女神の能力
僕は意味が分からなくて、聞き返した。
「ゲームの腕前? ゲームの知識じゃなくて?」
「知識じゃなくて、腕前。大体知識なら、女神である私の方があるに決まっているでしょう」
「それはそうだね。そもそも開発者なんだし、それなら、僕の手助けいる?」
「私が与えられる力で世界が救えるのなら、君を呼んだりしないよ。現地の人に頑張ってもらうわ」
「確かに」
「私は君の力が欲しいから呼んだんだよ」
「力って言われても、僕は、ゲームをしていただけで……」
戦闘もできない、
魔法も使えない普通の僕が、
画面の前で、指先を動かすだけのこと。
そんな自分が人生の大半をかけたことが、役に立つというのなら。
「私が君に期待するのは、ゲームの腕前だよ」
君に認められた。
それだけで、気持ちが高まってくる。
「わかったよ」
どこか遠い世界が滅びようとしているのなら、救いたいと思うのが良心ではないのだろうか。
他人には馬鹿にされるようなことでも、
だれか一人にでも――ルーナに、その力が求められたのなら、
「僕は君のために力を使うよ」
何かが欲しくて、やってきたことではない。
それでも、役に立つのなら、ボランティアでも、やりたいと思う。
だって、ゲームをやることに理由なんていらないから。
「ただもう少し説明してくれる?」
戦うことに理由はいらないが、勝つためには情報がいる。
僕らに、そんなことは、身に染みている。
「そうね。では、私の能力から話しましょうか。私の能力は、二つ、潜在能力解放と、信者従属よ」
「潜在能力解放と、信者従属?」
「まずは潜在能力解放、これはさっき使って見せたけど、人のあったかもしれない可能性を解放する能力」
「あったかもしれない可能性?」
「簡単にいうと、その人の、人生でかけた努力値を変えることができる」
ルーナが指をならすと、
モニターにゲームのようなスキルツリーが現れた。
ゲームようなというか、いつものゲームのスキルツリーそのものといってもいい。
ゲームと違い、攻撃力とか防御力だけでなく、
ゲームの腕前、
足の速さ。
筋力など、ありとあらゆる能力が数値化されて表示されている。
今は、足の速さが、MAXになっている。
多分、これ以上は上がらないという意味だろう。
「これが、今のあなたのスキルツリーよ」
「ああ、つまり、僕がだらだらしていた時間を全部運動に変えた場合、達成できる肉体の強化がここまでってことか」
「そういうことよ。じゃあ、あなたのゲームの腕前を見てみて」
メーターがMAXの遥か上にある。
「なにこれ?」
「私の能力の限界を超えているという意味よ」
「まあ、時間があれば、全部つぎ込んでたからね」
「普通の人は、こんなことにはならないわ。しかも、このゲームの腕前は、私が開発したゲームのことだから」
「まあ、そうかもね」
普通、やりこむにしても、賞金がでるゲームや、人気ゲームをやり込むものだろう。
「もう一つの信者従属は、私の信者を自由に操ることができる」
「自由にって、奴隷にできるってこと?」
「指先一つから、私の意識で自由にできるから、そういう言い方もできるわね。でも一般的な使い方の奴隷と違って、私のことを神と認め、信仰の対象としていないと操れない」
「嫌われたらだめってことか」
それはかなり良心的な能力に思えた。
操られていることに不満をおぼえれば、すぐに解除されるということだから。
「そういうこと。だから、本人の意思を無視して操ることはできないの。とはいえ、証明はすることはできないから、しんじてもらうしかないけど」
「いや、信じるよ」
長年一緒に遊んできた友達だ。
信じられる。
「私の能力を踏まえて、ゲームのことを考えてほしいんだけど、ゲームの題名は覚えてる?」
「クロスワールド・サブジェゲーション」
「日本語にすると?」
「交差する世界の討伐ゲームかな?」
「討伐する敵はなに?」
「もちろん。魔王だよね」
「そうだから、あなたにはゲームで魔王を倒してもらいたいの」
「全然意味がわからないぞ」
ゲームの中で敵を倒すのはいい。
だけでそれで、こちらの世界の魔王が倒せるわけじゃない。
「もう一つの交差する世界は、どことどこの世界が交差していると思う」
「普通に考えれば、僕の世界と、こっちの世界かな」
「これでわかるでしょう」
「い、いや……」
「あなたがコントローラーで操作していたキャラは、画面の中だけに存在していたキャラじゃない」
「まさか……」
サブジェゲーションには、討伐という意味だけでなく、征服という意味もある。
僕らが、征服、つまり従属させているのは……。
「こちらの世界に生きている本当の人物ということよ」