44.レアアイテム2
「シゲルさん、お久しぶりです」
「お久しぶりですウルさん、何かいいことがありました?」
「分かりますか……? 実はこれをダンジョンで拾いまして……」
嬉しそうな表情のウルさんが取り出したのは、僕が今まで見た事のない種。
ランダム宝箱で手に入れたんだろうか?
「以前、ミミックを判別するアイテムを頂きましたよね。おかげでミミックの判別が楽になったのでミミックを狩ってたのですが……これが入った宝箱を落としたんです」
「宝箱のモンスターが宝箱を落とす……ちょっと面白いですね」
「確かにそうですよね。それで、実はミミックが宝箱を落とすのは初めてで、もしレアな種だったらシゲルさんにいいかなと思いまして」
「ええ、実は自分も見た事がない形の種でして……」
道具屋の仕事をし始めてからというもの、商品となる種は色々と見てきた。
でも、こんなハートの形をした種を見るのは初めてだ。
「それでは、これからみんなと宴会がありますのでこれで……シゲルさんのアイテムのおかげで収入が増えたおかげです」
「それは道具屋冥利に尽きますね、またダンジョンに向かう際は道具を準備しておきますね」
「ありがとうございます。それでは失礼しますね」
ウルさんは少し駆け足で町の中心へと向かって行った。
きっとこの種を早く渡したくて、先にこっちに来てくれたんだろうな。
「それじゃリリー、この種を鑑定してもらえる?」
「はいっ! ええと……幸運の木の種……?」
「幸運の木……?」
「あら、どこかで聞いたことがある名前ね……珍しい木だったと思うんだけど……」
「すごーい! お兄ちゃん……じゃなかった、店長、早く育ててみてくださいっ!」
「……興味津々……」
鑑定結果が出るや否や、みんながこちらに集まってくる。
確かに気にはなるけど、まだ営業時間内なんだよね。
「それじゃお店が終わったら育ててみよう、もう少しで完売だしがんばろうね」
「はーいっ」
その後、30分ほどで残りの商品を売り切り、お店のドアに閉店札を掲げる。
そして掃除を終え、ランクを高くできる竜の泉にみんなで向かうのだった。
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「……ということで、ここに幸運の木の種を植えて育てても大丈夫でしょうか?」
『うむ、我は構わんぞ。だが……』
「はい、アーちゃん!」
ルピナスがアースドラゴンさんに大量の爆裂草を渡す。
アースドラゴンさんはそれを口に中に運ぶと、体内で爆発音が聞こえる。
『ふむ……だいぶシゲルの味に近づいてきたな』
「やったー! スキルのレベルが上がったおかげかな?」
『これからも楽しみにしているぞ。……さて、その種を植えて育てたら残った魔力は……』
「はい、ちゃんと僕も爆裂草を育てますので……一応、足りなかった時のために魔力草も持ってきましたし」
『成長促進』で消費する魔力は、おおよそ収穫までの期間に比例して多くなる。
幸運の木がどのぐらいの年数で実を付けるのか分からないので、魔力草でのサポートも必要になるかもしれないと思って持参した。
桃栗三年柿八年、っていうぐらいだし。
「それでは周りが広く空いてる所に埋めて……と」
僕は土を掘り起こし、種を埋めて土を被せる。
そして『成長促進』で魔力を種に送っていく。
徐々に芽が出て成長し、小さな木になった所で一回目の魔力が尽きる。
「……魔力、どうぞ」
「ありがとうトレニア、この調子だとまだまだかかりそうかも」
その後も二回トレニアから『魔力譲渡』で魔力を回復してもらい、魔力草を使おうかと思ったその時。
「シゲルさん、ピンク色の実がついてますよ」
「ホントだ……自分の魔力全部とトレニアから三回もらったから、だいたい800ほど魔力が必要なんだ……」
ついた実はさくらんぼのような一口サイズの小さなもの。
結構魔力を持って行かれたから、相応の効果を期待したいところだけど……。
「リリー、鑑定をお願いできる?」
「分かりました! ……これを食べると、食べた者に半日の間、幸運が訪れるようになる……です。ランクはBですね」
「となると、ランクで効果時間が決まるアイテムかな。実は結構ついてるみたいだね」
ざっと見渡すと、20ぐらいの幸運の実が確認できる。
訪れる幸運がどんなものかは分からないけど、確かめてみたいな。
「シゲルくん、明日はお店が休みだし、そこで確かめてみたらどうかしら?」
「そうですね、ちょうど買い出しもしたいと思ってましたし……そうしましょうか」
こうして、明日効果を実践することになったのだっ……。
『シゲル、何か忘れておらんか?』
「あっはい、爆裂草ですね」
魔力がちょうどなくなっていたので、トレニアに魔力草を食べてもらい、残った魔力は全て爆裂草の生産に注ぎ込んだのだった。
**********
「ごちそうさまでした。やっぱりガーベラさんの料理は美味しいですね」
「ふふ、ありがとう。そう言われると作り甲斐があるわ」
「私もお母さんみたいに作れるようになりたいなあ……」
翌日、お昼ご飯を食べ終えた僕は、幸運の実を食べてリリーと町へ出かけた。
さて、これから夜寝るまで、どんな幸運が訪れるのかな……?
「おめでとうございます! 1等のロックバードの肉です!」
「シゲルさん、その当たりつきお菓子、当たってるみたいですよ」
「あ、枕が安くなってる……ちょうど買い換えたいと思ってたんだ」
……などなど、大きい幸運、小さい幸運など、本当に多くの幸運が転がり込んできた。
もしかしたら、ダンジョンでこれを使えばモンスターが宝箱を落としやすくなったりしないかな?
今度ウルさんやタイガさん、イベリスさんに試してもらおう。
「あら、嬉しそうな顔をしているわね、シゲルくん」
「ええ、本当に色々な幸運が訪れまして……今日はこのお肉を調理して頂けますか?」
「ロックバードじゃない! 名前通り皮は硬いんだけど、中のお肉は柔らかくてとっても美味しいのよ」
「それは楽しみですね……」
思わず涎が出そうになったのをこらえる。
夕食まで豪華になるなんて、本当に幸運の実の効果は凄いな。
これを量産したら毎日幸運で一杯になるのでは……?
……と思っていたけど、その考えはすぐに一蹴されることになる。
「す、すまぬシゲルよ……恥ずかしい所を見せてしもうた……」
ツバキさんのお店に納品に行ったら、バランスを崩して倒れてきたツバキさんを受け止めようとして、顔がツバキさんのお尻の下敷きになったり。
「ひゃっ……!? ……ご、ごめんなさい、服がもう寿命だったのかもしれませんね……」
リリーのワンピースの肩紐が切れて、目の前でリリーの胸が露わになったり。
「えへへー、パパだーいすき!」
「もう、アイリスさんだけずるいですわよ!」
温泉でアイリスとミズキに両端から抱きつかれたり。
……あ、これは普通にあるやつだった。
「むにゃ……うふふ、あったかいわねぇ……」
寝ぼけて僕の部屋に迷い込んできたガーベラさんに抱き枕にされたり。
……もしかして、周りに幸運なことが起こるものがない場合、幸運の実を使った人を無理矢理幸運にしようとして、いわゆる幸運スケベ的なことが起きてるのでは……?
ダンジョンなら、罠にかからなくて幸運、宝箱が手に入って幸運、モンスターに出遭わなくて幸運……みたいに、幸運と呼べる事象がそこかしこにあるだろうから、ダンジョン内ではとても有効ではあるだろう。
ただ、今回みたいに安全な町中でうっかり使わないように、もし使うとしても効果時間の短いランクの低いものを使おうと心に決めたのだった……。




