49.実験2
「……着いた、ここがダンジョンの入口かな?」
「はい、この洞窟がダンジョンになっているんですよシゲルさん。他にも分からないことがありましたら私に、このイベリスにお任せください!」
胸を張ってドヤ顔で言うイベリスさん。
まあ、確かに一番経験が長いのはイベリスさんだし、そうした方がよさそうかな。
……ちょっと張り切り過ぎな気もするけど。
「監視員の人もいるんですね」
「そうですね、知らない人が間違って迷い込まないようにだとか、4人より少ない人数で挑みたい時とか、色々なことをサポートしてくれる人たちです」
「4人より少なくても入れるんです?」
「はい、欠けてる人数を監視員が補ってダンジョンに入って、監視員はすぐに離脱すれば残った冒険者だけでダンジョン攻略ができるんです。……やってる人はほとんどいませんけどね」
リリーの質問にイベリスさんが答える。
なるほど、確かに一時的にでも4人で入ればいいってことか。
でも4人揃ってない状態で潜るのは自殺行為というか縛りプレイというか……酔狂な人もいるものだ。
「それじゃ周りに誰もいないようだし、僕たちも入りましょうか?」
「そうですね、ここまで来るのに時間がかかりましたし、早く入って日が暮れるまでに帰らないと……」
「私はシゲルさんと一緒のテントで寝てもいいんですけど……」
「フォウさん、受付はあちらですか?」
「あ、は……はい。一応事前登録は済ませてますので、すぐに入れると思いますよ」
イベリスさんの戯言をスルーしつつ、僕たちは受付を済ませてダンジョンへと足を踏み入れた。
「すごい……結構ひんやりしてる……」
洞窟の中に入り、階段を降りていくと石の壁で覆われた階層にたどり着く。
どうやらここが第一階層のようだ。
「イベリスさん、第一階層ではどんなモンスターが出現します?」
「そうですね、第一階層はスライムだけです。動きが遅くて弱いモンスターではあるんですけど、消化液を飛ばしてくるので気をつけてくださいね」
「ありがとう。それと、スライムはどのぐらいの確率でドロップ宝箱を落とします?」
「ええと……だいたい5体に1体は落とします。中身は薬草の葉が一枚だけ入ってますね」
20%か……まあまあの確率で落とすんだな。
それが分かったところで実験を開始しよう。
「それでは、大きい部屋でスライムを倒していって、ドロップ宝箱を集めたいんですけど……大丈夫です?」
「分かりました! それじゃ一番大きい部屋に案内しますね。フォウ、一応罠をチェックしながら進んでくれる?」
「う、うん!」
フォウさんは僕たちの先頭に立ち、罠を探しながらも耳を動かして敵の接近に備える。
町ではおとなしそうな印象の人だったけど、ダンジョン内では真剣そのもの。
少しでも怪しいものも見逃さないように、目を光らせている。
「……ちなみに、第一階層はほとんど罠はありませんし、あったとしても敵を呼び寄せる『誘因の罠』がほとんどですね」
「あ、それが大部屋にあったら便利そうですね……効率よく倒せそうで」
「あはは、確かにそうですね、あったらラッキーだと思いますよ」
……などと談笑しながらダンジョンを進むこと2分程度。
僕たちは目当ての大部屋に無事に着くことができた。
「にゃっ……!」
すると、着くと同時にフォウさんの尻尾がピンと立つ。
何か見つけたのだろうか?
「あ、あの……あそこの少し凹んだ床に罠があるみたいです」
罠……まさかね。
「ちょっと起動してみても大丈夫?」
「は、はいっ……それでは遠くから小石を投げてみましょう」
フォウさんはそう言うと、腰につけている小さなポーチの中から小石を取り出し、罠に向かって投げつけた。
小石は凹んだ床に入り込み、カチッと音がしたと思うと、そこから白いガスのようなものが噴き出した。
「……『誘因の罠』、ですね」
「まさか本当に欲しい罠が出るなんて……これもフォウさんの幸運が……?」
「かもしれませんね。でも気をつけてください、スライムが集まってくるので迎撃態勢を……」
「それじゃリリー、スライムが来たら倒してくれる?」
「分かりました、いつでも矢を射れるようにしておきます」
罠の発動から1分程度、この部屋から伸びる3つの通路からスライムがじわりじわりと這い寄ってくる。
……ナメクジみたいな動きをするんだな、スライムって……。
「そこです!」
リリーが矢を放つと、スライムの透明な身体の中心にある丸い物質……これがスライムの核らしいんだけど、それに見事に命中する。
どうやら、毎日の修練の成果が出ているようだ。
「それじゃ、私とフォウは近くに来たスライムを倒していきますね」
「し、シゲルさんは襲われないように気をつけてください……!」
「ありがとう、頼りにしてますよ」
「よーし、いいとこ見せちゃいますよー!」
イベリスさんは張り切って敵の中に切り込んでいった。……大丈夫かなあ。
一方でフォウさんは僕の半径10メートルぐらいの敵を掃討してくれている。
役割分担ができてる……ってことなのかな。
僕は倒されているスライムを観察している。
さっきドロップ率は20%ぐらいだと言っていたが、それを上回る勢いでドロップ宝箱が辺りを埋め尽くしていく。
やっぱり、フォウさんの幸運が影響しているんだろうか?
そして、罠に呼び寄せられたスライムの姿が見えなくなる頃には、宝箱の山ができあがっていた。
その数はざっと30あるだろうか。
「罠一つでここまでモンスターが呼び寄せられるなんて……」
「スライムは足が遅いからまだ大丈夫なんですけど、これが下の階層になると……罠一つで致命傷になる場合も多いんです」
「なるほど……だからダンジョンは怖いものなんですね……」
もし初めてのダンジョンでこの罠を踏んだら、初心者ならパニックになってそのまま……。
フォウさんみたいな盗賊職が重宝される理由が分かった気がする。
「さて、これだけ宝箱があれば実験はできますね。その前に……それぞれどのぐらいスライムを倒しました?」
「私は15ぐらいです」
「え、えっと……15ぐらいだったと思います」
「私は20ぐらいです、シゲルさんのためですもの!」
「なるほど、全部で50匹ぐらい……と考えると、フォウさんの幸運のおかげでドロップ率が高くなってる可能性がありますね」
宝箱の数を数えたら32あった。
ということは64%。実に3倍ぐらいのドロップ率だ。
「では次に……フォウさん、宝箱を10箱開けてもらえますか?」
「わ、分かりました!」
フォウさんが宝箱を開け、手に入った薬草をリリーに『鑑定』してもらう。
結果、10個中Fランクの薬草が7枚、Cランクの薬草が3枚だった。
「イベリスさん、やはりこれは普段のドロップ内容よりも……」
「そうですね、普通なら10個程度ではCランクの薬草は出てきません」
「なるほど……では次にこの実を食べて10個開けてみてください、フォウさん」
「これは……?」
僕が取り出した実を不思議そうに見つめるフォウさん。
見た事がないのかもしれない。
「幸運の実というアイテムです」
「……! れ、レアアイテムじゃないですか……!?」
「いえ、実は量産できてまして……と、それはさておき食べて宝箱をお願いします」
「わ、分かりました……」
フォウさんは少し躊躇いながらも実を食べ、宝箱を開けていく。
すると……。
「こ、こんなにCランクの薬草が出るなんて……!?」
内容は個数が逆転し、Cランク7枚、Fランク3枚となっていた。
これが幸運の実の力……!
これは浅い階層だから薬草なんだけど、もしこれが深層のモンスターのドロップ宝箱だったら……。
とても貴重なアイテムや装備を量産できるかもしれない。
「では最後に……リリー、宝箱を10個開けてみてもらえる?」
「分かりました……でも、私でいいんですか?」
「うん、実験のためだからね」
僕がそう言うと、リリーは宝箱を開けていった。
結果としてはFランクの薬草が9個、Cランクが1個だった。
「なるほど……フォウさんの幸運はドロップ宝箱や、他の人が開けた場合の内容物にも関係してるっぽいですね」
「でも、本人が開けた方がいいアイテムが出てきやすい気がしますね」
「うん。フォウさん、いつもはフォウさんが宝箱を開ける役割なんです?」
「は、はい。宝箱の罠を解除するという役割もありますので、そのまま中身を回収しています」
罠が仕掛けられてることもあるんだ……モンスターが宝箱をドロップした嬉しさでそのまま開けたら……意地悪だなあ。
「ありがとうございました、これでやりたいことはやり終えたので、幸運の実の効果が切れるまでにもう一回罠を踏んでスライムを倒して終わりましょう」
「はいっ!」
その後スライムを倒し続けると、幸運の実の効果なのかドロップ率は実に90%まで上昇していた。
恐るべしフォウさんの幸運……。
そして、出現した宝箱をフォウさんに開けていってもらい、リリーに順に『鑑定』をしてもらう。
「私、今日だけでかなり『鑑定』の経験値が貯まったと思います」
「80近くも鑑定したからね……魔力はまだ大丈夫?」
「いえ、実はもう切れてしまいまして……最後の一個は鑑定できそうにな……」
「あ、あれ……?」
僕がリリーと会話をしていると、フォウさんが不意に声を上げる。
いったい何だろうと近寄ってみると、フォウさんが取り出した宝箱の中身は……。
「た、種……?」
「嘘!? 私が冒険者やっててスライムが薬草以外を落としたことなんてないのに!?」
「り、リリー、『鑑定』を……って、魔力切れだったね……」
まさかこんなに数が多くなるとは思ってなくて、魔力草は持ってきていなかった。
「あの……これってもしかして大変な事に……?」
「で、ですね……スライムから新しいドロップアイテムが見つかるなんて……」
長年冒険者をやっているイベリスさんもフォウさんも目を丸くしている。
どうやら、今までの常識を覆す発見のようだ。
「そ、それじゃ早く帰ってツバキさんに鑑定してもらおう!」
僕たちは大量の薬草を袋に詰め、足早にダンジョンを後にしたのだった。
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「ふーむ……これは『堅固の実の種』じゃな」
「堅固の実……ですか。どういう効果なんです?」
「幸運の実と同じように、一時的に守備のステータスを上昇させるものじゃ。まさかそれをスライムが持っておったとはのう……」
「ツバキさんでも初めての現象だったんですか?」
ツバキさんはゆっくりと頷く。
……どうやら、本当に「モンスターが落とすアイテムは2種類」という常識が覆ったようだ。
その後、このことは冒険者ギルドをはじめとして、各所に伝わることになる。
これにより、今までそれほど重要視されていなかった幸運というステータスが見直されていく。
僕たちの方でも追加調査を行い、レアアイテムの上を行く激レアアイテムの出現にはフォウさん並みの幸運だけでなく、『幸運の実』でのバフが必要であることが判明する。
そのため、各冒険者が幸運の実をこぞって求め、幸運の実の市場価格が跳ね上がることになるのだが。
一応、イベリスさんやフォウさんには僕が作れることは口止めしてもらったので、僕の店に大量の冒険者が来ることは防げたため、僕は胸をなでおろした。
「落ち着いたころに、Bランクの薬草の種のように、Fランクの幸運の実の種を商人ギルドのギルドマスターに出回らせてもらおう……」
一応、実験は大成功に終わった……ってことでいいのかな……?




