5.道具屋はじめました
「いらっしゃいませー」
ガーベラさんの道具屋に僕の作った野菜や薬草を置いてくれることになって数日後。
ある程度商品を作ったので、ついに道具屋デビューすることに。
今日は薬草の葉を10枚、野菜をお店の半分ぐらいのスペースに置かせてもらっている。
販売自体はガーベラさんに任せ、僕は下働きでここに雇われている……という設定になっている。
また、僕に対してもリリーと同じような話し方で接して欲しいと伝えておいた。
このお店は大通りから少し外れているため人はまばらだが、ガーベラさんがケガをする前から贔屓にしてくれていたお客さんが寄ってくれる。
そのため、僕が作った野菜の売れ行きも好調だった。
「へぇ、この時期には生らない野菜も置いてるのか。しかも結構安い……」
「ええ、リリーのおかげでいい伝手ができましてね。おかげさまで品揃えも強化できて……」
「なるほど、リリーちゃんは偉いねえ」
「ひゃ、ひゃいっ!」
「ほらリリー、久しぶりだからってあんまり緊張しちゃダメよ」
常連さんたちと和やかに談笑するガーベラさんとリリー。
なるほど、いいお店だな。自分もできたらこういう店を持ちたいものだ。
「ところでそちらのお兄さんはリリーちゃんのいい人かい?」
「はい、シゲルさんは優しくていい人ですよ」
ちょっと待ってリリー、いい人ってそういう意味じゃないよ!?
「……リリー……まあその意味は後から教えてあげるからね」
ちょっとガーベラさんも呆れ気味のようだ。
「こほん。わたしから説明するとシゲルくんは将来道具屋を開きたいらしくて。リリーの薬草探しを手伝ってくれたのもあって、ここで働いてもらってるんです」
「ほう、薬草探しを……。できればワシも1つ欲しいものだが……」
「ああ、それなら……」
ガーベラさんは薬草の葉を1つ、カウンターの裏から取り出した。
「わたしを治すためにリリーが駆け回ってくれたおかげで、少量ながら在庫が補充できました。よろしければどうぞ」
「ほう、それじゃ備えのために1つ頂こうか」
「ありがとうございます。お店を休んでご迷惑をおかけしたので、在庫限りで銀貨9枚にまけておきますよ」
「9枚!? それなら俺も……」
リリーさんのその言葉に反応して、他のお客さんたちも薬草を買い求め始めた。
……リリーさん、商売上手だな。
薬草は高いから躊躇う人もいるだろうけど、復帰セールということにして割引すれば今だけというお得感も出る。
「ありがとうございます。購入のお礼にこの野菜もつけておきますね」
ガーベラさんはそう言うと、俺が作った野菜をおまけとして袋に入れた。
「これは新しい伝手から仕入れたものかな……よし、美味しかったらまた買いにくるよ」
「はい、よろしくお願いします」
なるほど、新しいものだからなかなか手が出ないのを、無料で付けることで次回の購入につなげてるのか。
リリーの鑑定でランクは保証されてるけど、それでも味が心配な人もいるだろうし。
……あれ? ちょっとガーベラさん、商品を扱う時に怪我してた方の腕をかばう感じの動きをしてたけど……まだ完治してないのかな?
それなら僕も袋詰めを手伝おう。
「ガーベラさん、まだ傷が痛むようなら手伝いますよ」
「ふふ、ありがとうシゲルくん。それじゃあお願いしようかしら」
こうして、僕とリリーもガーベラさんを手伝いながら、商品を売っていった。
そして、久々に店を開けたということで順調に商品は売れていき、昼過ぎには既に完売となった。
僕の作った薬草や野菜、果物の在庫も0になったので、また作っていかなきゃ。
「お疲れさま、シゲルくん。あれだけ用意してたのに全部売れるとは思ってなかったわ」
「ええ、僕もです。おかげで自信がつきました」
「それじゃ売上は計算してあとから支払うわね。おまけで付けておいた分のもきっちり計算しておくから」
「初めてのものはなかなか手に取りづらいですからね。おまけで付けるのはいい手だと思うので、その分の売上は除外して頂いて構いませんよ」
「うーん、でもシゲルくんの初めての売り物だし、全額渡してあげたんだけど……ダメかしら?」
「……そういうことでしたら、ありがたく頂いておきます」
そういった気遣いをしてくれることが嬉しい。
たしかに道具屋デビューという日は今日しかないからね。
「ところでガーベラさん、僕の薬草では治療しきれなかったんでしょうか?」
「えっとね……それは薬草のランクの関係よ。ランクEだと傷は治るけど完治まではいかないの。もちろんケガをしていた時よりもかなり楽になったのは間違いないわ」
「僕としては完治までいって欲しいのですが……ランクはどのぐらい必要なんでしょう?」
「そうね、ランクCもあれば間違いなく完治するわ。ただ、ランクが1つ上がると効能も上がるけど……値段自体はほぼ倍になるの。ランクCの薬草だと、Eの薬草の4倍に……」
ランクEの薬草でも銀貨10枚だから、Cだと4倍の40枚……約4万円もするんだ。
でも、値段よりもやっぱりお世話になってる人には報いたい。
「薬草の質……ランクを上げるのは難しいのですか?」
「そうね、ランクEの種からランクDの薬草を作るのにはかなり根気が必要だと思うわ。土の栄養の質とか、水の質とか……時々突然変異でランクが上がることもあるみたいだけど……狙えるようなものではないし……」
「それでも、作れる可能性があるならがんばります。リリーも手伝ってくれる?」
「はっ、はいっ! お母さんのためなら何でもします!」
「ふふ、シゲルくんもリリーも……ありがとうね、わたしのためにそこまでしてくれるなんて……」
ガーベラさんは僕を抱き寄せると、そのままぎゅっと抱きしめ……。
「んっ! んーっっ!?」
僕とガーベラさんの身長差のせいで、僕の頭はガーベラさんの胸の谷間に埋まってしまう。
しかも元冒険者で弓を使うだけあって力が強く、抵抗してもどんどん埋まっていくしかない。
「お、お母さん! シゲルさんが窒息しちゃう!」
「あらあら……ごめんなさい、つい嬉しくなっちゃって」
リリーの言葉で我に返ったガーベラさんは僕を解放してくれる。
危ない。もう少しで意識が飛ぶところだった……。
……ガーベラさん、ちょっと距離感がおかしくないかな!?
「シゲルさん、大丈夫ですか?」
「う、うん……なんとか。それより、早く畑に行って薬草を育てよう。何個も作ってまずはランクDを目指さなきゃ」
「それじゃあわたしはシゲルくんの代金を計算しておくわね。2人とも、無理はしないでね」
「わ、わかりました」
さっきのこともあり、僕は顔を合わせるのも恥ずかしいので、そそくさとお店を後にした。
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「土の質や水の質……栄養を考えないといけないのかぁ」
「市場に肥料を売ってますけど、それでも限界があるかも……」
「となると突然変異で高ランクになるのを期待するのも手かな……幸い、1日に何回かは育てられるんだし、そうしてみようかな。それにスキルレベルが上がればいいものが育ちやすくなるかもしれないし」
「確かにスキルレベルが上がると効果が追加されたり上昇したりしますしね」
「その追加効果とかは決まってたりするの?」
「いえ、どうも人によって違うみたいで……『鑑定』の場合、効果が分かるようになったり、相手のスキルまで分かるようになったりと様々な追加効果があるのですが、取得できるかどうかは運次第みたいです」
うーん、追加効果はランダムなのか。とりあえず次のレベルになった時に期待しよう。
あとは……。
「魔力を上げることで1日に使える回数を増やすとか……でも、魔力ってどうやったら上がるんだろう?」
「モンスターと戦う事で経験を積み、レベルが上がれば魔力も上がりますが……私たちみたいな非戦闘職だとなかなか難しいですね」
「そっか……それなら魔力を回復する道具みたいなのは……」
「魔力草というものがあるのですが、特に魔法使いの人に需要が高い上に貴重品で、まず市場には出回らないですね……」
「うーん……とりあえず、今できることからやっていこうかな。ガーベラさんに早く完治して欲しいし」
明日は市場に行って肥料や質のいい水を買ってから薬草を育ててみよう。
それからダメ元で魔力草を探して、スキルを使って経験値を貯めて……。
僕は明日の計画を立てながら、お店の手伝いをして疲れた身体を休めるため、その日は早めに就寝したのだった。