51.レアモンスター
「……ときにシゲルよ、この大所帯はなんじゃ」
幸運ステータスにレアモンスターとの遭遇の確率が関わっていると知った一週間後。
僕たちはダンジョンの入口で待機をしている。
今回は僕、ツバキさん、リリー、ガーベラさん、タイガさん、ラスさん、イベリスさん、ウルさん、フォウさん……主だった冒険者の知り合いのほとんどと、孤児院の戦闘スキル持ちの子の中でも、スライムとなら戦えるだろうというお墨付きをもらった子たちを連れてきている。
それもこれも、レアモンスターのドロップ検証のため。
「しかし、同一メンバーでなければダンジョン内のモンスターが即復活するなど、よく見つけたな」
「確かにタイガさんの言う通りですね。普通なら連携とかを考慮すれば、ダンジョンの攻略なら同一メンバーが適切なんですが……」
「狙いをレアモンスターに絞り、浅い階層でそれを狩るには確かにこれが向いてるな」
ダンジョンには4人でしか挑めないという制約があり、更にダンジョンから脱出しても1日経たないとモンスターが復活しないという不思議な制約もある。
しかし、どうやらメンバーが完全に一致しないと同一パーティーとみなされないらしく、メンバーを入れ替えればすぐに復活するということに気が付いたのだ。
そして、それを逆手に取って、フォウさんの幸運をフルに使い、第一階層のレアモンスターの激レアドロップを検証するためにこのメンバーを集めた。
「兄ちゃんには世話になってるし、これで借りが返せるな!」
「ぼ、ぼくたちの経験値にもなるみたいだし、がんばらなきゃ……!」
孤児院の子たちもやる気は満々だ。
ただし、張り切り過ぎて無理をしないように、孤児院の子はパーティーに1人までという条件を課している。
ということで、メンバーはフォウさんは固定、冒険者を2人と孤児院の子1人の4人となる。
最初は検証内容の熟知のため、フォウさん、僕、リリー、孤児院の子の4人で潜ると決めた。
なお、外でもモンスターが徘徊していることがあるため、控えの子たちに危険がないように冒険者の人は多めに集めている。
また、ツバキさんは『鑑定』、そして収納魔法による道具の保管を依頼している。
「……ということで、ダンジョン組、待機組、お互い気をつけていきましょう!」
「ああ、外の事は任せておけ。……まあ、この人数に突っ込んでくるモンスターはそういないだろう」
……確かにBランク、Cランクの冒険者が複数いる所を襲う、命知らずのモンスターがいてもらっては困る。
でも、これで安心してダンジョン内部に突入できるかな。
「よし、それじゃ行こう」
「はいっ!」
こうして、幸運の実をフォウさんに食べてもらった後、検証第一陣がダンジョンへと突入するのだった。
**********
「わー……すげー……ダンジョンの中ってこうなってるんだ……」
「確かに外とは違って不思議ですね、でも、モンスターがいるから気を散らさないようにね」
「う、うん!」
孤児院の子に優しく忠告するリリー。
初めての景色に驚くのは確かだけど、いつモンスターが襲ってくるか分からないから、気を張り詰めておかなきゃね。
「今回は実戦が初めての子がいるから、誘因の罠は無しでいきましょう。フォウさん、それでいいですか?」
「はっ、はいっ! ではモンスターが近づいたらお知らせし…………きます!」
えっもう?
そして、通路の角から現れたのはスライム……ではない?
普通のスライムは透明だが、薄い金色のような色をしている。
「あれは……レアモンスターです」
「一発目で!?」
「はい、えっと……ゴールデンスライムというんですけど、近づくと逃げてしまうレアモンスターです。まさか第一階層にいたなんて……」
近づくと逃げてしまう、か。
となると、弓のリリーが適任か。
「それと、一撃で倒さないとダメです。攻撃を外してもすぐに逃げ出してしまうんです」
「近づいてもダメ、外してもダメ、か……」
うん、やっぱりリリーしかいない。
「リリー、『精密射撃』……使えそう?」
「はい、たくさん練習しましたから……やってみせます!」
リリーは弓を構えて矢をつがえると、ゴールデンスライムに狙いを絞る。
「……っ!」
リリーは矢を放つと、ゴールデンスライムの核に吸い寄せられるように一直線に飛んでいく。
そして、見事に核を貫くと、ゴールデンスライムがいた場所に宝箱が出現する。
「や、やりました!」
「すっげー……」
それを見ていた孤児院の子が感嘆の声を漏らす。
僕も同意見だ。一連の動作が凄く綺麗で思わず見とれていた。
「それじゃ早速……と、他にもモンスターがいるかもしれないから索敵しないとかな」
「ふふ、レアモンスターを倒したら気分が高揚しちゃいますよね。では、見てきますね」
フォウさんが様子を見てくれ、周りが安全であり、宝箱にも罠が仕掛けられてないことを確認すると、それを開ける。
レアモンスターの落とした宝箱……すごく楽しみだ。
「こ、これは……」
「何が入ってたんです?」
「黄金のような色をした実ですね……とりあえず、地上に戻ってから『鑑定』しましょう」
「そうだね、ゴールデンスライムを倒すのにリリーの『精密射撃』を使うから、魔力は温存しておきたいし」
リリーに『鑑定』してもらってもいいんだけど、そうすると『精密射撃』を使える回数が減ってしまう。
ゴールデンスライムを確実に倒すには『精密射撃』が必要だから、できるだけ魔力消費は抑えたい。
「それじゃ、どんどん狩っていこう」
「おーっ!」
**********
「おお、戻ったか。首尾はどうじゃ?」
「ええ、大収穫です。すぐに鑑定をお願いしたいんですけど……」
あのあと出現したゴールデンスライムは2匹。
どちらとも実を落としたが、片方は透き通った実だ。
いったいどんな鑑定結果が出るか……。
「ふむ、こちらの黄金の方はそのまま『黄金の実』のDランク品じゃな。色は食欲を削ぐが、美味で貴族の間で重宝されているものじゃ。高値で取引されておるぞ」
「高値……ということは種から育てられないんですか?」
「うむ、この状態の実では種が充分に育っておらんでな。食用にしかならんのじゃ」
「なるほど……ではもう一つの方は……」
となると気になるのは1個しか手に入らなかった方だ。
黄金と透明だと、黄金の方が希少そうだけど……。
「な、なんじゃと……!?」
鑑定をしたツバキさんが声を上げた。
タイガさんたち、周りの冒険者も孤児院の子たちも皆がざわつく。
「ど、どうしました?」
「……皆の者、これは内密にしておけ。これは……『神秘の実』じゃ」
「神秘の……実……?」
「うむ、これを食すとな……ステータスのどれか1つが1から3程度上昇する、冒険者がこぞって欲しがるレアアイテムじゃ……儂も見たのは初めてじゃが……」
ランダムにステータスアップができるアイテム……!?
そんなものが第一階層で取れていいの……!?
「まさか、これがゴールデンスライムの激レアドロップ……」
「なに、レアモンスターはゴールデンスライムじゃったのか!? そうそう出現するものではないのじゃが……戦利品が3個あるということは、最低でも3匹出たということか」
「ええ、その通りです」
「……ふむ、フォウとやらの幸運がそこまでとはな……シゲルには驚かされてばかりじゃが、ここまでとはのう」
どうやら、ゴールデンスライムが出ても倒すのは難しいらしく、更に宝箱を落とす確率もそれほど高くはないらしい。
それをフォウさんの幸運の力でここまで上昇させることができ、更に激レアドロップまでも手に入ってしまう。
恐るべし、幸運の力……。
「それじゃ、検証を続けましょう。ゴールデンスライムはリリーの『精密射撃』で倒せるので、フォウさんとリリーさんを固定メンバーに改めましょう」
こうして、時間の許す限り僕たちは第一階層でのゴールデンスライム狩りを続けた。
そして……。
「ふーむ、神秘の実は最初の1個のみか。激レアドロップというのは名前の通りじゃのう」
結局、神秘の実が手に入ったのは最初の1回目のみだった。
しかし、入る度に2匹以上出現、更に宝箱が確実にドロップしたという検証結果が得られた。
これなら時間をかければ神秘の実も複数入手できる可能性は高い。
なお、黄金の実は大量に手に入ったので、みんなで数個ずつ分け合うことができた。
また、普通のスライムが落とす薬草も、全員に均等に割り振り、それぞれで役立ててもらう。
「いいんですかシゲルさん、お金だけでなくこんなに大量の報酬まで……」
「ええ、よければウルさんのパーティーで使ってください。黄金の実は流石に人数分は無理でしたが……」
「いえ、充分です。みんなで分けて食べさせて頂きます」
黄金の実は換金する人、料理店に持って行って調理してもらう人、そのまま食べる人……などと様々だ。
孤児院の子たちで換金する子は、安く見積もられないようにタイガさんが換金を手伝ってくれるらしい。
そしてそのお金でお菓子を買ったり、孤児院の運営に必要なお金をシスターに渡したりするそうだ。
生産系のスキルと違い、なかなかお金を生み出せなかったのが悔しかったそうで、凄く喜んでくれている。
……この笑顔が見られただけでも、この実験をした甲斐があったというものだ。
そして、今後は第一階層だけでなく、第二階層、第三階層と順にレアモンスターの調査をしていきたいと思う。
スライム以上の敵となると孤児院の子たちには危ないと思うので、冒険者を雇うことになりそうだけど……まずは神秘の実の確率調査が先かな。
こうして、レアモンスターの調査は大成功に終わるのだった。




