54.情報共有
「うん、いい流れができつつあるかな」
……先日のダンジョン第一階層で出現するゴールデンスライムの調査。
この調査結果を冒険者ギルドと商人ギルドのギルドマスターたちと共有したのだが……。
二人とも凄く驚いていて、商人ギルドのギルドマスターは他国への新たな輸出アイテムとなり得る可能性があると興奮気味だ。
また、冒険者ギルドのギルドマスターも、第一階層でそれなら第二階層以降は……と、第二階層以降のレアモンスターやレアアイテムの調査を、冒険者ギルドの援助で行いたいと申し出てくれた。
それにはレアモンスターの出現に必要な幸運の実を育てる必要があるのだが、それは種を商人ギルドのギルドマスターに渡し、そこから信頼できる生産者に配布する形にしてもらう。
つまり、以前のBランクの薬草の種と同じ方式だ。
これで町中に幸運の実が出回るようになれば、それを使って冒険者たちがレアモンスター狩りをしてくれるはず。
そうすれば黄金の実の流通が増え、この町の特産品……ゆくゆくは他国への輸出アイテムとなるだろう。
「しかし……よろしかったのですか、シゲルさん。この情報を外に出さなければ独占できたでしょうに……」
「ああ、それに貴重な情報ってのは高値で取引される。それを無償で提供するなんて俺には信じられん」
「それはですね……僕の周りだけでは入手数に限界がありますし、それに……僕自身も黄金の実が市場に出回って欲しいんです」
僕はドロップで手に入る黄金の実の中にある種は、育成ができないという事実を二人に話す。
「なるほど……『成長促進』などでも量産できないとなると……」
「実際にダンジョンに入って入手するしかねえ、ってことになるな」
「だから、情報を多くの冒険者に知ってもらえれば、それだけ市場に出回ってくれるはずです。多分……」
「多分……とは?」
商人ギルドのギルドマスターの言葉に反応し、僕は袋から黄金の実を2つ取り出す。
「……実際に召しあがれば理解していただけると思います」
「いいのか? 市場でもかなりの高値がつくはずだが……」
「はい、この機会にぜひ」
「それでは…………こ、これは!?」
2人とも一口食べた瞬間に思わず目を見開く。
……うん、やっぱりそうなるよね。
「貴族の間で評判とは聞いたことがあるが……こんなに美味い果実は食べた事がねえ……」
「え、ええ……病みつきになるような素晴らしい味です。確かにこの味を知ったら、売らずに自分で食べてしまいそうですね……」
「換金すれば多額のお金が手に入りますが、それで買えるものでこれよりおいしいものはそうそうないと思います。……これが、少しだけある不安材料ですね」
そう、手に入れても自分で食べてしまっては市場に出回らない。
自分で食べるよりも多くの実を入手できれば別なのだが、フォウさんでもなければそこまでゴールデンスライムの出現率が高くはない。
つまり、入手数が市場に出回るか出回らないかギリギリのラインなのである。
「依頼人が幸運の実を提供する代わりに、ゴールデンスライムの討伐を冒険者に依頼する形にすればいけるかもしれねえが……」
「幸運の実が出回れば自分たちだけで狩った方が儲かりそうですしねえ……難しいところです」
「とりあえず、情報を流してみましょう。それでこの町に冒険者が増えるなど、いい状況になるかもしれませんし」
「確かに、今まで幸運だけが高いやつは不遇扱いされてたし、そこが改善されるかもな」
「そうですね、それに第一階層だけで済むなら、練度の低い冒険者でも安全に稼ぐことができるでしょう」
どうも今までの冒険者は近接系のステータスや魔法系のステータスが重要視されていたらしく、幸運が高い人たちは他のステータスが低いため、軽視されていたようだ。
その現状をひっくり返せるなら、それだけでも情報を流す価値はあるだろう。
「ただ、人が集まるとどうしても治安が悪くなりがちですからね……」
「そこは巡回を増強するなどして治安維持に努めよう。巡回の仕事が増えれば食いっぱぐれるやつも減るだろう」
「なるほど、新たな仕事の創出ですね……では、時期が来たら情報を流しましょう。シゲルさん、それでよろしいですか?」
「はい、よろしくお願いします!」
こうして、ダンジョンの第一階層でレアモンスターとしてゴールデンスライムが出現すること、黄金の実をドロップすること、そして幸運が高いほど遭遇しやすいこと……それらの情報がフリーデン内外に広まっていった。
すると、フリーデン国外からの冒険者たちが増え、また、幸運のステータスが高い人への待遇が改善されることになっていく。
最初は予想された通り、なかなか黄金の実が出回らなかったが、徐々に流通量が増えていき、フリーデンの特産品となっていくのだった。
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「あっ、パパー! おかえりー!」
ギルドマスターたちに情報を伝え、日課の聖樹への魔力供給を行いに来ると、アイリスが駆け寄ってくる。
僕はアイリスを抱き止め、抱っこしてあげる。
「アイリスはいっつも元気だなあ」
「えへへー……あっ、そうだ、ママからパパにおはなししたいことがあるって!」
「僕に? あ、例の植物の成長を逆行させるやつのことかな?」
「その通りですわ。それに関してはわたくしから説明させていただきますわ」
「ミズキが?」
土の精霊様の伝言を、水の精霊様の娘であるミズキが……?
アイリスは土の精霊様の娘だから意志を伝えられるんだろうけど、ミズキも同じようにできるんだろうか。
「もしかして……聖樹が融合して1つになったから?」
「その通りですわ。わたくしも驚きましたけど……夢の中でお会いできましたの」
「えへへー、ミズキおねーちゃんといっしょー!」
「そっか、よかったね」
なるほど、それなら合点がいくかも。
僕はアイリスの頭を撫でてあげながら、ミズキから話を聞く。
「ではお伝えしますわ……『シゲル、貴方が望む効果のスキルを授けることはできます。ただ、勇者などが持つような強力なスキルではなく、植物の成長を操作するだけのスキルで本当によいのでしょうか? 精霊の子たちが慕う特異な貴方が望むなら、もっと強力なスキルを授けることもできるのですが……』……ということだそうですわ」
強力なスキル……か。
確かにそれがあればもしかしたら僕でも強い冒険者になれるかもしれない。
でも僕は道具屋として生きていくと決めたんだ、そのスキルで充分だ。
「うん、そのスキルで大丈夫だと伝えておいてもらえる?」
「わかりましたわ、シゲル様のお望み通り……」
「おねえちゃん、ぼくが、ぼくがママにいいたいー!」
アイリスがミズキの袖を引っ張る。
どうやら、土の精霊様の伝言を自分で僕に伝えられなかったから、僕からの伝言はアイリスが伝えたいらしい。
「あらあら……ではアイリスに任せてもよろしいですか?」
「それじゃ、アイリスが土の精霊様に伝えてもらえる?」
「うんっ!」
アイリスの表情がぱぁっと明るくなる。
うーん、こどもの成長を見守るってこういうことなのかなあ。
などと、ちょっとほっこりしながら、スキルを授かる日が来るのを楽しみに待つのだった。




