7.スキルの真価
「よし、今日は薬草を育てて余った魔力で野菜を……ってツバキさん? おはようございます」
「おお、おはようシゲル。何か育てるのかの?」
僕は朝起きると朝食前に魔力を使い切っておくのが日課になっていた。
今日も薬草と野菜を育てに畑に来たところ、お隣さんになったツバキさんが畑を見ているのを見つけ、声をかけた。
「はい、今日は薬草とトマトを育てようと思いまして」
「ふむ、少し見学させてもらおうかのう……その前に種を見せてくれぬか?」
「これですか? どうぞ」
僕は薬草の種とトマトの種が入った袋をツバキさんに手渡す。
すると、ツバキさんは『鑑定』を発動させ、種を鑑定した。
「ふむ、どちらもEランクの種か」
「はい、これ以上の種が手に入らなくて……ガーベラさんのためにCランクの薬草を作りたいんですけど、肥料を変えてもなかなかランクが上がらなくて困ってるんです」
「そうか……そうじゃな、それなら今からスキルを使って育てたものを見せておくれ。儂が解析して特製の肥料を作ってやろう」
「いいんですか!?」
腕利きの錬金術師特製の肥料なら、もしかしたらランクが上がるかもしれない。
それを繰り返せば、Cランクも作れるようになってガーベラさんのケガも完治するはず。
「それでは作っていきますね……」
僕はまず薬草に魔力を注ぎ、葉を収穫できるまでに育てる。
次にトマトに魔力を注ぎ、同じように実を収穫できるまでに育てる。
「ほう、見事なものじゃな」
「ありがとうございます。……それでは、これが薬草の葉とトマトになります」
「『鑑定』してもよいかの?」
「はい、今日はリリーが風邪をひいて寝ていてちょうど『鑑定』が使えないので助かります」
「それでは少し待っておれ」
もしDランクのトマトができてたら差し入れにしよう。
この前実食したらEランクに比べてかなり美味しいと評判だったし。
「ふむ、トマトがDランク、薬草の葉がEランクか」
「……やはり薬草はランクは上がりませんでしたか……」
「なるほど、よく分かった。シゲルよ、儂の工房へ来るのじゃ」
「分かりました、その前にそのDランクのトマトをリリーに差し入れしてきてもいいですか?」
「うむ、それでは儂は先に行って待っておるぞ」
僕はDランクのトマトを持ってガーベラさんに渡しに行き、それでリリーにサラダを作ってもらうように頼んだ。
……早くよくなるといいんだけど。
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「すみません、遅くなりました」
「おお、来たか。それではこちらの部屋に来るといい」
「お邪魔します」
僕は案内された部屋で椅子に腰かけると、ツバキさんと肥料の相談をすることにした。
「さて、肥料の前に確認しておくことがあるのじゃが……」
「はい、僕に答えられることであれば」
「お主……異世界人じゃな?」
「……えっ!?」
な、なんで?
僕が異世界から転移してきたのを知っているのはあのお城の人だけなはず……。
「……なぜか、という顔をしておるのう。それはお主のスキルの効果のせいじゃよ」
「スキルの効果……? で、でも普通の『成長促進』ですよ?」
「それが普通ではないのじゃよ。『成長促進』で作るものは……基本的にランクが下がるからのう」
「そ、それはどういう……?」
ランクが下がる……? つまりEランクの種から作れるのは、本来Fランクになると……?
「『成長促進』は本来の成長過程を飛ばし、強制的に魔力で成長させるスキルじゃ。無理矢理成長させるため、普通に育てた時よりもランクが下がるという欠点がある」
「で、でも僕が育てたものはランクはそのままでしたし、中にはランクが上がったものも……そういうスキルではなかったんです……?」
「うむ。お主の『成長促進』は異質なのじゃよ。そしてそういうスキルを持つ者は……異世界から来た者が多いのじゃ。儂も永く生きておるからそういう者たちとも面識があるが、異世界の者の持つスキルはそういう異質なものばかりじゃった」
異世界から来た人のスキルは、本来のスキルとは別の効果を持っているんだろうか。
しかし、それなら僕が追放されたのはなぜだろう?
上質なものが作れるのなら、使わない手はないと思うんだけど。
「お主はそのスキルを使い始めたばかりだとリリーに聞いた。つまりスキルレベルはまだ上がっていないということかの?」
「はい、リリーの持っている『鑑定』のレベルが上がったのを見ましたが、ああいった現象は僕にはまだ起きていません」
「スキルレベルが上がると、稀にランクそのままで育てられる能力が付与されることがある。じゃが、お主はまだスキルレベルは1。つまり、初期レベルでその能力を持っているということは、異質なスキルを持つ異世界人だと思ったのじゃよ」
あのちょっとした情報だけでここまで分析されるなんて……。
そして、この情報が知れ渡ってしまったら、リリーやガーベラさんに迷惑をかけてしまうかもしれない。
「あ、あの……このことは他の人には……」
「無論。この効果が知れ渡ったら、お主を巡って争いが起きるかもしれん。それは儂も望まぬのでな」
「ありがとうございます」
「しかし、その効果を知っているリリーとガーベラから漏れるかもしれん。あの2人にはお主のスキルの事を伝えておいた方がいいかもしれぬな」
あの2人はツバキさんのように『成長促進』のスキルには詳しくない。
だからこそ、どこかで僕が育てたという情報をうっかり言ってしまい、そこから僕に辿りつくということも考えられる。
「分かりました、ありがとうございますツバキさん」
「なに、高ランクの素材を作り出せるお主は儂にも利益があるでな。ああ、もちろん肥料に関しても任せておけ。その代わり……研究のために儂の方にも納品はして欲しい、ちゃんと対価は払うからのう」
「はい、お得意様にさせて頂きます」
「うむ、今後も期待しておるぞ」
……よし、2人に僕のスキルの事と転移者である事をを伝えにいこう。
僕はツバキさんに一礼をすると、ガーベラさんの家へと向かった。
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「――ということなんです」
「そんな……勝手に異世界から召喚したのに、勝手に追放するなんて……」
「辛かったわねシゲルくん……わたしの胸に飛び込んできてくれてもいいのよ?」
「い、いえ、それは遠慮しておきます」
「えーっ……でも、辛い時はいつでも相談に乗るからね」
「私もです。それから、スキルについても口外しないとお約束しますね」
「ありがとう」
ふぅ、これで僕のスキルが外に知られることはなくなった。
あとは使っているところさえ見られなければ大丈夫だろう。
「それにしても、最初に知られたのがツバキさんでよかったですよ。もし他の人だったらと思うと……」
「そうね、あの人は何を考えているか分からない時も多いけど、誰かを不幸にするようなことはしない人だもの、わたしが保証するわ」
「お母さんも随分お世話になったもんね」
「ええ、冒険者時代によく特製のアイテムを調合してもらってたわ。あの人の作るアイテムはどれもこれも一級品だから、引っ張りだこだったのよ」
ツバキさんってそんなに凄い人だったんだ……今は割とのんびりしている雰囲気があるけど、陰では色々な注文を受けてるのかな。
「……そういえば、リリーのスキルレベルが上がったけど、どんな効果が付与されたの?」
「あっ、言ってませんでしたね。より詳しく『鑑定』ができるようになったんです。例えば……そのトマト、貸していただけますか?」
「それじゃ……はい」
僕はリリーにトマトを手渡すと、リリーはそれを『鑑定』する。
「今まではランクだけしか分からなかったんですけど、今だと……『Dランク 病気に強く、甘みが強い』みたいに鑑定できるようになったんです」
「なるほど……それはかなり使えるかも……」
そう、例えば品種改良に……。
ランクが高いだけでなく、美味しくて実がたくさん生り、病気への抵抗力も強いトマトの種を作れるかもしれない。
リリーの風邪が治ったら、実験に付き合ってもらおう。
こうして新しい可能性を見つけ、更に商品を魅力的にしていこうと誓ったのだった。