天使
跪き、祈りをささげる一人の少女が現れた。
「女神様、この度は、あたしを選択していただきありがとうございます。この命に代えてでも、世界を守るため、魔王を倒してみせます」
覚悟が重い。
ルーナが頷き、僕に言う。
「ルッカ、彼女があなたの操作キャラ、アンスよ」
「あなたがあたしの天使様ですか」
「天使?」
「私の力を与えられてるんだから、そういうことよ」
天使ね。
確かに、神の力を借りる天の使い。
その通りだと思う。
「よろしくお願いします」
ぺこりと彼女は礼をした。
データだけの存在だと思っていた。
僕が何気なく選んでしまった。
魔王と戦うために。
彼女は、本当に存在している。
生きている。
「君はどうして、立候補したんだ?」
「世界を救いたいという思いに理由がいりますか?」
純粋な優しさに満ち溢れている。
彼女を見る。
愛くるしくて、見る者を幸せにするような女性だ。
魅力的で、誰もがほっとかないだろう。
普通の世界であるならば、幸せな人生を送れると思う。
絵に描いたような美少女。
僕が、画面上の絵だとおもって、選んだキャラクターだ。
決意に満ちた瞳は、どんなデータでも表せないほどで、どう見ても生身の人間そのもの。
つまり、僕が操作をミスれば、彼女は死ぬということだった。
「心配していただき、ありがとうございます。あたしは大丈夫ですよ」
「なにが大丈夫なんだよ」
「なにもなせずに、死んだとしても、あなたを恨んだりはしません」
「それは……」
つまり、事情も知っているということだ。
「来てルッカ」
僕はルーナに呼ばれて、少し歩いた。
光り輝く空間に、たくさんの寝ている人たちがいた。
「彼らは……」
「あなたたちのプレイアブルキャラクター、そう言えばわかるでしょう」
「どうして彼らはここで寝ているんだ」
「あなた達がログインしていないときの待機状態ってこと」
「もしかして、プレイヤーがログインしなかったらずっとこのまま?」
「半年一度もログインしなかったら、アカウント抹消されるでしょ。そのタイミングで自由になる。また他の人に選択されるまではね」
いま、プレイ人口はどんどん減っていっている。
多分ほとんど動かされないままの人物もいるのだろう。
「彼らは、自分の意思で、体を捧げたもの達、世界を救いたいと願った英雄よ」
「どうして、そこまでして」
「私は、彼らの潜在能力を解放してあげた、でもダメだった魔王は倒せなかった」
悲しみが重複して聞こえてきた。
「私が諦めてかけていたとき、あなたの世界の存在を知ったわ。何万人という人物が、コントローラを握りしめて、魔王を倒すゲームに挑戦していた。何度負けようとも、挑み続けるあなたたちに私は希望を見出した」
ルーナは力を込めて言う。
「私は、この世界とリンクしたゲームを作り上げて、あなたたちにプレイしてもらうことにした。あなたたちが、コントローラーで操作しているキャラが、異世界の本当の人物だということを伏せて」
「そんなことって」
どこまでもリアルなゲームだった。
死んだら、蘇らないキャラクター。
それは、そうだ。
本当に生きている人たちだったのだから。
人は死んだら蘇らない。
あり得ないほどランダムで攻撃してくる敵。
当たり前だ。
敵だって、本当に生きている。
「絶対無理だと思っていた。でも、倒せたのよ。あの魔王のうちの一人を」
ルーナは、喜んでいた。
多分だれよりも。
自分が世界でいきているわけでもないのに。
「今、世界に希望が溢れています」
アンスは言う。
「あたしは、自分の命よりも守りたい世界があります」
「せめてあと一人魔王を倒せたら、人々に希望が宿るわ。だから、お願い手伝って頂戴」
気持ちは手伝ってあげたい。
だけど、僕の指先に世界の命運をかけてもいいのだろうか。
彼女ほどの思いは僕にはない。
逆に無責任に彼女を死地に追いやる非情さも……。
知れなければ、よかった。
多分本当は、ルーナも言うつもりはなかった。
僕が、辞めるといったから、教えてくれた。
その思いには答えたい。
「ルーナ、僕がどうしてもいるんだよね」
「そうよ。あなた無しでは戦えない」
僕一人で抱えるには、辛すぎる。
いつだって、一緒に戦ってきた仲間となら、乗り越えられるかもしれない。
「なら、二人もここに呼んでほしい」