59.名前
「……ということで、君の名前は『アグニ』でどうかな?」
「アグニ……分かった、今日から俺はアグニだ! ……ところでアグニって、何かの意味がある名前なのか?」
「えーっと……」
……しまった。
そうこられたら、僕が元いた世界の神様の名前って答えなきゃいけない。
もう一つ『カグツチ』という名前と迷ったんだけど、これはモロに日本語なのでアグニにしたんだけど……。
でも、いつかは明かさないといけないんだし、アグニには正直に話そう。
一日経って落ち着いてきてるだろうし。
「僕が元々いた世界の神様の名前だよ」
「元いた世界……ってことは兄貴は転移者なのか!?」
「うん、僕がこの世界に転移してきた時に、土の精霊様にスキルを頂いたんだ。それが『成長促進』と『土の精霊の加護』で、最近『成長逆行』のスキルも頂いたんだよ」
「へー、すっげーなー……昨日、ミズキの姉貴に聞いたんだけど、聖樹を食べたアーマーウルフも倒したし、ミノタウロスも倒したし……なんか、兄貴なら魔王すら倒しそうだなあ」
「いや、それは無理だと思うよ……」
アーマーウルフを倒せたのも、変異種のミノタウロスを倒せたのも、全部仲間がいてくれたおかげだ。
僕一人の力なんてそんなに凄いものではない。
現に、僕みたいに異世界召喚された人たちはみんな魔王に……。
「まあ、兄貴はあんまり戦いが好きじゃないみたいだし、もしかしたら話し合いで解決しちゃうかもな」
「ふふふ、シゲル様なら確かにあり得そうな話ですわ」
「パパ、とーってもやさしいからすきー!」
「……ありがとう」
みんな本当にかわいくて、実際に弟や娘がいたらこんな感じなのかな……。
……いや、この年でこんなに大きい娘はいないよな……。
「とりあえず……今日はアグニの命名記念に、みんなで黄金の実のジュースを飲もう」
「ふわぁ……」
「この香りは……Aランクですね」
「うわー……ここからでも分かるぐらいすげーいい匂いだ……」
みんなの視線が僕の持つ黄金の実のジュースに集まる。
ツバキさんに無理言って作ってもらえてよかった……。
僕はコップに均等にジュースを注ぎ、みんなに持ってもらう。
「それじゃアグニ、これからよろしく。……かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
その後、僕たちはアグニにこの町のことやダンジョンのこと、僕の道具屋のことなどを話した。
もう少し聖樹が成長して本調子になったら、アグニも僕たちのことを手伝ってくれるらしい。
その日が来るのを楽しみに待ちながら、僕たちは会話を弾ませたのだった。
**********
その後、毎日聖樹の元に通い、アグニの聖樹やアイリス、ミズキの聖樹に次々と魔力を注いでいく。
……いつもはミズキが一番早く魔力が欲しいと言うのに、今日は珍しく最後でいいと言われた。何かあるんだろうか?
そう思いながらミズキの聖樹に魔力を注ぎ終わると、急にあたりが暗くなって、透き通った水のような身体を持った女性が現れた。
……もしかして。
『あらあらあら……あなたが娘の想い人のシゲルさんね。うふふ、噂はミズキからたくさん聞かせて頂いておりますわ』
「あの、もしかして……水の精霊様でしょうか?」
『ええ、わたくしはミズキの母であり、水の精霊とも呼ばれる者ですわ。ふふ、噂通りの方ですわね』
「い、いつもミズキにはお世話になっております」
『あらあら、もっと砕けた喋り方で大丈夫ですわよ。いずれあなたの義母となりますもの』
「……えっ?」
今なんて言いました?
義母?
『もしシゲルさんさえよろしければ義母ではなくて、妻でもよろしいですわよ……ぽっ』
「お、お母さま!?」
『あらあら、冗談ですわよ、冗談。場の空気を和ませようと思ってですわね……』
「……本気で言ってませんでしたか、お母さま?」
……確かに目が笑ってなかった気がする。
というか、なんでそんな評価されてるんだろう、僕。
『こほん、では気を取り直して……今日はシゲルさんにお礼をお渡しするためにきましたの』
「僕に……お礼、ですか?」
『ええ、かわいい娘をアーマーウルフから助けて頂いただけではなく、元の姿に戻るまで……更に、その先へと成長するために魔力を頂いておりますから』
「大したことはしていませんよ、毎日の日課のようなものですし」
『……しかし、あなた以外の魔力では聖樹が成長しないこと……それはシゲルさんがよく知っておいででしょう?』
……確かに。そう思って僕は頷いた。
相性があるのか、僕以外の『成長促進』では聖樹は成長しなかったのだ。
『ですから、シゲルさんのおかげで娘がここまで成長することができたのです。娘の成長を喜ばぬ親などいません。そして、その成長の手助けをして頂いたシゲルさんに、せめてものお礼と思いまして』
「……分かりました、ありがたく受け取らせて頂きます」
『それではこちらへ……』
僕は水の精霊様に歩み寄ると、水の精霊様は僕の身体を水で包み込む。
すると、僕の中に温かい光のようなものが宿った気がした。
「これは……」
『わたくしの加護です。これであなたのスキルは更に進化を遂げるでしょう』
「『成長促進』が、ですか?」
『ええ、ご存知とは思いますが、ミズキとアイリスの2人が力を合わせて使うスキルがありますね?』
「はい、雨を降らせて、その雨を浴びた植物の成長が早くなる……」
『それを、あなた単体でも使えるようになりました。レベルが上がれば更にまだ見ぬ効果も現れるでしょう』
あの雨を僕一人で!?
ミノタウロスの時に二人から魔力を分けてもらった時には使えてたけど、二人の協力なしに使えるようになったのか……。
「でも、魔力の少ない僕ではあまり広範囲には使うのは難しそうですね」
『はい、ですが植物一つを育てるのと同じ魔力で、一度に大量に育てることができます。もちろん、ランクは下がってしまいますが……』
「それでも充分です、ありがとうございます」
これなら今までと同じ魔力消費量で道具屋のラインナップを充実させることができる。
それに、レベルが上がれば更に追加効果もあるみたいだし、先が楽しみだ。
『それではシゲルさん、わたくしがこちらに留まるのはそろそろ限界のようです。ミズキの事、よろしくお願いしますね』
「分かりました、ミズキが一人前の精霊になれるように協力させて頂きます」
『ありがとうシゲル……それでは、またいつかお会いしましょう』
水の精霊様はそう言うと、スーッと空気に溶け込んで消えて行った。
「ひゅーっ……す、すげえ魔力量だった……兄貴はよく耐えられるな……」
「ああ、そういえばアグニが苦手な水属性の精霊様だから、プレッシャーが凄いのかな」
「精霊同士は仲は悪くないのですが、どうしても属性相性というものがありますしね……」
「すごいきれいなひとだったー! ぼくもきれいになりたーい!」
ちょっと呑気なアイリスの言葉に癒されつつ、僕は早速新しいスキルを試し、商品を充実させていくことになる。
その後大量の量産化が成功して他の国へ種の輸出ができるようになり、他国の人口流出は緩やかになっていき一安心するのだった。




