君は救世主
僕は、就活の本を閉じた。
窓際で、小さくなって座っているアンスに声をかける。
「なんで、そんな端にいるの」
「なるべく、あたしの存在が邪魔にならないようにしますから、この一角だけいることを許可してください」
観葉植物かな?
「できれば、毎日コップ一杯のお水と日光浴することだけ許してください」
観葉植物かな?
僕はため息をついた。
「いいから、こっちにおいでよ」
僕はアンスをテレビの前のソファーに座らせた。
アンスは落ち着きなく、きょろきょろしている。
僕は、自分とアンスにお茶を注ぐと、自分の分のお茶を飲みながら聞いた。
「どうしたの? きょろきょろして?」
「正妻の方はどこかと思いまして」
「ぶっ!」
僕は、お茶を吹き出した。
「正妻!? そんなのいるわけないだろう」
女の人と付き合ったこともないのに。
なにいっているんだよ。
「えっ! 嘘ですよね?」
そんなに驚かれると、逆に傷つくんだけど。
「かっこよくて、ボランティアで世界を救ってくれる方ですよ。世の中の女性がほっとくわけがありません!」
そこまで言ってくれるのは、嬉しいんだけど。
「本当に、妻なんていないんだよ」
「つまり、あたしが正妻ってことですか。えへへ」
「ああ、アンスが嫁なのは確定なんだ」
謙虚なのか、強引なのかさっぱりわからない。
「ダメですか?」
上目遣いで聞いてくる。
僕が、見た目可愛くてゲームの選択画面で選んだ子だ。
自ら命をかけてでも世界を守ろうとするぐらいいい子なのも知っている。
「ダメなことはないよ」
僕にはもったいないぐらいだ。
「やったぁ。嬉しいです! あたし頑張って、子供10人は生みますから!」
「えっ? 10にん!?」
野球チームでも作る気なのか。
「あっ。すみません。少なかったですよね。20人は生みますね」
試合もする気なのか。
一人で少子化問題解決する勢いだ。
「名前とかも考えてて、いっぱいの子供に囲まれて、平和な世界で生きるの夢だったんです。えへへ」
滅びかけた世界を生き抜いた生命力は、凄まじいな。
一人か二人でいいといった日には、毎日泣いてしまいそうだ。
相当良いところに勤めないと、食わせられないぞ。
いっそ今から農家を目指すか。
食べ物さえあれば、たくましく生きてくれそうだし。
……ちょっと待てよ。
さすがに将来の子供のことを考えるのは、気が早すぎる気がする。
僕たちは出会ってまだ一週間。
ちょっとまだ、お互いのことをよく知らなすぎる。
ゲームばかりしていて、恋愛なんて、どうしたらいいかわからない。
足らない知識を総動員して、なんとか一つ導き出した。
「まずは、お互いの趣味でも知るところからかな」
「あたし、趣味なんてありませんよ?」
「じゃあ、僕の趣味を教えてあげるよ」
僕の趣味は決まっている。
たった一つしかない。
「まずは、一緒にゲームでもしよっか」
僕は、パソコンではなく、久しぶりにゲーム機を起動させた。
よくある魔王を倒すゲームを選ぶ。
まずはこの辺りから楽しんでもらうのがいいと思う。
僕は、コントローラをアンスに渡した。
「ゲームですか、あたしにできますか」
不安そうにコントローラを握るアンスに、僕は笑いかけた。
「大丈夫。僕がついてるよ」
なんだって君は世界を救った救世主。
そして僕は、君のパートナーなのだから。




