遮ると、あたりを確認する。

 若いって、すごいな。


 異世界に来たことよりも、自分の想い人に会うことの方が優先なんて。


 しばらくすると、再度光が輝いた。


 光の中から、一人男が現れる。



 リンは男を見ると、上がりかけていた手を下ろした。


「ルッカ君? リンちゃん?」 


「ゴロウ。あえて嬉しいよ」


「それにしても驚いたよ。まさかオフ会を異世界で行うことになるなんて」


 ゲーム通りの澄んだ優しげな声。

 だけど、思ったよりも、上の人だった。

 30前後のように思える。


 ただ、少し疲れてる?


「大丈夫ですか? くまできてますけど」


「ああ、大丈夫だよ。少し仕事が忙しくてね」


 僕とゴロウが、握手をすると、急に花の香りが辺り一面に充満した。


 赤い絨毯が転がってくると、一人の女性がツカツカと歩いてくる。


「お初にお見えしますわ。ワタクシ、サラスティーですわ」


 そっか。リンがこっちに来たということは、ログインを意味する。


 つまり、リンのプレイアブルキャラクターであるサラスティーも目を覚ますということ。


 本物の金と見間違うほどのタテロールの髪に、豪華絢爛なドレスとそれ以上に高貴な魅力をまき散らしている。

 

 サラスティーは、口元を豪華な扇子で隠している。


 画面で見るよりも数倍派手だ。

 作法が貴族そのもの。


 僕は思わず聞いてみた。


「サラスティーは、どっかの貴族なのか?」


「ええ、もちろんですわ。ルッカ様」


「貴族なのに戦うのか?」


「もちろんですわ。世界が滅んでしまっては、貴族も、庶民もありませんから」


「そうだな」


 サラスティーは、偉そうだが、優しさにも満ち溢れている。


「あら、リン様元気ありませんわね? どういたしましたか?」 


「うん……」


 リンは、自分のキャラが話しかけてきたというのに、上の空だ。


「どうしたんだリン?」


「……」


 なんだか反応が薄い。

 僕と初めて会ったときはいつも通りだったのに。


 サラスティーはあまりリンには気にかけず、ゴロウに向き直る。


「あら、ゴロウ様、お疲れですか? そんな体で、ワタクシの世界を救いに来てくださいましたのね。ワタクシが癒やして差し上げましてよ」


 センスを倒して、吐息を漏らすと、ふわりと包み込んだ花びらにゴロウの目が閉じていく。


 サラスティーは、そのままゴロウを受け止めると、近くにあった椅子に座り、ゴロウを膝枕した。


 穏やかに寝息を立て始めるゴロウを見ながらサラスティーは、


「会えて光栄ですわ。ゴロウ様」


 嬉しいと言わんばかりに口角をあげていた。


 たぶんサラスティ―は、リンの恋心に触れて、多分本人以上にゴロウのことを好きになってしまったのだろう。


 本来、恋心を抱いていたはずのリンは、二人のことを冷めた目で見ていた。


 僕もリンの心境にようやく気付いた。

 

 多分、失恋したのだ。

 振られたとかではなく、現実を思い知って。


 オフ会では、よくそういうことが起こる……らしい。


 オフ会に美少女が現れる。

 そこまでは、本当だったわけだ。


 美少女が、恋に落ちるかどうかは別の話。


 落胆。

 失望。

 リンは、100年の恋から冷めたような悲しい顔をしていた。


「ルッカが、ゴロウさんだったらよかったのにって、一瞬だけ思った」


「なんで?」


「ギリギリ、受け入れられる感じだったから」


「ギリギリか」


 容姿もそうだろうけど、

 年も僕でさえ、5歳は離れている。 

 ゴロウとは、きっと10以上離れている。

 下手すれば、倍ぐらい違うかもしれない。


「ルッカは、ゲーム辞めるつもりだったのよね」


「そうだけど……せめてルーナのために、もう一人は魔王を倒そうと……」


「私も辞める」


「それは」


「ルッカだって、ルーナが好きでこのゲーム続けていただけでしょう」


 僕は慌てて、ルーナの方を向く。

 ルーナは、僕らのことに気をまわす余裕がないぐらい忙しくしていた。


「はあ、そうだけど、少し声小さくしてくれよ」


 まあ、リンにはバレてるか。

 お互い似た者同士だったからな。

 ルーナはそもそも人間ではなかった。

 ゴロウは、多分僕らと歳が随分離れていることは気づいていた。

 リンのことを恋愛対象とは見ないようにしていた節があった。


「そうなんだけど、僕は、この世界を救いたい」


「私だって、私の世界を救ってほしい」


 言葉に切実さがあった。


「なにかあるのか?」


「平日の昼間からログインしてる高校生が、どんな学校生活してるか想像つくでしょ?」


 大学生は、たまに平日の昼間でも授業がないことがあるが、高校生は長期休暇でもないかぎり、それはないだろう。

 なのに、リンとは昼間に出くわすことがよくあった。


 実は主婦とかの可能性もあったので、あんまり立ち入って話さなかったのもあった。

 何かできることがあるのなら、してあげたいとは思う。


「家はどこなんだよ」


「九州の方」


「それはちょっと遠いな」


 僕は東京に住んでいる。

 リンは友達だけど、物理的にどうこうしてあげられる距離じゃない。


 そもそもゲームは得意だけど、それ以外のことで僕ができることなんて……。


 ほとんどなにもない。


 それこそ、話を聞いてあげるぐらいで、それならいつも通りだ。


「かっこよくて、私のことを人生かけて守ってくれる、そんな人が現れてほしい」


 リンが望んでいるのは、僕ではない。


 だけど……、


「そんな都合のいい人物がいるわけ……」


 突然、どこまでも遠くまで行けるような風が吹き抜けた。


 一人の人物が僕らの前に現れていた。


 口を覆う布を取りながら、彼は言う。


「あなたが、サラスティーの天使か」


 ゴロウがログインしたということは、ゴロウの相棒である彼だって目を覚ます。


 シーフジョブのエイク。

 刈り上げた白髪に、精悍な顔立ちをしている。

 射貫くような切れ長の瞳は、女性にはたまらないだろう。


「あなたに出会えることをどれほど夢みたことか」


 エイクはリンの手を握る。


「あなたが守ってくれたから、私は今ここにいる」


 シーフジョブは、自ら回復手段を持たない。

 防御力も弱い。

 仲間が回復してくれない限り、死んでしまう。

 そして、この世界の死は、嘘偽りない本物だ。


 彼らは知っている。

 自分を操る存在のことを。

 そして、仲間達にも、操る存在がいることを。

 

 助けてくれていたのは……、

 本当の命の恩人が誰なのかを。


「今度は私が、あなたを命にかえても守ってみせる」


 そう言って、リンの手の甲にキスをした。


 空いた手を頬にあてて、顔を真っ赤に染めるリン。


 それはどうみても恋そのもの。

 

 僕は美少女が、恋に落ちる瞬間を目撃した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ