37.戦いが終わって
「やれやれ、とりあえず一段落といったところかのう」
「そうですね……ただ、ポーションの事は……」
周りの人の視線は全て僕たちに向けられている。
それもそのはず、腕と足を失くした門番の人が五体満足で奇跡的に復活したのだ。
そんなポーションを取り出している所から使う所まで、全て見られているのだから。
「あんたたち、どこであのポーションを……いや、そもそもここにいる負傷者たちに使ったのも恐らくCランクじゃきかないはずだ」
「この町で出回っているポーションは一番ランクが高いものでも、Cランクのはずなんだが……」
……やっぱりそうなるよね。
僕がBランクの薬草の種を商人ギルドのギルドマスター経由で流通させてはいるが、普通の『成長促進』ではランクが下がってどうしてもCランクの薬草しか採取できない。
これは正直に白状するしかないかな……。
「それは私から説明しましょう」
「ぎ、ギルドマスター!?」
僕が答えに窮していると、背後から助け船を出してくれたのは商人ギルドのギルドマスターだ。
ギルドマスターは一歩前に出て、冒険者や兵士たちに向かう。
「……最近、様々な店でCランクのポーションが出回っていることは、皆さまご存知だと思います。その素材となるCランクの薬草を育てるための、Bランクの薬草の種を融通してくれたのは、他ならぬ彼……シゲルさんなんです」
その言葉に一同がざわつくが、ギルドマスターは続ける。
「彼には特殊な仕入れルートがあり、高ランクの種を仕入れることができます。ですから、Bランクのポーションを持たれていてもおかしくはありません。Bランクの種を普通に育てれば、Bランクの薬草が採取できますからね」
聴衆からは「確かに……」と納得の声が聞こえ始める。
しかし、彼らが次に疑問に思う事は……。
「では、門番を治療したあのポーションも仕入れルートが……?」
「いや、それはないだろう。Aランクのものとなれば国が管理する代物だ。いくら特殊なルートだとしても、Aランクのポーションを一商人が持っているのは……」
……でしょうね。
Bランクのポーションはさっきのギルドマスターの説明で納得してもらえただろうけど、Aランクのポーションは……。
しかし、Aランクのポーションの作り方……Bランクの薬草と竜の泉の水が必要だと話してしまうと、泉の存在、そしてアースドラゴンさんの存在が知られてしまう。
どう説明したものかと考えていると、僕の身体から魔力が抜けていく感覚がした。
『……それは私がお話ししましょう、人の子らよ』
この声は……。
「土の精霊様!?」
僕が声のする方を見上げると、全身が透明に近い緑色をした女性……土の精霊様が目に入り、思わずその名前を言ってしまう。
すると、周りの人たちは一斉に土の精霊様に向かって跪いた。
『もっと楽にしなさい、人の子らよ。……Aランクのポーションは、私が彼……シゲルに授けたものです』
土の精霊様がこちらを見る。おそらく話を合わせろということだろう。
『彼は旅の途中、精霊の依り代となる聖樹を助けれくれました。その聖樹は私の子の依り代だったのです。私はそのお礼に、彼にAランクの薬草を授けたのです』
周りの人たちがざわつく。聖樹なんておとぎ話のような存在だし、それが実在しているとなるとそうもなるだろう。
『……もし、この話に納得ができない者がおり、彼に危害を加えようとするのならば……私はその者に呪いをかけることでしょう。彼は私の子の恩人なのですから』
の、呪い!?
なんかすごく物騒なことになってきたぞ……。
「い、いえ! 我々は彼に危害を加えるなど、そのようなことは考えておりません!」
皆が一斉に土の精霊様にひれ伏す。
……これで、僕に対する追及はなくなるの……かな?
『私は土の精霊……いつでもあなた方を大地から見守っています。そのことを忘れず、過ごしなさい』
「はっ、ははーっ!!」
そう言うと土の精霊様は空気に溶けて徐々に消えて行った。
……なんか、逆に僕が特別扱いされそうな気もするけど……まあ、これでAランクのポーションとBランクのポーションの件はなんとかなったんだ。土の精霊様と商人ギルドのギルドマスターに感謝しよう。
なお、後でツバキさんに聞いた話によると、精霊の呪いというものは、その属性に対して不利になることばかりが起きるようになるという。
例えば『成長促進』を使っても植物が育たなくなるとか、土属性の魔法やスキルに極端に弱くなるとか、生きていくうえでデメリットだらけになるようだ。
……そりゃ皆ひれ伏しちゃうね……。
**********
「パパー!」
僕が解放されてすぐに向かったのは丘の上。
すると僕を待ち構えていたアイリスが勢いよく抱きついてくる。
僕はアイリスを受け止め、ぎゅっと抱きしめ返す。
「ありがとうアイリス。僕に魔力をくれたの、スキルのためだけじゃなくて、土の精霊様を呼び出すためでもあったんだね」
「うん! ママがね、そうしたほうがいい、っていってたの」
そっか、土の精霊様はこうなる事を見越して……。
本当に感謝しかない。
「それじゃ魔力を聖樹に返さないと……『成長促進』を使えばいいのかな?」
「んーん?」
アイリスは首を横に振ると、僕に唇を突き出して目を閉じる。
……要するに、魔力をもらった時と逆のことをしろ、と。
不意打ちでされるのと自分でするのは気持ちの持ちようが違うんですけど!?
でも、アイリスのおかげで今回は助かったんだ、ちゃんと返さないと……。
僕は覚悟を決めると、アイリスに唇を重ねた。
すると、今度は逆に魔力がアイリスに移動していくのを感じる。
しばらくするとアイリスが唇を離し、完全に魔力がアイリスに移ったことを示した。
「えへへー、パパだーいすき!」
「……ぼ、僕もだよ」
屈託のない笑顔を見せるアイリス。
これは親子のスキンシップ、親子のスキンシップなんだ……と自分に言い聞かせながら、アイリスの頭を撫でてあげる。
「それじゃ僕はリリーたちを迎えに行ってくるね」
「うんっ! おわったらあそぼうね、パパ!」
僕はアイリスに手を振ると、ドラゴンの泉へと向かった。
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「みんな!」
「シゲルさん!無事でよかったです……」
「シゲルくん……やっぱり、あのアーマーウルフは……」
僕は戦いの最中にはそこまで注意が回らなかったが、全てが終わった後確認したらアーマーウルフは確かに隻眼だった。
おそらくガーベラさんを襲ったアーマーウルフと同じ個体だったのだろう。
「そうですね、確かに隻眼でした。でも、一人の犠牲者も出ず倒せましたし、ガーベラさんが気に病むことはないですよ」
「シゲルくん……ありがとう」
「んんーっ!?」
ガーベラさんが僕を抱きしめてくる。
しかも、無意識に僕の頭を思いっきり胸に埋める形で。
「……トレニア、あたしたちもお兄ちゃんに!」
「……う、うんっ……」
ルピナスの声と共に、トレニアたちも僕に後ろから抱きついてくる。
「お兄ちゃんはガーベラさんだけのものじゃないもん!」
「……そういうこと……リリーおねえちゃんもどうぞ……」
「えっ、わ、私も!?」
『ハッハッハ、両手に……どころか、全身に花だな、シゲルよ。落ち着いたら爆裂草を頼むぞ』
「傍観しふぇないふぇ、助けふぇくだふぁーい!」
僕の声にならない声が泉に木霊する。
でも、これで危機は去ったんだ。これからまた普段の日常が戻ってくるなら、今日ぐらいはいいかな。
みんなにもみくちゃにされながらも、落ち着いたら助けてくれたギルドマスターや、協力してくれたタイガさん、ウルさん、イベリスさんたちにお礼をしに行こうと思うのだった。




