52.神秘の実の使い道
「うーん……どうしようかな……」
僕が今悩んでいるのは、先日レアモンスターのゴールデンスライムから入手した神秘の実の使い道。
ステータスがランダムで上がるから、もしかしたら魔力が上がる可能性も……。
でもステータスの数が多すぎて、僕が使うと魔力以外だと無駄になるという。
「やっぱり冒険者の人に使ってもらった方が……」
となると、あの場にいた冒険者のタイガさん、ラスさん、ウルさん、イベリスさん、フォウさん……あたりが適任だろうか。
でもこれ、レアアイテムというのもあり、とんでもない高額品なので受け取ってもらえるかどうか。
せっかくのレアアイテムなのに使わずじまいというのももったいないし……。
僕は貴重品をクリアまで使わずに取っておく、いわゆるエリクサー病持ちではないのだけど、本当に使いどころに悩んでしまう。
「もっと使いやすかったり、成長促進で増やせるアイテムだったらよかったんだけどなあ……」
そう、数さえあれば使うのに躊躇はしない。
現に、ゴールデンスライムが落とすもう一つのドロップアイテムである黄金の実は、入手したその日のうちに全部食べてしまったほどだ。
ツバキさんの鑑定の通りかなりの美味しさで、甘みが強めの食べ応えのある果実だった。
……実はそれが忘れられずに、またフォウさんに依頼をしようと思ってしまったほどである。
他にも、黄金の実を食べた他の人たちもまた食べたくて協力を申し出てくれるぐらいの味だったようだ。
おかげで、再度ゴールデンスライムの検証ができるわけなのだけど。
次に検証した時に神秘の実が複数手に入れば使いやすくなるかな?
「まあ、神秘の実の上がるステータスも上がる数値もランダムだし、目当てのステータスを上げるなら相当運がないと……運?」
そうか、もしかしたら……。
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「え、えっと……わ、わたしが神秘の実を使うんですか……?」
「ええ、ランダム要素があるなら、運の高いフォウさんが一番適任かと思いまして……それに、前回の実験の時に出ずっぱりだったので、追加報酬ということで……」
そう、フォウさんなら運が高いから必要なステータス、かつ一番高い数値を引き当てられるのではないかと思ったのだ。
それに、前回の一番の功労者でもあるから、苦労に報いてあげたい。
ちなみに、同じく出ずっぱりだったリリーには黄金の実を1つ多くあげていたりする。
今回も、フォウさんのどのステータスが上がったかの確認をしてもらうし、リリーにはとても感謝している。
「ででで、でも、こんな高価なもの……」
「使わないと損ですし、手に入ったのはフォウさんのおかげですし……お願いします」
僕はフォウさんの目をじっと見つめると、フォウさんは頭を縦に振ってくれた。
「ありがとうございます、ではこれを……」
「そ、それでは……」
フォウさんが神秘の実に齧りつく。
すると、フォウさんの身体が光り、神秘の実がスーッと消えていく。
……全部食べる必要はないんだ。
「な、なんだか不思議な感覚です……」
「それじゃ、どのステータスが上がったか確認してみましょう」
「それでは『鑑定』してみますね……」
リリーが『鑑定』を発動させ、フォウさんのステータスを鑑定する。
「えっと……運が5上がってますね」
「5!?」
確かツバキさんの鑑定だと、『1から3程度上昇する』だったような……まあ『程度』だから上ブレはあるんだろうけど。
でも、これで確定した。
ランダム要素のある効果なら、フォウさんは一番いいものを引き当ててくれると。
「これでまたゴールデンスライムの出現確率が上がるかもしれませんね、やっぱりフォウさんに使ってもらって正解でした」
「な、なるほど……確かに基礎が上がれば幸運の実でブーストした時の上がり幅も……」
「そういうことですね。だから、次に手に入ってもまたお願いすると思います」
「ななな、なんだかすごく贅沢なことをさせてもらってますが……い、いいんでしょうか……」
「ええ、フォウさんあってこそですしね。それに、ゴールデンスライムの出現率が上がれば、黄金の実も……」
「あ、確かにあれはおいしかったですね……! わたしもまた食べたいですし、パーティーの子たちにも分けてあげたいです」
やっぱりみんな美味しいというのが共通認識のようだ。
あの時参加した人たちも同じ気持ちだよと伝えると、フォウさんはやる気が漲ってきたようだ。
「そ、それでは、パーティーの子たちに確認を取って調整しますね。……実はみんな、シゲルさんの野菜を食べてファンになっちゃったようで、シゲルさんの依頼と分かればすぐに了承をもらえると思います」
「……ははは、野菜恐るべし……ですね」
「わ、わたしもそのシゲルさんの……またたびが……好き、です」
「あ、それでは次の追加報酬にまたたび酒を出しておきましょう。ツバキさんに依頼しておきますね」
「あ、ありがとうございます、えへへ……楽しみです」
フォウさんの尻尾がゆらゆらと揺れる。
表情には出づらいけど、こういう所があるから動物系の人種族はかわいいと思う。
「さて、それじゃこのあとツバキさんに依頼をしてきます」
「わ、分かりました、わたしもみんなに了承を頂いてきます」
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「……ということで、またまたたび酒の錬成を依頼したいのですが」
「ふむ、今回はどのぐらいのランクにするかのう」
「Aだと美味しすぎて気軽に飲めないそうで、少しランクを落としたBかCを数本お願いします」
「……美味しすぎる、か。そういう弊害もあるんじゃのう」
あんまり長期間保存すると味が落ちたり、腐ったりで飲めなくなりそうだし、早めに消費して欲しいのだけど。
「そういえば、魔族の領地に近い国で、変異種のミノタウロスが暴れておるそうじゃ」
「変異種、ですか?」
「うむ、普通のミノタウロスは力が強いだけなのじゃが、その変異種は火を吹くそうなのじゃよ」
「力だけでなく、広範囲のブレスまで……厄介そうですね」
「そのせいか、ポーションの注文が多くなっておってのう。よければ薬草を多めに卸してくれんかの?」
「分かりました、その国の助けになりたいですし、このあと早速作っておきます」
「うむ、頼んだぞ」
……変異種か、そういうのもいるんだな。
植物や生物でも突然変異はあるから、そう珍しくないのかもしれないけど、戦闘力が高いモンスターは厄介だなあ……ここに来ないといいんだけどね。
とりあえず、Bランクの薬草とCランクの薬草を多めに作って、救援物資として国に渡って欲しいところだ。
他にも使えそうなアイテムがあればツバキさんにお願いしたいところだけど……まずはポーションのために薬草かな。
その後、薬草を納品し、またたび酒を確保。
フォウさんも無事に仲間の了承を得られ、他のメンバーも前回と同じ人を集めることができた。
……実は、前回はパーティーごとにレアモンスターの出現率にバラつきがあったので、今回はそこを検証してみたい。
もし、今僕が考えていることが正しければ、更に効率が上がるかもしれないからだ。
こうして、早く次の検証に移りたいと思いながら毎日を過ごすのだった。




