53.実験3
「……ということで、今回は全員が『幸運の実』を食べて、運が上がった状態でダンジョンに入ってもらいます」
僕の発言に集まったみんながざわつく。
それもそうだ、発言と同時に100個を超える幸運の実の入った袋を広げてみせたのだから。
「確かに説明された実験には必要なものだが……相変わらずシゲルのやることは規格外だな」
「タイガさんの言う通り、これほどの量を使うのは前代未聞でしょうが……もしこれで幸運とレアモンスターの関係の詳細が分かるのなら安いものだと思ってます」
今回の実験の内容はこうである。
一番運が高いフォウさんと、レアモンスターのゴールデンスライムを確実に仕留められるリリーは固定メンバーとして起用。
そして、他の二人は幸運の高い人から順に入ってもらい、レアモンスターの出現率が変わる幸運の値……要するに閾値を調査する。
この閾値が判明すれば、事前にどれだけ幸運の値を伸ばせばいいのかが分かるので、幸運の実の使用数も削ることができるわけだ。
そうすれば最低限の出費でゴールデンスライムのドロップ品である黄金の実、そして神秘の実を効率よく集めることができる。
そして、ついでにゴールデンスライムが出現する最低限の幸運の値も調べておけば、他の冒険者たちの貴重な情報にもなり得るはず。
ちょっと大変な作業になると思うけど、がんばっていこう。
「今回ドロップした黄金の実はフォウさんとリリーを除くその時のパーティーメンバー2人で山分け、神秘の実は……今後も実験を続けるので参加人数全員分が集まった時点で全員に1つ配布、という形にさせて頂きます」
「黄金の実だけでなく神秘の実まで……?! いいんですか、シゲルさん?」
「ええ、もちろんです。ただし、渡した人が使うか、その人が所属するパーティーの人が使う……例えばウルさんの場合はウルさん本人か、ウルさんのパーティーの誰かが使うのが制約です。……売ってしまって出所を探られたくないので……」
まだ幸運の実を他の人が育てる準備ができてないから、僕の店にお客さんが押しかけないように一応釘を刺す。
前回の結果もみんな秘匿してくれているので、大丈夫だけど一応ね。
みんなも僕の言葉に頷いてくれたのを確認できたので一安心だ。
「それでは実験を始めましょう。……あ、待機中の人にはこれらを配布しておきます。ツバキさん、お願いします」
「うむ」
ツバキさんは収納魔法を使い、全員分のイスと数個のテーブルを取り出す。
そして、各テーブルにはうちの道具屋特製の果物ジュース、それに……。
「順次、僕がかき氷も作っていきますので、ご要望の味があれば……」
「俺いちご!」
「わ、わたしはメロンが食べてみたいです……」
かき氷の道具を広げた途端、孤児院組の冒険者見習いの子たちが殺到する。
どうやら孤児院でもかき氷の噂が広まっているらしく、すごく食いつきがいい。
「充分な量は持ってきてますので、焦らずお願いしますねー。それと、ルピナス、トレニア、今日はお手伝いをよろしく」
「もちろん!」
「……あとで自分たちにもください」
「もちろん大丈夫だよ。それじゃ、実験を始めよう!」
**********
「……うん、いいデータが採れたかな。みんな、お疲れ様」
「大量でしたねシゲルさん! ……それで、私は黄金の実はいらないので、シゲルさんに撫でてもらいたいんですけど……」
「うんうん、後からね」
イベリスさんの甘えを華麗にスルーしつつ、今回の戦利品を配布していく。
……一応、あとで数回ぐらいは撫でてあげるけど。
今回は全員が幸運の実を使って運を底上げしていたので、黄金の実はもちろん、神秘の実も4個確保できた。
レアモンスターの出現率はやはりパーティー全体の運に関係しているようで、幸運値の上位4人でダンジョンに入った時は出現率がかなり高かった。
また、下限もついでに調査し、ゴールデンスライムが出現する閾値もほぼ判明したのはかなりの収穫だろう。
なにせ、フォウさんがいなくてもゴールデンスライムが出現するわけだから、冒険者からしてみれば喉から手が出るほど欲しい情報になるはずだ。
「……さて、報酬の配布は終わったし解散といきたいところだけど……タイガさん、ウルさん、イベリスさんはもう少し協力して頂けますか?」
「もちろんですっ! ……なでなで追加でお願いします」
他の二人も頷いてくれ、その後僕たちは少しだけ追加でゴールデンスライムを狩ることにした。
というのも……。
**********
「わぁーっ……すごいすごいすごーいっ! ぱぱ、ありがとー!」
「わたくしたちのためにまた黄金の実を取ってきて頂けるなんて……嬉しくて胸がきゅんきゅんしますわ……」
追加で取った黄金の実は、アイリスやミズキのためのものだ。
前回取ってきたときにジュースにしてあげたら、特にアイリスが黄金の実の味を気に入ったらしくて、たびたび「またとってきてー!」と催促されていた。
フォウさんたちの本業があるのでなかなか持って来れなかったけど、今回は多めに取れたのでしばらくは困らないだろう。
「そういえば、種から育てることはできませんの?」
「そうだね、この実に入ってる種はまだ成長途中で……木に生っている状態でないと成長が止まってしまい、『成長促進』を使っても大きくならないんだ」
こればっかりはどうしようもない。
種自体がドロップするのではなく、実がドロップするのだから育てることができない。
もし量産できるならお店の看板商品にもできるんだけど。
「うーん……成長させるのではなくて、成長を戻せればもしかしたらできるかもしれませんけど……そんなスキルも魔法も、聞いたことはないですわね……」
「種から芽が出て木になり、実が生るという過程を逆行するってこと? 確かにできたら種が収穫できそうではあるけど……」
……そんなスキルは逆に怖い。
どんな植物でも種に戻せるわけだし、下手すれば加工された木材まで種に戻せるかもしれないし……。
「……アイリス?」
僕はふとアイリスの方を見ると、難しい顔をしているのが見えた。
いったいどうしたんだろうと思って声をかけたのだが……。
「あのね、ぼく、ママにいってみる!」
「ママ? ガーベラさんのことですの?」
「ううん、たぶんアイリスが言いたいのは……土の精霊様のことじゃないかな」
確かにアイリスはガーベラさんのことをママと呼ぶけど、話の流れとしてはおそらく土の精霊様のことを言っているのだと思う。
その証拠に、僕の発言に頷いてくれた。
「ぼくももっともっと、たーっくさんのみたいけど……ぼくね、ママにものんでほしいの」
「……そうだね、おいしいものは皆で分け合った方が、もっとおいしくなるね」
「うん! だからね、こんどママにきいてみる!」
「ありがとう、それじゃお願いできるかな?」
「うんっ!」
……ママにも飲んで欲しい、かぁ。
アイリスは優しい子に成長してくれて、僕としても感慨深い。
……って、僕はまだこどもがいる歳じゃないのに、ついついそんなことを考えてしまった。
しかし、もし本当に『成長促進』の逆……『成長逆行』? ができてしまったら、それは革命になりそうだ。
どんな小さな種や枝からでも種を収穫できるかもしれないし。
転換して攻撃に使えるスキルになるかもしれないし……。
果たして結果はどうなるんだろうと、不安と期待が入り混じりながらも、アイリスとミズキと一緒に、黄金の実のジュースで楽しい一時を過ごすのだった。




