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【完結】異世界で道具屋はじめました  作者: SAK


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34/71

34.色々な噂

「店長、このお店のおかげで仲間が助かった。お礼にこれを受け取って欲しい」

「私たちもここのポーションのおかげで踏破記録を伸ばせました。こちらをぜひ……」


 最近はタイガさんやウルさん、イベリスさんたちだけでなく、ここで道具を買った他の冒険者の人たちもお礼のお土産を持ってきてくれるようになった。

 それも、みんな示し合わせたかのように種ばかり。

 おかげでいろいろなランクの種が手に入るようになり、わざわざランクを落としての在庫の補充をしなくてもいいぐらいだ。


 また、他のお店にも常連客がついて、同じようにお土産をもらっているという噂を、ギルドマスターから知らされた。

 うん、他のお店にBランクの種を配る方策が、どうやらいい方向に転がっているみたいだ。


「それと、今日は野菜も買っていくわ。一回試しに買ったらみんなに評判で……」

「ああ、それは分かるな。高いだけあって極上の味で……って、そんな事を言ってたら食べたくなってきた」

「ですよねー。あと、孤児院の子たちが作っている野菜も美味しいですよね、あの子たちの喜ぶ顔が見たくて、ついつい買いこんじゃったり」

「そうだな……俺も運営資金を少し寄付してたんだけど、その頃のあの子たちに比べたらいい顔をするようになったよ。自分たちで稼げるようになって、自信がついたんじゃないかな」


 と、孤児院の子たちの噂を耳にする。

 ツバキさんの『鑑定』でみんなのスキルが判明してから、あの子たちの噂を聞くことが多くなった。

 僕みたいな生産系のスキルを持つ子はそれを活かして商売を始めたとか。

 戦闘スキルを持つ子は将来冒険者になるために、冒険者に弟子入りして戦闘能力を伸ばしているとか。

 僕としては危ないことをしてシスターを心配させて欲しくないんだけど、どういう道を行くかはみんなが決めることだから、僕にどうこう言う権利はない。


「……そうだ」


 この町には引退した冒険者も多いし、孤児院の子たちのために教鞭をとってもらうのもありかもしれないな。

 その人たちはお金を稼げるし、孤児院の子たちには勉強になるし……。

 今度、冒険者ギルドのギルドマスターに相談してみようかな。


「シゲルくん、お久しぶりね」


 僕が冒険者ギルドについて考えていると、不意に声をかけられた。

 この声は以前、どこかで聞いたような……。


「あなたは……以前、王都で買い物に来てくれていた……」

「そうよ、こっちに引っ越してきたの。またよろしくね」

「そういえば最近、王都からの引っ越しが多いと聞きますね」

「ええ、物は高くなるし、冒険者の質は下がって依頼の達成率が悪くなるしで……逆にフリーデンは人が集まって、物も王都より安く手に入ると聞いてね」


 ああ、そういえばタイガさんやウルさんの活躍の噂を聞いて、冒険者がこっちに集まってるとか聞いたなあ。

 そのせいで向こうの冒険者の質の低下かあ……僕の道具のせいなんだけど、まあ気にしないことにしよう。


「それに、私がこちらに越してきてすぐ、王都がモンスターに襲われたそうなのよ」

「そうなんですか!?」


 でも、王都を出る時に見た感じだと、城壁や門などが堅牢なイメージがあったから大丈夫だとは思うんだけど……。


「ええ、アーマーウルフとか言う大きい狼のモンスターでね、多くの冒険者や兵士、騎士たちが犠牲になったそうなのよ……」


 ガシャン。


 突然、背後で何かが壊れる音がした。

 驚いて振り向くと、ガーベラさんが持っていたビンを落としたようだ。

 更にガーベラさんを見ると、顔面蒼白になっていた。


「ご、ごめんなさいシゲルくん、すぐに片付けるわね……」


 どんな時も落ち着いているガーベラさんが取り乱す。

 もしかして……。


「あの……もしかしてガーベラさんに重傷を負わせたのって……」

「……そうね、シゲルくんの考えている通り、アーマーウルフよ」

「そ、そうだったの!? ごめんなさい、私、軽率に……」

「いいんですよ、知らなかったことですし……。ところでそのアーマーウルフ、隻眼という話はないですか?」


 謝る女性にガーベラさんが詳細を訊ねる。

 しかし、女性は首を横に振り、そこまでの詳細は分からないと回答する。


「そう……でも、もしそのアーマーウルフが隻眼なら……間違いないわ。その眼を潰したのはわたしだから」

「ガーベラさんが、ですか?」

「ええ、わたし一人では相手にならないと思ってね……アーマーウルフに攻撃を受けたけどポーションでギリギリ弓を握れるように回復して……逃げるために、眼を射たの。そしてその一瞬の隙を突いて、激臭のする煙幕を使ってアーマーウルフの鼻と眼を機能しないようにして、更に自分の脚を『身体強化』して命からがら……ね」


 ガーベラさんは結構高位の冒険者だったはず。そんなガーベラさんが相手にならないと判断するような相手なんだ……。

 でも、咄嗟の機転でなんとか逃げ出せたんだ。そこは流石の実力だと思う。


「ごめんなさい、嫌なことを思い出させてしまって……」

「いえ、そのおかげでシゲルくんに出逢えて今のわたしがあるのだから、ある意味感謝しなきゃなって。怪我もシゲルくんのおかげで完治したし……」

「そう言って頂けると助かります。……それじゃ、そんなシゲルさんの作った道具を買って私も安心を得ましょう」

「ふふ、ありがとうございます」


 こうして、ガーベラさんはいつもの柔和な顔に戻ってくれた。

 しかし、アーマーウルフか……まだ討伐されていないなら、このフリーデンが襲われる危険性も……。

 それでも今はこのフリーデンにはたくさんの冒険者が集まってるし、大丈夫だとは思うけど……もっとBランクのポーションを作って備えておかないと。


 それから……。




**********




『ふむ、我に聞きたいことがあると』

「はい、爆裂草は弾みます」

『よかろう、何でも聞くが良い』


 僕は爆裂草を量産しながら、アースドラゴンさんにアーマーウルフについて尋ねる。


『ふむ、アーマーウルフか』

「ええ、もしかしたらこのフリーデンも標的になる恐れがあると思いまして、情報が欲しいんです」

『まず、その名の通り背に生える毛が硬く、鎧を纏っているような防御力を誇るからその名がついた』

「普通の武器では太刀打ちできないんですか?」


 どれぐらい硬いのか、そこを知っておけば対処法が分かるかもしれない。

 しかし、帰ってきたのは無慈悲な答えだった。


『剣や槍などの鋭利な武器ではまず無理だな。しかし、鈍器なら内部にダメージを与えることはできるだろう』

「鈍器……ですか」


 重装兵のような硬い鎧を纏った兵士には、ハンマーのような重量のある武器で叩くといいとかは聞いたような気がする。

 つまりそれぐらいの硬さと言うことなのか……。


『しかし、ウルフの名のある通りに奴の足は速い。重い武器なら攻撃を当てられないだろうな』

「そんな……硬くて強くて速いと言う事なんですか……?」


 そういうのは硬い、強い、遅いものじゃないの……? 卑怯すぎないかな……?


『うむ、ただし弱点はある。それはいくら硬くても魔法には弱い、という所だ』

「例えば火の魔法で焼けば、いくら硬くても毛だから燃えてしまうという訳ですか?」

『その通りだ。しかし、奴の習性がこれまた厄介でな』


 習性? 狼ならではの習性なんだろうか。


『奴は弱い者から狙ってくる。そう、真っ先に狙われるのは倒しやすい軽装の……魔法使いというわけだな』

「自分の弱点を突く者を真っ先に、その足の速さを活かして……って、それじゃ弱点なんてないようなものじゃないですか!?」

『ん? 我のブレスならアーマーウルフなど一撃だぞ?』

「いや、それは力量差があり過ぎるだけで……」


 そりゃあドラゴンなんだもん。ウルフなんて足元にも及ばないだろう。


『……シゲルよ、どうしてもと言うなら我が力を貸そう』

「それはありがたいのですが……もしあなたが戦場に出てきたら、フリーデンにはドラゴンが住まうという噂が立ちかねませんが……」

『まあそうだろうな。そうなればここには大量の人間が訪れることになるだろう』


 強すぎると分かっていてドラゴンと戦いたい者なんてかなりの戦闘狂だろうし、治安が悪くなる恐れは多大にある。

 それに、ドラゴンを信仰する人たちなども出てくる可能性もあり、町は変わってしまうだろう。

 アースドラゴンさんの力を借りるのは……どうにもならなくなった時だけにしないと。


『……我としてはお主が無理をして、命を落とすことを危惧しているのだがな』

「それは爆裂草が……?」

『それもあるが、我はお主が気になるのだよ。精霊の加護を持ちながらも、それを他人のために使うお主がな』

「……変わり者、ということでしょうか」

『ハハハ! 雑に言えばそうなるが、これから先どのようなことを成すのか、それが楽しみでな』


 どのようなことを成すと言われても……道具屋として日々を生きていく、ぐらいしか答えられないんだけど。


『まあよい。もしアーマーウルフが現れたのならまずはここに来るがいい。できる限りのことはしてやろう』

「ありがとうございます。でも、それがないのが一番なんですけどね」

『うむ。……さて、それでは続きの爆裂草をもらおうか』


 えっ。

 もうさっき育てたの全部食べちゃったの……? 確かに話しながらも爆発音は辺りに響いてたけど……。


 なんにせよアーマーウルフのことを詳しく知ることができたのは大きい。

 背中の毛がとんでもなく硬いこと、素早さを活かして弱い者から狙ってくること……この辺は逆に利用することもできるかもしれない。


 ……そんなことを考えながらも、僕は要求された通りに爆裂草を量産するのだった。

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