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勇者が死んだ

 

 勇者が死んだ。

 もちろんゲームでの話だ。


 つまり勇者とは僕の操作キャラのことである。


 なんだと思うかもしれない、

 ただし、このゲームの設定で、死んだキャラは復活しないことになっている。


 自分のディスプレイには、CLEARの文字と、DEATHの文字が両方並ぶというこのゲームでしか見たことがない状態になっていた。

 喜んでいるパーティーメンバーの気分をさげないために、音声チャットを切って、僕はうなだれた。 


「はぁ~。嘘だろう」


 六大魔王の一人を倒した。

 今まで誰も倒したことがない高難易度のボス。

 自分らが世界で一番乗りで倒した。

 誰もなしえなかった偉業だといってもいい。

 なのに、達成感よりも、手塩をかけて育てたキャラクターが、二度と蘇らないという悲しさの方が勝っていた。


「僕もそろそろ引退かなあ」


 無料でできるMMORPGの中では群を抜いてハイクオリティだったが、設定が頭がおかしいということで有名なゲームだった。

 まずキャラクターは、プレイヤーごとに選ぶことができるが、他人が選んだキャラを選ぶことができない。

 そして、使っていたキャラは死んだら二度と使えないし、二度と出てくることもない。

 敵が理不尽なぐらいランダムで行動してくる。

 今回だって、敵のHPゲージはほぼ0になったところからの自爆みたいな攻撃で、僕のキャラは死んでしまった。

 死なばもろともという気迫を、ゲームの中の敵から感じた。

 

「リアリティが売りのゲームなんだけどな、やりすぎなんだよな」


 初めはキャラクターの魅力や、広大なオープンワールド、ゲームの操作性などで話題になった。

 なによりストーリーというか、NPCは全部AIなのかと思うぐらい、自由に話すものだから、個人個人で、内容がまるで違うという状態。

 敵も同じ敵が、ポップアップすることはない。


 すごい技術だとは思う。

 ただ、


「客はそこまで求めてないんだよね」


 とかいいながら、何千時間もプレイしてきたわけなんだけど。

 それは別の理由もあって……。


 パーティーメンバーの一人から、通話がかかってきた。

 僕はパソコンの画面をクリックして繋ぐ。


「ねぇ。なんで切っちゃったのよ」


 怒ったように言う声も可愛い。

 パーティメンバーの一人、ルーナ。

 会ったことも、顔も知らない、本名すらわからない、ゲームの友達。

 僕がなんとなくゲームを続けてきた理由でもある。 

 

「見てただろう。僕の勇者が魔王と相打ちになったところ」


「相打ちでも、魔王倒したのよ。これは快挙よ。誰もなしえなかったことをやってのけたんだから」


「それは、そうなんだけどさ。このゲームでキャラは生き返らないだろ。もう引退しようかなとおもって」


 冗談で言っているわけではない。

 もちろん、時間があればもっと続けたい気持ちもある。

 理由はあった、顔も知らない友達を失いたくなかったから。

 だけど、もうやめなければいけない理由の方が大きくなった。


 僕は大学四年生。他の同級生が就職先をみつけているなか、僕はまだ内定を一つももらっていない。

 授業の単位やゼミの論文は順調とはいえ、いつまでもゲームをやっているわけにはいかない。


「そ、そんなぁー。ねえ、考え直してよ。あなたぐらいできるプレイヤーもうほとんど残ってないんだからさ」


 確かにアクティブは随分減ってきている気がする。

 攻略をメインでやっていた連中は、あきらかにバランスミスとしか考えられない敵の強さにほとんど諦めてしまったし、エンジョイ勢も、どんどん世界の雰囲気が終焉でいつ滅んでしまってもおかしくない状態になってからは、ログインもしてこなくなってきている。

 僕も、勇者が生きていれば、就活終わった後も、まだ続ける気でいたけれど、死んでしまった。

 ゲームの画面にはキャラ選択を促す、アイコンが表示されている。


「もう一からキャラを育てなおす元気はないよ」


 ほとんどのジョブは一度は育成して、それぞれの操作感は十分楽しんだ。

 僕にとってもこのゲームは潮時なのかもしれない。


「じ、実は……」


 なんだろうか。

 愛の告白でもしてくれるのだろうか。

 僕は、少しだけ期待して次の言葉を待った。


「この世界は、私が開発したの」


 その言葉は、想像の斜め上だった。


「はっ? 開発者だったのか」


 それはちょっと激萎えかもしれない。

 僕は長年開発者と一緒にプレイしていたということは、要はデモプレイさせられていたようなものだ。

 開発者となら、クリアできて当然だし、他人にゲームをクリアしたと自慢できなくなってしまった。

 とはいえ、人気のないゲームをクリアしたからといって、ほとんどの人は『ふーん。それがどうしたの?』といわれるだけだ。

 もういいか。

 でも、開発者というのなら、ゲームのシステムに干渉できるだろう。


「なら、勇者生き返らせてくれよ。そしたら続けるし」


「それは、できなくて」


「えー開発者なんだろう。それに敵もちょっと強すぎないか」


「それもうまくできなくて」


「本当に開発者なのか?」


「君が選んだキャラクターの能力値を最大までにすぐあげることは可能よ」


 魔王に挑むのなら、レベル最大で望むのが基本だから、大幅に時間は短縮できる。

 それは確かにありがたい。でも、

 

「レベルしかいじれないって、開発者のなかで、権限設定があったりするわけ?」


「そういうわけではないんだけど……」


 なんだか歯切れが悪い。

 開発者だって教えること自体本当はいけないことなんだろうから、あんまり深く聞かない方がいいのかもしれない。

 不人気ゲームの開発者公認のデモプレイヤーとしてなら、ズルと考えなくてもいいか。

 本当はやめるつもりだったわけだから。


「ならもうちょっとだけやってみようかな」


「本当? ありがとう」


 声が弾んでいる。

 本当に嬉しそうだ。

 ゲーム好きだし、そっち方面のコネがあれば、ゲーム関係の職業につけるかもしれない。

 あとで、相談してみよう。


「とりあえずは、キャラ選ぶか」


 当たり前だが、ゲーム内にもう一度入るためには、キャラがいる。

 僕は、キャラクター選択画面を開いてみる。

 ずらりと、キャラクターが並んでいる。

 ただ、強ジョブの勇者は一人もいなかった。

 昔は一人二人は常にいた気がしたんだけど。


「なんかさ。どんどん選べるキャラ減っていってない? 開発チーム減らされてたりするの」


「うーん。まあ、そんな感じかな」


 本当に崖っぷちって感じだ。

 コンテンツ終了も間近そうだ。

 強くしてもらえるみたいだし、ステータス画面確認して、考えるまではなさそうだ。  


「じゃあ、彼女で」


 僕はやる気なく、強さではなく、自分の好みの姿をしている女性キャラクターを選ぶ。

 キャラデザはめちゃくちゃいいので、最後くらい、ずっと見ていられるキャラがいいかもしれない。


「じゃあ、強くしてくれる?」


 僕は、ルーナにおねがいした。


「まあ、それならこちらに来てもらえない? もうちょっとちゃんと事情話したいから」


「えっ、何、オフ会やるってこと?」


「そんな感じかな」


「いいのか? 僕は男だよ」


 ほんの少しだけ、言うのをためらう気配があった。


「実は君をやる気にさせるために、女を演じていたから」


「なんだ。そういうことか」


 なんだネカマか。

 女声だったから完全に騙されてしまった。

 ボイスチェンジャーかもしれない。

 最近は、高性能なものが沢山ある。

 ネットでよくある妄想垂れ流しの会ってみたら実は美少女がやってきたみたいな可能性はそうそうになくなった。

 落胆はもちろんある。

 だけど、ずっと一緒に遊んできたし、悪い奴ではないから、それならそれで気楽に会える。


「いいよ。会おうか」


 俺は、軽く承諾した。


 一度はやってみたいと思っていたけど、

 ゲームを友達と楽しみたかったから、関係性が崩れるのがいやだった。

 恋愛目的だと、相手も恋愛目的じゃないと気持ち悪がられることもある。

 女だと思っていたから、下心ありありだと思われたくなくて勇気がなかった。

 男同士なら、飲みながらゲームの話を語ったりしてみて楽しいだろう。

 開発者ならではの話もきいてみたい。


 そういえば、住んでる場所聞かずに、承諾してしまったけど、まあいいか。

 日本語を話をしているから日本人だろう。

 東京だったら楽でいい。

 名古屋、大阪ぐらいなら、新幹線ですぐ行ける。

 仮に北海道、沖縄とかでも安い飛行機を使えば、一人分ぐらいなら出せないことはない。


「で、いつにする? いつでもいいけど」


 僕はあくびをしながら、適当に答える。


「じゃあ、今からお願い。すぐ開くから」


 今から?

 開く?

 何のことだろう?

 僕が聞き返そうとすると、突然パソコンの画面があり得ないほど光った。

 

 僕は光に飲み込まれた。


 

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