69.結末
それから半年後、フリーデン郊外でディーヴェルさんの公開処刑が行われることになった――。
「あれが魔王だって……?」
「もっと巨大で恐ろしい竜みたいなものを想像してたけど……」
断頭台の周りでは、そんな声が聞かれる。
ディーヴェルさんの見た目が、人間とほぼ変わらないことに驚いているのだろう。
「……静かに! これより、魔王の処刑を始めるッ!」
この公開処刑を取り仕切るのは、今回魔王を捕縛した……タイガさんの出身地の王族だ。
異世界から召喚された者ではなく、自国出身の者が魔王を捕縛したと聞き、この郊外に断頭台を始め様々なものを提供した。
……確かに魔王を倒しただなんて、歴史に名を残す偉業だからね。
「お待ちください!」
「ん……? お前たちは確か西国の……」
「はい、俺たちは召喚された勇者です! 魔王は召喚された勇者でしか倒せない存在です! 俺にはこいつを捕縛した者が嘘を吐いてるとしか思えません!」
「ほう……? 我が国の者が成し遂げた快挙に言い掛かりをつけるか……?」
突然現れたのは西国で召喚された勇者パーティーだ。
魔王を倒すことができる者は召喚された勇者のみ……そう信じているのだろう。
パーティーメンバーも同じようにタイガさんたちを批判する。
更に西国の貴族たちもそれに同調する。
「た、確かに魔王ならもっと威厳があって強大な存在のように思えるが……」
「それに、そんな凶悪な存在がおとなしく断頭台にかけられてるなんて……」
更に観衆にも伝搬し、混沌としかけたが……。
「……五月蠅い」
ディーヴェルさんがドスの効いた低い声で一喝する。
その言葉に観衆も勇者たちも全員が黙り込む。
「それならば試すが良いだろう……貴様の実力とやらを」
ディーヴェルさんはそう言うと、断頭台を素手で叩き壊し、身体の自由を取り戻す。
そして勇者に向かって挑発する。
「さあ、掛かってこい自称勇者とやら。貴様の剣を受けてやろう」
「な、舐めやがって……! はぁぁぁっ!」
西国の勇者は剣を振り上げ、袈裟懸けの形で振り下ろす。
……しかし。
ギインッ!
その剣は弾かれ……いや、根本から折れて、カラカラと地面に転がる。
「……この程度か?」
「う……うそだろ……!? 俺の剣が……」
「ええい何をやっておる! 賢者よ、お前の炎で燃やしてやれ!」
「はっ、はいっ! 業火の渦よ、我が敵を焼き尽くせ……ファイアーストーム!」
賢者と呼ばれた女の子が詠唱をすると、ディーヴェルさんの身体を炎が包み込む。
「ふんっ!」
しかしそれはかき消され、ディーヴェルさんにはヤケド一つすら負わせられなかった。
そして、ディーヴェルさんは手を天高く掲げ、同じ詠唱をする。
すると、天まで届かんばかりの炎の渦が立ち昇り、空に浮かんでいた雲を霧散させた。
「あ……あっ……う、うそでしょ……?」
賢者と呼ばれた女の子はそのあまりの威力の違いに、腰が抜けてその場にへたり込んでしまう。
「私に傷を付けたければこの程度はしてもらわぬとな。……その身に受けてみるか?」
「ひ、ひぃっ……!」
ディーヴェルさんに睨まれた賢者の子は、あまりの恐怖にその場で気絶してしまう。
ディーヴェルさんはそれを確認するとため息をつき、西国の貴族たちを睨みつける。
「……これで満足か? 西国の貴族どもよ」
「あ……あ……し、失礼しました……」
気絶した賢者の子をパーティーメンバーたちが抱き抱え、撤収する。
そしてばつが悪くなったのか、西国の貴族たちはその場から全員蜘蛛の子を散らすように逃げ帰って行った。
「ふん……私が首を捧げるのは私を倒した者……タイガのみと決めている。やつに首を獲られるのであれば抵抗はせん」
「や、やはり奴は魔王だ……!」
「あんな魔法なんて見た事もないわ……こ、殺される……」
どうやら観衆もその強さに納得したようで、ディーヴェルさんはこの場にいる人たちから魔王として認定された。
それは各国の貴族や王族も同様のようで。
「……断頭台とやらを壊してしまってすまなかったな、この儀式に必要なものだったのだろう?」
「い、いえ……! で、ではタイガ殿……お願いします!」
タイガさんが呼ばれると、あのダンジョンで手に入れた槍を持ってディーヴェルさんの元へと歩み寄る。
「すまんな、邪魔が入った」
「いや、あのような羽虫どうということはない。さあ、世界樹の祝福を受けし者……タイガよ。私の首を刎ねるがいい」
「世界樹だって……!?」
「そ、それっておとぎ話に出てくるアレか!?」
「たしか聖樹よりも上位の存在で……実在していたの!?」
世界樹という単語をディーヴェルさんが口にした瞬間、観衆たちがざわついた。
長寿であるディーヴェルさんのような魔族の間ですら伝説の存在となっていた世界樹なんだ、人間たちにはもう架空の存在としか思われていなかったのだろう。
「た、タイガよ! 祝福を受けし者とはどういう……!?」
「……そうですね、『鑑定』をして頂ければお分かりになるかと」
「か、『鑑定』を使える者をここに!」
その後、タイガさんに『鑑定』を使われると、実際に『世界樹の精霊の加護』がスキルとして存在することが確認された。
「ま、まさかタイガが……どこでそのスキルを……?」
「それは世界樹の精霊様との約束で言えませんが……世界樹の精霊様から、とあるお話をこの場の者たちに伝えて欲しいと言われております」
「で、では早速それを……」
「いえ、まずはこちらが先でしょう」
タイガさんはディーヴェルさんの方に向き直す。
「……待たせたな。なかなか信用しない者が多くて迷惑をかけた」
「いや……世界樹の加護を持ちし者に討たれるなら、これ以上ない名誉だ。さあ、首を刎ねよ」
ディーヴェルさんはタイガさんの前に跪き、頭を差し出す。
タイガさんは手に持った槍を大きく振りかぶり、ディーヴェルさんの首めがけて勢いよく振り下ろし――。
――そして、地面を揺らさんばかりの大歓声が、辺り一面に響き渡った――。
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「……お疲れ様です、タイガさん」
「ああ、とりあえずうまくいったようで何よりだ」
ディーヴェルさんの首を刎ねたあと、タイガさんたちはディーヴェルさんの遺体を山の頂上まで運び、埋葬した。
「まったく、儂まで荷物運びに使うとは……人使いが荒いのう」
お墓の材料の運搬は家をも運べるツバキさんに白羽の矢が立ったようで……。
整っていない山道にかなり体力を奪われたようだ。
「ま、これもお主の作戦のうちなのじゃったんじゃろう?」
「ええ、その通りです。ね、ディーヴェルさん」
「ああ、まさか本当に一度殺すことで民衆を信じさせるとはな。大胆な策だ」
「それに収納魔法が生きた者は収納できないという事を逆手に取り、ディーヴェルを殺すことで墓からこっそり収納して持ち帰り、Sランクのポーションで生き返らせるとはな」
……そう、あの公開処刑は全部僕の作戦のうちだった。
まず、ディーヴェルさんの実力を見せて、魔王であると信じさせること。
そして、ディーヴェルさんに「世界樹」という単語を喋ってもらうことで、タイガさんが特別な存在だと思わせること。
更に、世界樹の精霊様からの話……召喚者以外でも魔王を倒せること……を、世界中の人に知らしめること。
……西国の勇者が乱入してくるのは予想外だったけど、おかげで異世界の勇者の頼りなさを民衆に知ってもらうことができた。
なお、召喚術についてもタイガさんは触れ、召喚士たちは今の地位を脅かされることになる。
中には国を食い物にしていた者もいたようで、投獄されたり処刑されたりした者もいるようだ。
これで新しく異世界の人が召喚されることは格段に少なくなるだろう。
ちなみに準備に半年を要したのは、タイガさんたちのレベル上げのためだ。
誰かに『鑑定』をかけられて、ディーヴェルさんとのレベル差があり過ぎると怪しまれるため、それを埋めるために半年間様々なダンジョンでダンジョン漬けになってもらっていた。
実際、ディーヴェルさんに次ぐステータスを持つまでに成長したとか。
「ただ、ディーヴェルさんの奥さん……アヤメさんには悲しい想いをさせてしまいましたが……」
「いや、これで良かったんだろう。私を裏切った者たちはまだ各地にいるものの、魔王という存在が消滅し、世界は平和になりつつある。一回死んだ痛みは、今まで魔王が屠ってきた者たちへの少しばかりの償いとなればいいが……」
「そうですね……もう魔王としてのディーヴェルさんは死にました。これからはただのディーヴェルさんとして、アヤメさんと暮らしてください」
「ああ、礼を言う。……本当にありがとう、シゲル」
ディーヴェルさんの奥さんの名前はアイリスと同じで菖蒲から取っている。
花言葉は「希望」。
二人が魔族と人間の橋渡し的な存在になればという思いがある。
「……さて、これで元のゆっくりとした生活に戻れますね」
「……? 何を言うておる、これから忙しくなるぞ?」
「へ……?」
「『へ……?』じゃないわ、寝惚けておるのか? タイガは英雄となった。ということは、タイガがよく訪れていたというここは……」
「あ……!」
僕は慌てて窓から外を覗いてみる。
すると、溢れんばかりの人がお店の周りに立っていた。
幸い、今日は公開処刑の日ということもあり、臨時休業にしていたのだが……。
「は、ははは……忙しいのはまだまだ続きそうですね……」
それからしばらく。
僕たちは今までにないお客さんの量に圧倒される毎日を過ごすことになるのだった。




