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【完結】異世界で道具屋はじめました  作者: SAK


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45.聖樹の変化

「パパー、はやくはやくっ!」


 道具屋の営業が終わり、日課の聖樹への魔力供給のために丘の上に向かうと、アイリスに手を握られて駆け足気味に聖樹の方へ向かうことになる。

 今までこういったことはなかったんだけど……そんなに早く見せたいものがあるんだろうか?


 そんなことを考えながら聖樹にたどり着くと、そこには信じられない光景が広がっていた。


「2つの聖樹が……1つになってる……?」


 今まではアイリスの聖樹とミズキの聖樹が別々に、寄り添うような形で存在していたのだが、境界が分からないぐらいに混じり合い、1つの聖樹のようになっていた。


「シゲル様、驚かれましたか?」

「ミズキ……これはいったい?」

「わたくしとアイリスの聖樹が融合した、と言えばよろしいでしょうか」

「そういえば初めて会った時、そんなことを聞いたね……でも、実際に1つになった所を見るとびっくりするよ」


 なにせ、昨日までよりも大きさが段違いになっているのだ。

 魔力を注いでない間にだいたい5、6メートルほど大きくなっていたら誰でも驚くだろうし。


「そういえば、1つの聖樹になることでより大きな力を発揮できるようになるんだっけ?」

「はい。……そのためには、まずシゲル様に『成長促進』を使って頂く必要がありますわ。正確にはシゲル様の魔力が必要なのです」

「分かった、そのために来たんだしやってみるよ」


 僕は木の根元に行くと、大きな幹に手を当て、『成長促進』で魔力を聖樹に流し込んでいく。


「うわっ……!?」


 すると、僕の身体が光り始める。

 これって……スキルレベルが上がった時の……?


「ふふ、これでシゲル様の『土の精霊の加護』のスキルレベルが上がりましたね」

「より大きな力って……僕のスキルレベルのことだったんだ」

「いえ、それだけではありませんわ」

「パパー、あれ、あれだよー!」


 アイリスが小さな指で指し示す先を見ると、聖樹の枝に小さな果実が生っていた。

 そういえば今まで聖樹で果物が採れたことはなかったはず……?


「では収穫しますね」


 ミズキが手を動かすと水が発生し、それがスライムのように伸びて果実の元に届き、果実を捻って枝から切り離す。

 凄く器用なことをやっているのは魔法が使えない僕でもよく分かる。


「それではシゲル様、どうぞ」

「これは……聖樹に生る果実なの?」

「はい、聖樹の実はとても珍しく、食べた者に新しいスキルを与えると言われていますわ」

「新しいスキル!?」


 この世界ではスキルは生まれた時に決まるとは聞いたけど、それを途中で追加できるなんて……なんだか凄くチートなアイテムのような気がしてきたぞ……。

 でも、僕は今の『成長促進』と『土の精霊の加護』だけでも充分なんだけどな。


「これは僕が食べないと効果を発揮しない……とかはないよね?」

「はい、誰が食べてもスキルは追加されます。そのスキルがどのようなものかは、食べてみないと分かりませんが……」

「なるほど、ありがとう。どのように使うかはもう少し考えてみるよ」

「普通の人ならすぐに自分で使う、となりそうですけど……やはりシゲル様はお優しいですわね」

「えへへー、パパやさしいからすきー!」

「あら、アイリスだけずるいですわよ!」


 アイリスが僕の腕に抱きつくと、間髪を入れずにミズキが逆の腕に抱きついてくる。

 う、動きづらいんですけど!


「それと、シゲル様のスキルだけでなく、わたくしたちの力も上がっているんですの」

「パパ、ぼくもつよくなったよー!」

「そ、そうなんだ……じゃあ、ちょっと見せてもらおうかな?」

「分かりましたわ!」


 ミズキは僕の腕から離れると、雲のない綺麗な夕焼け空に向かって両手を掲げ、何かを唱え始める。

 すると、雲がないのに少し遅れて雨が降り始めた。


「これ……もしかしてミズキが創りだした雨……?」

「はい、少量しか降らせられませんが……」


 ええ……聖樹が2つ融合しただけで自然現象を発生させられるの……?

 改めてミズキが水の精霊という強大な存在の卵であることを実感させられる。


「それじゃあアイリスの方は……」

「あのね、ミズキおねーちゃんがぼくのはつかわないほうがいいって……」

「アイリスは土に関連した力なのですが……その、地震を引き起こすため使わない方がよろしいかと思われますわ」

「地震!?」


 雨を降らすミズキにも驚いたけど、アイリスの方は地震だなんて……。

 そんな力を振るえば、下の町はパニックになりかねない。


「確かにそれは止めておいたほうがよさそうだね……」

「みせられなくてごめんね、パパ……」


 ミズキが力を見せられたのに、自分が力を見せられないことにションボリするアイリス。


「いいんだよ。強い力を持っていたとしてもむやみに使わず、必要な時だけに使うのが大人だろうし」

「おとな!? パパ、ぼくおとなになったの!?」

「そうだね、少しだけ大人になったと思うよ」


 沈んでいたアイリスの表情がいつもの明るさを取り戻す。

 僕はアイリスの頭に手を置くと、優しく撫でてあげた。


「あ、アイリスだけずるいですわ!」


 それを見てミズキが駆け寄って身を寄せてくる。

 ……こういう所を見ると、ミズキもまだまだこどもだなあ、となる。

 僕はミズキの頭にも手を置くと、アイリスと一緒に、2人が満足するまでゆっくりと撫でたのだった。




**********




「さて、この聖樹の実……誰にあげようかな……」


 聖樹から持ち帰った、スキルを増やす聖樹の実。

 誰が使うかを決めないといけないんだけど……。


「冒険者の人に渡して戦力を増強するのが普通なんだろうけど……」


 スキルをたくさん使えるのは冒険者にとってとても力強いサポートになる。

 もし補助スキルだったとしても、ラスさんの『成長促進』みたいに心強いサポートにもなるしね。


 ただ、冒険者の知り合いは多いし、誰か一人に使うとなると贔屓してると思われるのは確かだ。

 それなら……。


「……よし!」


 僕は使う人を決め、その人の所へと向かった。




「あの、シゲルさん? 用事って何ですか……?」

「これ、聖樹の実って言うんだけど……よかったら使ってくれないかな」


 僕はリリーに聖樹の実の効果を伝え、リリーに差し出す。


「え、ええっ!? で、でも私よりもいい人がいると思うんですけど……」

「……今の道具屋としての僕があるのは、転移してすぐにリリーに会えたからだと思うんだ。だからそのお礼にと思って。それに、最近リリーも冒険者として依頼を受けているから、スキルが増えればそれだけ安全になるだろうし」


 リリーはフリーデンに来てから弓の練習を始めたが、ガーベラさんが弓の師匠という事もあって今では冒険者の中でもなかなかの腕という評価だ。

 道具屋が休みの時は一日で達成できるような依頼をこなすまでになっている。


「リリー、もらっておいていいんじゃないかしら?」

「お、お母さん……」

「リリーが強くなれば狩りに役立つし、もし採取系のスキルとかでもシゲルくんの役に立つと思うわよ」

「シゲルさんの……」


 リリーがこちらをちらりと見る。

 そして聖樹の実を見つめ直す。


「あ、あの……私、もっとシゲルさんのお役に立つようになりたいんです。だから……これを使うの、私でも大丈夫ですか?」

「もちろんだよ」

「……分かりました、それでは……」


 リリーが実を口に運び、咀嚼をして飲み込む。

 すると、リリーの身体がスキルレベルが上がった時のように光り出す。


「……不思議な感覚です、なんだか、力が湧いてくるような……」


 スキルのレベルが上がったのと、スキルを手に入れたのではまた感覚が違うのかな?

 それはそうと、どんなスキルが手に入ったんだろうか?


「どんなスキルになったのか、ツバキさんに『鑑定』してもらいに行く? 僕もスキルレベルが上がったからちょうどいいし」

「そうですね……ドキドキします」




「……ということで『鑑定』をお願いしたいのですが……」

「ふむ、よかろう。しかしスキルが追加される効果があるとはのう」

「し、シゲルさんのお役に立てるスキルならいいんですけど……」

「では、リリーの方から鑑定するかの……」


 ツバキさんがリリーに『鑑定』を発動する。


「ふむ……『精密射撃』か」

「射撃……ということは弓を扱うリリーによさそうなスキルなんです?」

「うむ、障害物がない限りは狙った所に必ず命中するスキルじゃの」


 スキルの内容を聞かされると、リリーの不安そうだった表情が和らぐ。

 それにしても弓と関係するスキルかあ……もしかして、使った人に関わるスキルがもらえるのかも?


「それとシゲルの方は……追加効果で『2種のものを同時に育成できる』か……ふぅ」

「な、なんでそんなため息を出すんですか!?」

「前も言ったじゃろう? 驚くのにも疲れた、と」

「そんなに凄いものなんです?」

「それはそうじゃろう、同じ魔力消費で2つ同時に育てられるのじゃぞ?」

「あー……確かにそれは……」


 つまり実質魔力が2倍になったと同義、ということかな。

 戦闘面でも、拘束蔦を二重にしたりなど、色々な事に使えそうだ。

 ……まあ、戦闘なんてアーマーウルフの一件でもうこりごりだけど。


「あの、シゲルさん、このスキル……大事に使わせて頂きますね。早速練習してきます!」

「リリーの向上心は凄いなあ……」

「まあ、お主の役に立とうとする一心じゃろうて。シゲルも隅におけんのう」

「でも、今までそんなに大したことはしてあげられてない気はするんですけどね……」

「お主はそうかもしれんが、当人はそう思ってないこともある、というものじゃ」


 そういうものなのかなと思いながら僕は家に戻り、翌日の営業に向けての準備を始めるのだった。

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