君に期待するもの
光り輝く世界。
そうとしか、表現できない。
そんな神秘的な世界に、ゲーミングデスクがならんでいて、いくらするのかわからないような大画面がいくつも並んでいた。他にも、最新式のパソコンやら、いくつもの種類ものプロコンやらが地面に沢山転がっている。
ここは、僕のための天国だろうか。
そうとしか思えないほど、ゲームの設備が整っていた。
その真ん中で、GパンにTシャツというラフな格好の美女がゲーミングチェアに座っていた。
鮮やかな眼差しでゲームに熱中している。
画面に映っているのは、僕がさっきまでしていたゲームと同じもの。
ゲームへの情熱が伝わってきて、共感が持てた。
美女は僕に気づくと、くるりと回ると、頭につけていたヘッドセットを外しながら、僕の方を向いてくる
「ルッカ、よく来てくれたわね」
美女は黒く綺麗な長い髪をかき上げながら、
僕をゲームのアカウント名で呼ぶ声がする。
「えっ? 誰?」
なんだこのなれなれしい美女は?
どうして、僕の名前を知っているんだ?
僕が動揺していると、
「いつも、はなしているでしょう?」
なんだか声は聞き覚えがあるような。
「ルーナよ」
「ルーナは男だろう」
「だれも、男だなんて言ってないでしょ。女じゃないっていっただけで」
「女じゃないなら、男だろう」
「私は神だから性別なんてないよ。男でも、女でもないの」
「はぁ? 神?」
よく分からない言葉に、僕は首をかしげる。
「まあ、見せてあげた方が、納得してくれるかしら」
目の前の女は、指をぱちんと音を鳴らすと、男の姿に成り代わる。
「どうカッコイいい?」
突然、目の前の美女の姿がかすんで見えて、
精悍で、切れ長な目をした美男子が立っていた。
テレビに出てくる芸能人かと思うほどかっこよかった。
「ああ、憎たらしいほどに」
「ひっど。まあ、でもそんな感じ」
目の前の美男子は、もう一度、指を鳴らすと、美女に戻ってみせた。
「ああ、それにしても神様か」
もう目の前で超常現象を見せつけられてしまったので、信じられないけど信じるしかない。
「ルーナが神様ねぇ」
「あなたの世界じゃないわよ。こっちの世界の、しかも臨時なんだけどね」
「それでもずっと僕は、神様とずっとゲームしてたってことだろ」
「そうよ」
落ち着いたら僕にもわかる。
いつものルーナだ。
別人なわけないし、間違えるわけがない。
毎日毎日一緒にゲームをしていたわけだから。
よくみると、画面に映っているゲームの中のキャラクターはいつもルーナが使っているキャラクター。
斧を持った青年だった。
ヘッドセットは、昔僕が薦めてあげたものだ。
目の前の人物がルーナである証拠がいくつもそろっている。
「とりあえず、ルーナが神様なのは、まあいいや」
わからないことは別にそのままでもいい。
ゲームの設定のようなものだろう。
そういうことだと思い込むのはいつだって得意だった。
「それより、なんで僕をこっちの世界に呼び出したんだよ?」
神様だって、身分を隠して、ゲームをしたくなることはあるだろう。
ただ、ルーナに限っていえば、そんな気楽な理由ではない気がする。
「あなたに魔王倒すの手伝ってもらいたくて」
「魔王って、ゲームの中の話じゃないんだろう」
「まあね」
「チート能力あげるから倒せってことか?」
「チート能力、みたいなのはあげれるけど、そんな友達を死地に送り込んだりしないわよ」
神様と友達。
それはとても名誉なことにおもえる。
「友達って言ってくれるのは嬉しいけど、現地に行かずにどうやって魔王倒すのさ」
「あなたにはそのゲームで魔王を倒してもらいたいの」
「ゲームで? うん。だからゲームの知識をつかって、魔王を倒すんだよね」
僕はゲーム好きだから、異世界転移物とかの小説だってそれなりに好きだ。
とくにゲームの世界に入り込んでしまった系が大好きである。
頭に入っている現地の人が知りえないゲームの攻略法で、魔王を倒すのではないのだろうか?
仮に知っているゲームでないとしても、ゲームに酷似した世界なら役に立つかもしれない。
「私には、能力に潜在能力解放っていうのがあるんだけど、君の世界の住人は、魔法の才能は0、魔力も0だから、0のものをいくら努力しても強くはできないでしょう?」
「確かに」
潜在能力解放ということは、
付与ではなくて、強化なのだろう。
ゼロのいくらかけてもゼロにしかならない。
「じゃあ試しに君の身体基礎能力最大にしてみようか」
「そんなことできるのか?」
「まあ、まかせてみて」
ルーナが頭に触れると、なにやら言葉で言い表せない、力の塊みたいなものが体に流れ込んできた。
「どう?」
「あっ、なんかすっごく体が軽くなった」
「じゃあ、オリンピックで活躍できそう? トラックにぶつかったら死なない?」
「オリンピックは……参加ぐらいならできるかもしれない。トラックは絶対無理だ」
どんなオリンピック選手でも、時速100kmで轢かれれば死ぬだろう。
人間そんなに強くなれない。
「魔王は魔法で簡単にトラックぐらい吹き飛ばせるよ。ルッカは、魔王に勝てそう?」
「絶対無理……」
「だから、君に期待しているのは……」
ルーナは、再度僕の目を見て言った。
「ゲームの腕前よ」