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三題噺もどき2

月夜

作者: 狐彪

三題噺もどき―にひゃくろくじゅうに。

 


 風が強く吹く。

 煽られた木々がその葉を散らす。

 薄桃の小さな花弁が地面に落ちる。

 ―もうお前に用はないと言わんばかりに。

「……」

 街灯が照らすアスファルト。

 灰色のその道の上は色褪せた花弁で埋まっている。

 ―その美しい姿を愛でていたはずの人々に踏まれたのだろう。

「……」

 哀れには思えど、踏まないように歩こうとは思わないが。

 最後には朽ちるし、捨てられるものだ。

 ―なんでも。

「……」

 うん。

 しかし、月夜の散歩というのも案外悪くないものだ。

 少々鬱々とした気分にはなってしまうが、今に始まったことじゃない。

 常に鬱々としているようなものだ。何も変わらない。それが強く出るだけで。

「……」

 頭上には煌々と光る月がいる。

 黒一色で染め上げられた空の中に、ぽつりと浮かぶ白い月。

 暗闇に呑まれそうなそれは、酷く朧で儚く見えた。

 月夜の主役だと言うのに、あれを愛でる人は今どれだけいるのだろう。

「……」

 見られなければ、そこにいないも同義だろう。

 いても居なくても同じだろう。

 ―むしろいない方がいいかもしれないな。

「……」

 いない方が、ね。

 いても居なくても同じなら。

 いたところで意味もないのなら。

 不要とされているものなのであれば。

 消えてしまった方がいいだろう。

「……」

 ふぅ……。

 疲れてきたなぁ。

 ここ最近運動していなかったから、たまにはと思って散歩に出てはみたものの。

 運動不足が露骨に出ている。

 少し歩いただけのつもりだっただが、案外体力が削られている。

「……」

 息が上がるほどではないが、そろそろ帰るか……。

 何時かは知らないが、さすがにおまわりさんに見つかったら声を掛けられそうな時間だろう。

 財布も携帯ももっていないからな…声を掛けられたら終わりだ、多分。

「……」

 不要なものは、いらないのだ。

 何でも。

 いらないものは。

 いらない。

「……」

 さて。

 くるりと、踵を返し、来た道を戻るように、帰路につく。

 車用の信号機が、赤く点滅している。

 この辺りは車の通りも少ないから、深夜帯になるとこうして信号が点滅状態になる。

 信号機はいつでも必要なんだな。

「……」

 朽ちた花を眺めて。

 呑まれそうな月を見上げて。

「……」

 このまま消えてもいいだろうかとか考えて。

 まぁ、できやしない事だと分かってはいるが。

 不要なものでも、思考する自由ぐらいはあるだろう。

 思考する必要性を問われると何とも言えないが。

「……」

 あーあ…。

 ホントに消えてなくなってしまいたい。

 帰るのすら面倒だ。

 帰ったところで何もしないしなぁ。

「……」

「……」

「……」

「……」





 さっさと帰って。

 消えてしまうか。





 お題:信号機・白・黒

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