43.温泉の効能・応用
「パパー、おつかれさまーっ!」
「ささ、温泉の準備はできてますわ」
「ありがとう、それじゃ用意してくるよ」
今日も道具屋の一日が終わる。
ミズキが温泉を作れるようになってからは毎日、仕事が終わった後に温泉に入る習慣ができた。
前の世界の時のように、毎日お風呂に入れるようになったのはすごくありがたい。
更に薬草をお湯に入れることで、疲労回復の効果も出るのだから入らない手はない。
ただ、毎回アイリスとミズキは確実に一緒に入ることになるので、身体はともかく心が若干休まりにくいのはあるけど……。
一応タオルは身につけてくれるので、徐々に慣れてはきている。
「そういえば聖樹って木なのに、熱めのお湯も大丈夫なんだね」
「うん、きもちいいよー!」
「わたくしの場合、自分で生み出したものでもあるので、気になりませんわ」
どこかで植物に熱いお湯はダメだと聞いたことがあったのだが、聖樹はそうでもないようだ。
……あれは沸騰したお湯だったかな? この世界にはネットがないので調べられないのがもどかしい。
「そういえば、ミズキの聖樹もだいぶ大きくなったね」
「シゲル様のおかげですわ、もう少ししたらアイリスの聖樹と一つになれるかもしれませんね」
「えへへー、たのしみー!」
複数の聖樹が混じり合い、一つの聖樹になると今よりも大きな魔力を持つことができるらしい。
そして、それに伴い精霊たちはより大きな力を持つことになるとか。
今でも充分なほどに大きい力を持っているのに更に強くなるとか……個人的にはどうなっていくか楽しみではあると共に、悪いことに利用されないか心配でもある。
でも、力を振るうのはこの子たちだし、『隠蔽』をかけているから僕たち以外の人には気づかれないだろうし、杞憂かもしれない。
「パパー、なにかんがえてるのー?」
「ダメですよシゲル様。一日の疲れを取るための温泉ですから、難しいことは考えずにゆっくりしましょう?」
僕が難しい顔でそんなことを考えていると、二人は僕の両側にぴったりとくっついてくる。
それはそれで気が休まらないんですけど!?
特に、アイリスの胸は幼いながらもガーベラさん級だから、タオルを巻いて温泉に浸かっていてもどうしても目が行ってしまう。
「あ、ご、ごめん……それじゃ、身体を伸ばしてゆったりとするからちょっと離れてくれるかな?」
苦し紛れにそう言うと、二人は少し身体を離してくれる。
……ふう、危なかった。
そして、身体を伸ばして空を見上げると、次第に日が暮れていく様子が目に映る。
前の世界じゃそんなに空を気にしてなかったけど、こうやってゆっくりと空を見上げると様々な顔をしてとても面白い。
雲の形なんて昔は気にしたことほとんどなかったのにな……。
「パパー、あのくも、おさかなさんみたい!」
「あ、本当だ。……今度魚が食べたくなっちゃった」
「いいですわね、それでは明日、皆で買い出しに行きませんか?」
「そうだね、二人にお菓子も買いたいし、お店が終わったら行こうか?」
「おかし!? やったーっ!」
凄い勢いで抱きついてくるアイリス。
その勢いのせいで巻いていたタオルが取れてしまうのだが咄嗟に目を閉じ、取れたタオルはミズキが巻きなおしてくれたので事なきを得る。
……今後は温泉ではお菓子の話はしないようにしよう、と心に誓うのだった。
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「ミズキ、今日も温泉をお願いしたいんだけど、今回はこれも入れてみていいかな?」
「それは……なんですの?」
「魔力草と言って魔力を回復させるものなんだ。もしこれが薬草みたいに入っている全員に効果があれば凄いかなって」
「なるほど、だから今日はこんなに大人数なんですね」
そう、今日は効果を確かめるためにガーベラさん、リリー、ルピナス、トレニア、それにツバキさんも同行してくれている。
というのも、『鑑定』を使って魔力の回復具合を確かめるためだ。
リリーだけでもできるんだけど、自分自身には『鑑定』が使えないのと、もし魔力が回復した時に人数が影響しているのかというのを確かめる必要があるから。
僕は早速魔力草を浴槽に入れると、ミズキにお湯を張ってもらう。
「それじゃ、僕はこっちなんで……」
この温泉はつい最近板で仕切りを作り、男湯と女湯はちゃんと分かれている。
……なのに、いつもアイリスとミズキは僕と一緒に入りたがるのだ。
「お供しますわ、シゲル様」
「パパー、ぼくもぼくもー」
「今日はみんなと一緒に入っておいで。ツバキさんやガーベラさんは経験豊富だし、色々なお話が聞けるかもしれないしね」
「ふふ、アイリスちゃんは冒険のお話が好きだったわよね」
「儂の話でどこまで精霊様に楽しんで頂けるかは分からぬが……」
ガーベラさんは乗り気、ツバキさんも緊張はしているが話をしてくれるようだ。
……二人には悪いけど、これで一人でゆっくり入れるかな。
やっぱり女の子二人と一緒に入るのは緊張するし……これからもガーベラさんたちに時々頼もうかな。
「わたくし、シゲル様のこれまでの武勇伝をお聞きしたいですわ! シゲル様はなかなか自分のことをお話しされなくて……」
「あらあら、それならシゲルくんがうちに来てからの話をしようかしら」
……なんか背びれ尾ひれがつきそうだけど……まあいっか……。
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「シゲルくーん、そろそろあがるわねー」
「あっ、はーい! 僕もそろそろ出ますー!」
温泉に浸かってしばらくして、女湯からガーベラさんの声が届く。
結構ゆっくりできたし、あとは効能を調べるだけかな。
僕は温泉から出ると脱衣所で着替えをし、みんなと合流する。
「それでは、私とツバキさんでそれぞれ鑑定していきますね」
「ありがとうリリー。それじゃお願いするよ」
そして、みんなの魔力をリリーとツバキさんで鑑定して回ってもらう。
ちなみに今回入れたのはBランクの魔力草。
うまくいけば全員の魔力が全魔力の半分回復してるはずなんだけど……。
「ふむ、こっちは終わったぞ」
「私の方も終わりました。……魔力が半分回復しているのを確認できました」
「うむ、儂の方もじゃ」
「……ということは……」
普通に食べると1人の魔力を半分回復させるBランクの魔力草。
それを温泉に入れることで、なんと入った全員の魔力を半分回復させるられたのだ。
「でも、ミズキのおかげでもあるのかな。錬金で作れるものをランクアップさせられる水なんだし」
「それを考えても凄まじいまでの効果量じゃ……この効果が知られれば、ミズキ様を狙う輩も出てくるじゃろうて」
「……そうですね……では、薬草はともかく、魔力草などの貴重なものを使うのは、僕たちだけの時に留めておいた方がよさそうですね」
「うむ、薬草なら量産もできるから怪しまれんじゃろう」
と、僕たちがそんな話をしていると、ミズキがそっと近くに寄ってくる。
あ、なるほど。
「ありがとう、ミズキ」
僕はミズキの頭に手を乗せると、優しく撫でてあげた。
「えへへぇ……」
普段はアイリスよりも大人びた発言をするのに、笑い顔は無邪気なこどもそのものだ。
……もっとこういう風に触れ合ってあげた方が喜びそうだな。
「あのっ、お兄ちゃん。魔力が回復したから野菜を作るのに畑を借りても大丈夫ですか?」
「……手伝う。たくさん収穫して帰る……」
そっか、ルピナスとトレニアも魔力が回復すればそれだけいろいろ育てられるようになるのか。
これなら毎日魔力草を使ってもお釣りがくる効果かも。
「大丈夫だよ。それと帰りの荷物が多くなるから持って行くのを手伝うよ」
「それなら、シゲルくんが出ているうちに夕食の準備を済ませておくわね」
「それではお願いします。帰りにちょっとデザートでも買ってきますね」
こうして、温泉の実験は大成功に終わった。
ちなみに後日、1日に2回以上入っても、その都度魔力草を入れ替えれば効果が出ることに気づき、より一層いろいろな商品の量産ができるようになった。
ミズキが来てからというもの色々革新があるな……と思いながら、今日も温泉に入ってゆっくりするのだった。




