4.道具屋の準備
「まさか宿屋の空きも、お店が出店できそうなところもないなんて……」
リリーに案内されて町を回ったが、宿屋はどこも冒険者で満室、そしてその冒険者相手に商売をするために空き店舗も既にすべて埋まっていた。
そのため、リリーと一緒に食べ歩きをした程度の結果に終わってしまう。
ただ、食料品や服のお店、他の道具屋を知れたのは大きいかな?
相場を調べるのは商売においては重要だし。
あとは定期的に広場で開催されている自由市……要するにフリーマーケットがあるのを知れたのもよかったと思う。
「ごめんなさいシゲルさん、お力になれなくて……」
「い、いや大丈夫。もしかしたら宿屋が埋まってるっていうのはこの前聞いたから覚悟してたし」
「でも、野宿は危ないですし……シゲルさんさえよければ、宿屋が見つかるまでうちに泊まりませんか?」
「あまりお世話になり過ぎるのも申し訳ないし、それにそのせいで変な噂が立っても……」
「その時はお母さんが何とかしてくれますよ」
リリーはそう言いながら、ガーベラさんが弓を引く所作を真似してみせる。
「あははっ、確かに」
「それにお母さんの料理はお店にも劣らない美味しさだと思いますよ」
確かに、今日食べ歩きをした感じでも、ガーベラさんの手料理の方が美味しいと思った。
あの料理が毎日食べられるとなると……ちょっと涎が出そうになる。
「そうだなあ……流石に何もせず居候というのもなんだし、ガーベラさんは道具屋をやってるから薬草を納品して宿代の代わりに……とかもいいかもね」
「さ、流石に宿代の代わりに薬草は高価すぎますよ……」
「そっか、宿屋は1泊だいたい銀貨3枚だっけ。薬草を1つ育てて葉を全て取れば銀貨50枚だから……2つ納品すれば1か月ちょっとになるんだ」
ただ、実際に薬草の葉1枚を銀貨10枚で売ったとしても税金がかかるだろうし、手取りは少なくなるから1か月には満たないぐらいかも。
その辺の細かいところはガーベラさんに教えてもらおうかな。
そんなことを考えていると、正午の鐘が鳴り響く。
この世界には時計がないが、日の高さによって鐘が鳴り、それが時計代わりになっているようだ。
「おっと、もうこんな時間。それじゃリリー、『鑑定』をお願いできる?」
「分かりました、それでは…………今の魔力は100まで回復してますね」
「なるほど、これなら1日3つは育てられるかな、ありがとうリリー」
「えへへ……私でもお役に立てたなら嬉しいです」
「それじゃ、また畑を借りても大丈夫? もう少し試したいことがあるんだ」
「分かりました、それでは帰りましょう」
こうして、僕たちは市場を後にした。
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「それじゃ、今度は野菜の種を蒔いてみようと思うんだけど……この品種はどれぐらいで収穫できるの?」
「これはトマトですね、収穫までだいたい2か月かかります」
「ありがとう、それじゃ早速……」
この世界にもトマトがあるんだ……と思いながらも種を畑に埋めると、『成長促進』のスキルを使う。
するとどんどん成長して花が開き、次第に実が大きくなってくる。
実が赤く熟したのを確認すると、スキルの使用を止める。
「リリー、それじゃ『鑑定』をお願いできる?」
「はい……今の魔力は90ですね」
「ありがとう。なるほど、元々の成長速度に比例して消費する魔力量も多くなるんだ……ちなみにこのトマト1個の値段はこの町だとどのぐらいなの?」
「そうですね、ランクにもよりますが1つ銅貨10枚が相場になると思います」
銅貨10枚(約100円)か……それが20個ほど実をつけたから銀貨2枚(約2000円)かな。
薬草は魔力90で銀貨50枚。
トマトは魔力10で銀貨2枚。90消費しても18枚かあ。
薬草は高騰しているだけあって、消費魔力に対して効率はいいけど……。
問題は薬草を大量に置いていると出所が怪しまれたり、僕をさらって薬草を作らせたりするような人が出てきかねないところだろうか。
それなら野菜なんかも併売して、薬草は目玉商品として売るのが賢いかな……?
それに、野菜もガーベラさんに納品したり、宿代の代わりに渡したり、料理に使ってもらったりと色々な用途がある。
そうだな、色々作った方が幅が広がりそうだし、その方向でいってみよう!
「シゲルさん?」
僕が一人考え事をしていると、少し心配そうにリリーが覗き込んでくる。
「あ、ごめん。ちょっと道具屋の商品のラインナップをどうしようかと考えてたんだ」
「なるほど、薬草以外に野菜も置くということですね。確かに人を集めるならそっちの方がいいかもしれませんね、なにせ薬草は高価で手が出ないという人も多いので……」
「確かに。商品単価が高すぎても客層を限定しちゃうだけかな……ありがとうリリー」
「えへへ……どういたしまして。それじゃ宿泊の方、お母さんに交渉してみます?」
「そうだね、了解してくれるといいんだけど……」
ガーベラさんは優しいからたぶんOKしてくれるだろうけど、やっぱり緊張する。
しかし、相談した瞬間二つ返事でOKしてくれてちょっと拍子抜けではあった。
そして、僕の作った野菜や薬草もガーベラさんのお店に置いてくれることになり、仮ではあるけど僕の異世界で道具屋を開くという商売がここから始まるのだった。