61.解呪の方法
「さて、いったん情報を整理しないと……」
魔王の息子のディーヴェル。
彼から、妻の呪いを解いて欲しいという依頼を受けた。
現状、ツバキさんでも呪いを解くアイテムの存在は知らず、ダンジョンの未知の領域でのモンスタードロップか宝箱のランダムドロップが可能性としてあるぐらいだ。
現在、この町の近くのダンジョンはまだ踏破されておらず、タイガさんたちがパーティーの組み合わせを変えながらレアドロップを調査しているぐらいだ。
もしかしたら新しいアイテムが見つかっているかもしれないので、次にタイガさんたちが帰ってきた時に聞いてみよう。
「あとは……」
僕は丘の上にある竜の泉へと足を運ぶことにした。
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「……ということがあったのですが、アースドラゴンさん、何か解決策はありませんか?」
『ふむ……長く生きてきたが呪いの類には詳しくなくてな……すまぬ』
「そうですか、ありがとうございます」
『……ところでその状態はいったいどういう……』
「あー……えーっと、そのですね……」
アースドラゴンさんが不思議に思うのももっともだろう。
僕にアイリスとミズキが縋りついているのだから。
「パパー……ぼくこわかった……でも、パパはもっとこわかったよね……?」
「うう……シゲル様の危機だというのに何もできませんでした……ごめんなさい……」
どうもディーヴェルの魔力を察知し、僕がディーヴェルに殺されてしまうのではないかと心配してくれたようなのだ。
そして、気づいていたにも関わらず、何もできなかったことを悔やんでもいる。
「まあ俺たちが束になっても敵わない相手だしな……兄貴はよく無事だったな……」
「そうだね、ただ交渉に来てくれただけでよかったよ。その気になれば一瞬でこの町は終わりだっただろうし……」
「やー! そんなのやーっ!」
僕の言葉に反応してアイリスが僕に強く抱きついてくる。
「ごめん、もしもの例えだから落ち着いて……ね?」
「ぐすん……」
アイリスはまだこどもなんだから、もっと考えて話さないとダメだね……不安にさせてしまうのはよくない。
『しかしどうするのだ? もし解呪のアイテムが見つからないようなら……』
「いえ、何としても見つけます。彼らはもしかすると、魔族と人間の懸け橋になるかもしれませんし」
『ふむ……?』
「実はですね……」
僕はディーヴェルの妻が人間であることをみんなに話した。
意外だったのか、アースドラゴンさんも珍しく驚いたような表情をする。
『なるほどな……それならば我も何か思い出したら情報を提供しよう』
「ありがとうございます。……それにアイリスとミズキも、土の精霊様と水の精霊様に伝えておいてもらえる?」
「うんっ!」
「はい、シゲル様のためなら」
「俺も兄貴の役に立てればいいんだが……オヤジとはまだ会えないんだよな……」
「水の精霊様はミズキは聖樹が成長したら会えたから、もしかするとアグニの聖樹が成長したら会えるかもしれないね」
「本当か!?」
僕はアグニに頷く。
……そうだ、以前は聖樹の実が生って、リリーに食べてもらうことでスキルが追加された。
もしかしたら解呪ができるような新しいスキルを手に入れることができるかもしれない。
火の精霊様と会うため、そして聖樹の実を収穫するために、アグニの聖樹を重点的に育てるのもありかな……?
とにかく、できることはなんでもやっていかないと。
それにしても、タイガさんたちが協力してもダンジョンを踏破できないほど、近くのダンジョンは深いのだろうか?
もっと強力な冒険者がいないとダメなのだろうか。
…………そうだ!
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……そして、次の日。
「……ということで、今回共にダンジョンに潜らせてもらうディーヴェルだ。よろしく頼む」
「……シゲル、自分は開いた口が塞がらないのだが……まさか依頼相手が……」
「すみませんタイガさん、どうか協力してください」
「私はシゲルさんのためなら何でもしますっ!」
「わ、わたしもシゲルさんのためなら……」
そう、ダンジョンを踏破する方法。
それはディーヴェルに協力してもらうこと。
魔王の息子だから実力は折り紙付きだろうし、難なく踏破できるのではないかという算段だ。
他の三人がタイガさん、イベリスさん、フォウさんなのは、冒険者の中でも幸運値が高いから。
レアドロップを狙いつつ、未知の領域の踏破も狙うならこのメンバーがいいと判断した。
「自分は断るわけではないが、ただただ驚いている……」
「すまない、妻のために力を貸して欲しい。どうか、よろしく頼む……」
ディーヴェルさんがタイガさんに深々と頭を下げる。
「い、いや、その……頭は下げないで欲しいんですが……」
タイガさんがしどろもどろになっている。
ちょっと言葉に素が出てるというか……しょうがないよね、相手が冒険者の最終目標である魔王の息子だもの。
「私は妻を助けられるなら何でもする。どうか……」
「はぁ……すごい愛妻家で羨ましいなあ……ね、シゲルさん?」
イベリスさんが僕をちらちら見ながら何か言っているけど、ここはスルーが上策だろう。
話が変な方向に転がりかねないし。
「こちらとしても探索範囲が広がるのはありがたいし……よろしく頼む」
タイガさんがディーヴェルさんに向かって右手を差し出し、ディーヴェルさんはそれを力強く握り返す。
「ああ、任せてくれ」
……こうして、おそらく史上最強のパーティーが出来上がったのだった。
「それでは早速ダンジョンに潜ろう。シゲル、それでいいだろうか?」
「はい、充分な量の幸運の実、回復アイテムを持ってきました。ダンジョンの最深部が分からないので、幸運の実は既にレアドロップが確定している浅い層では使用を控えてもいいかもしれません」
「そうだな。それに収納魔法もないから持ち込める量も限られてくるし……今回は最深部が第何階層かを調査するのを目標としてもいいかもしれないな」
確かに、最深部がどこか分かれば持ち込むアイテムの量も分かるわけだし……。
それに敵の構成、罠など、知りたい情報は山ほどあるはず。
「ありがとうシゲル、私のためにいろいろと……必ずいい情報を持ち帰ると約束しよう。さて、リーダーはタイガに頼んでもいいだろうか」
「え、えーと……自分でいいのですか……?」
あ、また素が出てる。
確かに相手が相手だけに仕方がないんだけども。
「私はダンジョンに入るのは初めてなのでな……他の二人もよく知ったタイガがリーダーである方がいいと思っているだろう」
「は、はい……では」
こうしてリーダーをタイガさんに据え、四人はダンジョンへと潜っていった。
……さて、僕もやることをやらなくちゃ!
**********
「パパー!」
「分かりましたよシゲル様、解呪の方法が!」
「ほ、本当に!?」
聖樹の所へ行くと、アイリスとミズキからの朗報があった。
アイテムに頼らなくても解呪できる方法があると。
「それで、どんな方法を使えばいいの?」
「ええと、異世界から召喚される人の中に聖女と呼ばれる人がいまして、その人のみが使える魔法に解呪の魔法があるそうです」
「召喚……召喚……?」
召喚を使えるのは王都にいた召喚士だけ。
そして、その人は反乱で捕えられたと聞いたけどその後は……。
「どうかされましたか、シゲル様?」
「え、えーと……」
僕はかいつまんでその辺の話をする。
「う……期待させてしまって申し訳ございません……」
「いや、召喚士は王都にいた人だけじゃないと思う。他の国を探せばもしかしたら……」
そう、召喚士という職業が存在するなら、もしかしたら他の国にも同様に召喚士がいるかもしれない。
そして、既に聖女を召喚しているかもしれない。
「でも……もしいない場合は……」
新しく召喚を行う? 聖女が召喚されるまで?
でも、それは僕みたいに異世界からこの世界に無理矢理連れて来られる人を増やすだけ。
できることなら使いたくない。
「うん、みんな、この事は僕たちだけの秘密にしてもらえる? 時期が来たら僕から話すから」
「うん! ひみつー!」
「分かりました、シゲル様に従いますわ」
もし今潜っているダンジョンや、他のダンジョンで何も見つからない場合……またはこの世界に聖女がいない場合の最終手段ではある。
判断はタイガさんたちが戻って、そしてこの世界のダンジョンをまわり尽くしてから決めよう。
そう心に誓って、タイガさんたちが何か情報を持ち帰ってくれることを願うのだった。




