僕にとっての救済
僕らが、光輝くルーナのエリアに戻ってくると、見慣れたキャラが斧を振っていた。
「君はルーナの」
「女神様の操作キャラのアッシュだ」
なんだろう。
いつもは、女声でルーナがしゃべっていたから違和感がある。
ぼくらのメンバーの中で性別がキャラとあっていなかったのはルーナだけだった。
今となっては、ルーナは性別どころか普通の人間ですらなかったわけだけど。
「あたしも、がんばります」
アンスも一緒になって、反復横跳びしながら、杖を振り始めた。
最終的に操るのは僕たちとはいえ、命を張るのは彼ら。
気持ちを高めるためにも、訓練は大事なように思える。
僕は、パソコンにかじりついているルーナのところに行った。
アッシュがここにいるので、ゲームをしているわけではないだろう。
「ルーナは、なにしてるの?」
「過去の映像から、再度、魔王の攻撃分析しているところよ」
「いつもどうやって攻撃の予兆とか把握してるんだ」
「魔法は基本呪文がいるわ。だから、音声認識力を上げれば、どうにか把握できるのよ」
「それはそうだね」
「あとは、視線か動作どちらの影響を受けているか、分析かけて、攻撃場所を確定するの」
「なるほどね。範囲はどうするの」
「みて」
ルーナが見せてきた映像をみる。
魔王が、町中にあらわれて、人々を虐殺していた。
「酷い……」
「実際、ゲームでは戦うとき以外、出くわさないように調整してるのよ」
たしかにメンテナンス中となって、いけないエリアが時々現れていた。
きまって、そのあとはいつも人々は傷つき、復興中となるのが常だった。
ルーナが映像を戻して見せる。
「今、人が密集しているところに即死魔法が放たれたでしょう。だから、これから割り出したら、こんな感じ」
映像を加工し、範囲を光り輝くようにして見せる。
「私が考えた適当な魔法名とカウントを、魔王の上に表示させて、魔王の視線からどこに放たれるか予測し、範囲を表示させる」
いつものゲームで見る敵の表示にそっくりになった。
こうやって異世界の映像をゲーム風に作り変えて、僕らに届けていたらしい。
「地道だな」
女神の力もだけど、単純な計算力や、プログラミング力が凄まじい。
「そうね。でも、近接の人達は、この表示が生命線だもの。いくらやってもやりたりないわ」
本気で世界を救いたいと思っている女神の仕事が、転生者を呼び出して、チートスキルを渡して『はい。ヨロシク♪』みたいな感じで終わるわけない。
そんなことで世界が救えるのなら、苦労はしないだろう。
今もいろんなパソコンが並列で処理が走っているのがよく分かる。
画像の処理をしながら、ゲームの苦情のメールなども処理しているらしい。
ゲームの掲示板は、普通の開発者なら泣きたくなるような罵詈雑言の嵐だ。
コメントの一つが目についた。
『お客様は、神様だろう! こんなゲーム作りやがって』
お金を払っているわけでもないのに、よくこんなひどいことが書けるものだ。
ルーナがどんな気持ちでこのゲームを作ったのかも知らないくせに……。
それに、文句を言っているルーナこそが神だというのに。
ルーナは気にすることなく、謝罪のメールを送っていた。
「気にしないで、いつものことよ」
そんなわけにはいかないだろう。
僕なら、参ってしまいそうだ。
それに、こんなに丁寧に一つ一つ対応していたら、時間がいくらあっても足りない。
「ルーナ寝てるの? いつも僕らと一緒に夜遅くまで、ゲームしていたりしただろう」
「私は大丈夫よ。神だから眠くなったりしないし」
「それでも、疲れることはあるだろう」
体というより、心の方が。
「あなたたちとプレイしているのは、いい休憩になるわ。あなたにおすすめされた音楽を取り寄せてみたり、アニメを見てみたり、本当に四六時中神としての役目を果たしているわけじゃないのよ」
「それならいいんだけど」
「君たちに取り入ることで、結果として魔王も倒すことができた。ありがたい話だわ」
それって結局、世界を救うために、働いていたってことなんじゃ……。
僕のために、女になっていたと言っていた。
きっと今も。
「そういえば、臨時だって言っていたね」
「そうね。本来の神は、諦めてどこかに行ってしまったわ。この世界はまだほろんでいないからどうにかしてあげたいわ」
ルーナは、悲しそうに言った。
「私の本来の世界は滅んでしまったから……」
「ルーナなら救えるよ。僕も手伝うから」
僕は、いつもあの日のことを色鮮やかに思い出す。
『同じルから始まる名前ね。一緒にゲームやらない?』
MMOだというのに、一人寂しく遊んでいた僕。
あの日から、いつだって僕を孤独から救ってくれた女神は君だったのだから。