29.量産体制
「さて、それじゃトレニアは『魔力譲渡』以外の時は、ルピナスと一緒にお店の手伝いをしてもらおうかな。分からないことはガーベラさん、リリー、ルピナスの3人に聞いてね」
「……分かりました、がんばる……!」
「それじゃ僕は早速『成長促進』で魔力を空にしてくるね」
トレニアの魔力も満タンの200あるし、早い所使い切ってこないと。
僕がお店を出ようとすると、ルピナスが手を振りながら声をかけてくれる。
「行ってらっしゃいお兄ちゃ……店長!」
「……わたしもお兄ちゃんって呼びたい……」
「トレニア、お兄ちゃんじゃなくって店長だよ、店長」
「……でも、今お兄ちゃんって言いかけた……」
「ま、まだ慣れてないだけだもん!」
そんなかわいい会話を聞きながら、僕は竜の泉へと赴いた。
「それでは、今日はこの魔力草を育ててみてもいいですか?」
『うむ、よかろう。お主の言う事ができれば、我の食べられる爆裂草の数も増えるからな』
「ありがとうございます、それでは……」
僕は魔力草に『成長促進』を使い、収穫時期まで一気に育て上げる。
魔力草は特殊で魔力を最大値分持って行かれるが、可食用の葉と種が同時に採取できるところまで一気に成長してくれるのが嬉しいところだ。
僕はBランクの葉と種2つを採取したところでお店に戻り、トレニアに『魔力譲渡』をしてもらう。
「リリー、魔力の『鑑定』を2人分お願いできる?」
「はいっ。……シゲルさんが100、トレニアちゃんも100ですね」
「変換効率は確かに5割だね。それじゃもう一回育てに行ってくるよ」
僕は更に魔力草を育て、葉と種を収穫する。
さて、ここからだ。
もう一度『魔力譲渡』を行ってもらい、僕の魔力は50、トレニアの魔力は0になる。
「それじゃトレニア、これを食べてみてもらえる?」
「……いいの? あっ……ちょっと甘い感じがする……」
へー、魔力草って甘いんだ……ちょっと気になるけどまだまだ数は足りないし、自分で食べるのはまだまだ後になりそうだ。
「それじゃリリー、魔力の『鑑定』をお願い」
「はい……トレニアちゃんの魔力が100になってますね」
「それじゃトレニア、もう一回『魔力譲渡』をお願いできる?」
「……分かった……んっ!」
トレニアは僕に向けて『魔力譲渡』を使用すると、身体が光に包まれた。
これは……スキルのレベルアップ?
「……な、なに……?」
「おそらくスキルのレベルが上がったんだと思う。ちょっとツバキさんを呼んでくるね」
「……レベルアップ……!」
トレニアが目をキラキラさせながらこちらを見る。
そしてルピナスは羨ましそうにトレニアのことを見ている。
成長の速度は人それぞれなんだろうけど、トレニアのレベルアップは早かったな……。
そして僕は未だに……いや、『土の精霊の加護』はレベルアップしてるんだけど。
その後、ツバキさんに詳しく『鑑定』をしてもらったところ、トレニアはスキルのレベルアップで魔力の最大値が200から250に増えたようだ。
変換効率は上がらなかったものの、これはこれで有用だ。
他の商品を育てるための余力ができたわけだしね。
そして、僕は100まで回復した魔力を再び魔力草に捧げる。これで3回目だ。
ここまでの経過は以下の通り。
1回目:葉を1枚、種を2個収穫、前日のを1個消費
2回目:葉を1枚、種を2個収穫して1個消費
3回目:トレニアに葉を1枚消費、葉を1枚、種を2個収穫して1個消費
合計で葉は2枚、種は3個増えることになる。
更にルピナスに種を育ててもらえば、Cランクの魔力草と種が手に入るが、ルピナスはスキルレベルも上げて欲しいし、ルピナスには魔力消費の少ない野菜や、商品補充のための薬草などを育ててもらうことにしている。
これを1日2回すればもうレアアイテムを量産できていると言っても過言ではないだろう。
「おっと、もうお昼か……」
気が付くとお昼の鐘が鳴っている。
そろそろお昼ご飯を食べて、午後は自分もお店に出よう。
「いただきまーす!」
「……いただきます」
元気なルピナスとクールなトレニアの対照的な2人のいただきますをかわいらしいなと思いながら、僕たちはお昼ご飯を食べ始めた。
トレニアは野菜を食べると、目を輝かせながら僕の方を見てくる。
「……至高……!」
「お兄ちゃんの作った野菜、美味しいもんね」
「……またお兄ちゃんって言ってる……ルピナスだけずるい……」
「あっ……い、今のなし!」
「……じゃあ、わたしもうっかりお兄ちゃんって呼ぶ。それなら問題ない」
そんな2人の会話を聞きながら、僕たちは賑やかな昼食を終えた。
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「うん、そろそろ閉店時間だね。2人とも、お疲れ様」
「お疲れ様、店長!」
「……お疲れ様です」
ルピナスはまだまだ元気があり余ってる感じだけど、トレニアの方はどうも疲れているみたいだ。
初日だし、初めての接客とか慣れないことも多かったし、しょうがないかな。
「それじゃこれ、飲んでみて」
僕は2人にとある飲み物を渡した。
2人はそれをゴクゴクと一気に飲み干していく。
「なにこれ! あまーい!」
「……なんだか、身体の疲れが取れるような……」
それもそのはず、これは新作の桃を使った味付きポーションだからだ。
「2人とも、味はどうだった?」
「すごいすごい! こんな甘いの飲んだことない!」
「……甘くてほっぺが落ちそう……」
どうやら2人には好評のようだ。
これなら商品化しても問題なさそうかな。
「それとトレニア、給料は1日ごとに払った方がいい? それともルピナスみたいに1週間貯めておく?」
「……ええと、1日ごとがいいです。みんなで食べたり飲んだりするものを買いたいので……」
「それじゃちょっと待ってね……はい、これ」
「……えっ……こ、こんなに……?」
僕が渡したのは銀貨が10枚(およそ1万円)入った袋だ。
稼働時間はおおよそ6時間、更にスキルも使ってもらっているのでこれぐらいが妥当かなと。
魔力草が売れた場合は、更にこれに上乗せする形にする予定だ。ルピナスが育てたものが売れた場合も、ルピナスの給料に上乗せしてるからね。
「僕は2人のおかげでずいぶん助かってるからね。今回の実験がうまく回り始めたら、もっと上乗せできると思うよ」
「……あ、ありがとうございます……それじゃ、今日はこれで色々買って帰ります」
「あ、女の子2人だと危ないので僕が送っていくよ。荷物持ちも任せて」
「えへへ、お兄ちゃんといっしょ!」
「……ありがとうございます、お兄ちゃん……あっ、じゃなくて店長……」
「もうお店は終わったから店長じゃなくて大丈夫だよ。それじゃ、行こうか」
こうしてトレニアの1日目は無事に終わった。
そして、僕の魔力草量産という狙いも無事に完了し、明日からどんどん作っていこうと思うのだった。




