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【完結】異世界で道具屋はじめました  作者: SAK


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55.新しいスキル

「うん、狙い通りになっている感じかな……」


 冒険者ギルドと商人ギルドのギルドマスターに情報共有をして、それからしばらくの後。

 冒険者ギルドでは、パーティーを組み直すことで1日に何度でも同じ階層で稼げる仕組みが知れ渡り、元々は4人パーティーが基本だったところ、10人以上の大きめのパーティーが結成されるようになる。

 また、幸運のステータスだけが高い人も居場所ができたようだ。


 また、商人ギルドでも幸運の実の有用性がゴールデンスライム出現という情報で知れ渡り、道具屋だけでなく商人全体が幸運の実を求めることになる。

 そこに、僕がギルドマスターに渡した幸運の実の種が流通し、それを育成して冒険者に販売する人が多くでてきた。


 これにより、幸運の実を使った冒険者たちがダンジョンに潜り、黄金の実を持ち帰るパーティーがかなり増えてきたようだ。

 ただ、最初の辺は僕が恐れていた通り、おいしさを噂でしか知らないため、黄金の実を興味本位で食べたパーティーが黄金の実にドハマりしてしまい、お店に売られるケースは極めて稀だったという。

 しかし、このゴールデンスライムを出現させられる方法が他国にまで広まると、冒険者の数が増加。

 また、幸運のステータスが高い人も集まり始めて収穫量が増え、次第に黄金の実が一般にまで流通するようになっていったのだ。


「それにしても凄いわねえ……シゲルくんの実験でここまで大きな変化が起こるなんて……」

「そうですね……最初はスライムのレアドロップの調査から始まって、いつの間にかレアモンスター、更には激レアドロップまで調査するようになって……」


 ちなみに、今のところゴールデンスライムの激レアドロップである神秘の実を入手したパーティーの話は、一度も聞いたことがない。

 やはりフォウさんの異常なまでに高い幸運が関係しているのだろうか。

 それとも、貴重過ぎる実だから情報を表に出さないようにしているのだろうか。


 なお、スライムの方の激レアドロップである堅固の実はそれなりに入手報告があるようだ。

 レアモンスターの激レアドロップとはまた違う確率があるのかな……。


「シゲル様、いらっしゃいますか?」

「あ、ミズキ。慌ててるみたいだけど、どうしたんだい?」


 ミズキは僕の耳に顔を近づけると、周りに聞こえないようにして囁く。


「準備ができましたので、このあと聖樹までお越しくださいませ」

「! うん、それじゃお店が終わったら……」

「あらあら、こんなにかわいいミズキちゃんを待たせるなんてシゲルくんは悪い子ねえ……お店はわたしとリリー、ルピナスちゃんとトレニアちゃんに任せて、行ってらっしゃい」


 話の内容を察したのか、ガーベラさんは僕に聖樹の元へ行くように促してくれる。

 リリーやルピナス、トレニアもガーベラさんに同意してくれているようだ。


「でも、お土産よろしくね、おにいちゃ……じゃなかった、店長」

「……ご褒美の野菜、増量……」

「う、うん、ルピナスとトレニアも期待して待ってて」


 僕はそう言うと二人の頭を撫で、荷物を持って急いで丘の上の聖樹の元へと向かうのだった。




**********




「それじゃ、僕が魔力を注げばいい?」

「うんっ! ママがでてきてくれるよ!」

『ほう、それなら我もついでに……』


 横からスイっと出てきたのはアースドラゴンさん。

 もしかして土の精霊様に用事があるのだろうか?


『なに、邪魔はしないから安心するがよい』

「わ、分かりました……でも、驚かさないでくださいよ」

『ふ……ちょっとした冗談だ』


 うーん、ドラゴンでも冗談を言うんだ。

 意外な一面を見れた……いや、爆裂草を食べてる時点でちょっとしたギャグではあるのだけど。


 ……さておき、早く聖樹に魔力を注ごう。


 僕は聖樹に手をかざすと、『成長促進』を発動させる。

 少しずつ魔力が注がれ、いつものように土の精霊様が姿を現す。


『お久しぶりですシゲル……いつもアイリスとミズキをありがとうございます』

「いえ、二人とも手のかからない子なので、僕はほぼ何もしていませんが……」

『いいえ、シゲルたちだからこそこの子たちは良い方向へと育ってくれています。……ふふ、アイリスは「ママにおうごんのみをたべてもらいたいから、パパのおねがいきいてあげて!」と言うのですよ。とても優しい子に育っていますね』


 土の精霊様はアイリスのことを慈しむような目で見ている。

 自分の娘が、自分を気にかけてくれるように育ったのがとても嬉しいのだろう。


『……話が逸れてしまいましたね。それではシゲル、貴方の望むスキルを授けましょう……さあ、こちらへ』

「は、はい……」


 僕は高揚感を抑えながら精霊様の元へと歩み寄る。

 そして、土の精霊様が僕に手をかざすと、身体全体が光りに飲み込まれてゆく。


 やがて光が収まると、僕の中に新しい何かが宿ったような熱さを感じた。


『使い方は「成長促進」と同じです。時を進めるのではなく、時を戻すのが相違点でしょうか』

「ありがとうございます、このあと実際に使わせて頂きます。……それでは、こちらを」


 僕は袋から黄金の実を取り出し、土の精霊様に捧げる。


「おうごんのみだ! ママ、たべてたべてー!」

『ふふ……後から頂こうと思っていましたが、アイリスに言われては断れませんね』


 土の精霊様はそう言うと、黄金の実を少し齧る。


『……そうですね、アイリスの言うようにとても美味しい果実です。果実自体もなのでしょうが……シゲルとアイリスの心も籠っているからこそ、この味なのでしょうね』

「えへへー、つぎはもっとたべさせてあげるね!」

「わ、わたくしも土の精霊様のために黄金の実を育てますわ!」

『ミズキもありがとう、水の精霊が貴女に会えたらさぞ喜ぶことでしょう』


 ……そういえば、土の精霊様はこの聖樹に顕現できるけど、水の精霊様はどうなんだろう?

 そんな疑問を土の精霊様にぶつけてみる。


『そうですね……アーマーウルフに吸い取られた魔力以上に、ミズキの聖樹が更に魔力を蓄えることができれば、近いうちに顕現できるでしょう。水の精霊も、ミズキのことを気にかけていましたよ』

「! あ、ありがとうございます!」

「それじゃ、ミズキが早く水の精霊様に会えるように、僕もがんばらないとね」

「シゲル様……」


 ミズキが僕にそっと抱きついてくる。

 実の親に会えるんだ、がんばってあげないとね。


『……では、土の精霊様、少しよろしいでしょうか?』

『ええ。……ここから遥か西の邪悪な気配のことでしょう?』

『ご存知でしたか。おそらく相手はミノタウロス……以前のアーマーウルフ以上に厄介な相手です』

「ミノタウロス……!?」


 そういえば最近、ツバキさんが魔族の領地に近いところで、火を吹く変異種のミノタウロスが出たと言ってたけど……まさか、ね。

 そして以前のアーマーウルフ以上に厄介な相手ということは……ここに向かっているのだろうか。

 そんな疑問を二人にぶつけてみる。


『ええ、そのミノタウロスはこの町へと一直線に向かってきています。恐らく狙いは……この聖樹でしょう』

「この聖樹の魔力を取り込もうとしているのでしょうか? ……あのアーマーウルフのように」

『シゲルよ、今回は我が出ても構わんぞ。この聖樹を破壊されるのは我としても看過できん』

「……分かりました、僕たちだけでどうにもならなかった場合はお願いします」


 以前に比べてフリーデンには人が増えた。

 もしアースドラゴンさんが出撃すれば、目撃者がかなりの数に登るだろう。

 そうすれば噂が人を呼び、ドラゴン目当ての腕利きの冒険者たちが集まる可能性がある。

 今でも素行の悪い冒険者はたまにいるが、それが増えてしまうと治安が悪くなるかもしれない。

 それなら、できるだけ僕たちだけで倒した方がいいだろう。


『ふむ……無理はするでないぞ。もしシゲルがやられるようであれば、我にとって不利益だ』

「ええ、そうならないよう、しっかりと準備をします。こちらに現れるまでどれぐらいの猶予がありますか?」

『そうですね……おそらく一ヶ月以内にはこちらに到達するでしょう』

「一ヶ月……」


 長いようで短い。この一ヶ月をどう戦力強化に充てるか……悩ましいところだ。

 アーマーウルフの時に使った道具はできるだけ補充しておきたい。


『……それではシゲル、私はそろそろ戻らねばなりません。引き続きアイリスとミズキをよろしくお願いします』

「分かりました。……次に来られた時はもっとおいしい黄金の実を提供できるように、精進します」

『ええ、楽しみにしていますよ。それでは……』


 土の精霊様の姿が空気に溶けて消えていく。

 ……ミノタウロスか、入念に準備をしないとな。

 しかし、ここが襲われるという情報を流しても混乱を招くかもしれない。

 ミノタウロスが近づいてくれば嫌でも情報が入ってくるだろうし、今の段階ではできるだけこの情報は少数にしか回らないようにしておくべきかな。

 特に冒険者として活動しているタイガさんたちには、ミノタウロスが襲来する時には町にいて欲しいし、優先して回しておこう。


『……さて、シゲルよ。我も黄金の実を食べてみたいのだが』

「ええ、種はあるのでそれでは……と言いたいのですが、たぶん魔力が足りないので、魔力の実の補充とトレニアを呼んできます」

『うむ、待っているぞ』




**********




「さて、それじゃまずは種を地面に置いて、『成長逆行』を……使い方は『成長促進』と同じだったかな」


 僕は種に手をかざすと、成長が逆になるイメージを頭の中に描きながら、魔力を注ぎ込む。

 すると、種の周りに再び果肉が付き、更には枝が生え、果実が小さくなっていき……と、成長動画を逆再生しているような感覚だ。

 最初の果肉が付いた時点で止めてもいいんだけど、僕としては育てられる種が欲しいので、最後まで逆行したいところだ。

 途中、トレニアに魔力を補充してもらいながら、最終的に種に戻るまで『成長逆行』を行う。


「で、できた……!」


 かなりの魔力を使ったものの、種が収穫できるのを確認できた!

 これで、種が取れない状態の植物からでも種が収穫できるようになったんだ。


「それじゃトレニア、これから黄金の実ができるまでまた魔力をもらえる?」

「……うん。もしたくさんできたら……その、自分にも……」

「もちろん。複数生ったら持って帰っても大丈夫だよ」

「……!」


 トレニアが目を輝かせる。

 たぶん、自分だけでなくシスターにも食べさせてあげたいんだろうな。

 ……そういうことならがんばらないと!




 その後、黄金の実の種から、20個程度の黄金の実が収穫できることが分かった。

 1個はアースドラゴンさんに、僕には種の収穫用に1個、残りはトレニアに渡し、孤児院で食べてもらうようにした。


 ……アースドラゴンさん曰く『確かにうまい、が、やはり爆裂草のような刺激が足りないな……』らしいが……相変わらずだなあ。

 次は竜の泉で育ててBランクの黄金の実を収穫したいところだ。

 販売用にはそれ以外で育ててランクを落として……かな。

 町に黄金の実が出回るようになれば、僕が黄金の実を販売してても怪しまれないだろうし、これを使ったレシピを考えていきたいな。


 こうして新しいスキルを授かり、また一つ強みが増えたのだった。

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