28.魔力草
「うーん……せっかくの魔力草なんだから、何とか使いたいんだけど……」
僕は魔力草の種を前に頭を捻っていた。
『成長促進』で育てるのに魔力の全てを持って行かれるのに、魔力の回復量はBランクでも半分の5割。
更に、魔力を回復する可食部分……葉は魔力草1つにつき1枚しか採取できない。
更に更に、種ができても2つしか採取できない。
貴重品なので育てればかなりの値段で売れるんだろうけど、他の商品を育てるのを犠牲にしてまで育てるのは躊躇してしまう。
ただでさえ今は僕の魔力が100しかないせいで品薄なんだし、来てくれているお客さんに悪い。
同じ『成長促進』を持つ、孤児院出身のルピナスが商品を育ててくれているものの、それでも追いつかないレベルなのだ。
魔力草をうまく活用できれば品薄も解決できそうなんだけどなあ……。
「お悩みですか、シゲルさん?」
僕が机に突っ伏していると、リリーが優しい声で話しかけてくれる。
どうにかして魔力草を使えないかと考えている、とリリーに話すととても親身になって聞いてくれた。
「そうですね……魔力草以外での魔力の回復手段があればいいんですけど……例えば、スキルとか……」
「…………それだ! ありがとうリリー!」
「えっ、えっ!?」
「以前孤児院でスキルの鑑定をツバキさんに頼んだことがあるんだ。確かその時に『魔力譲渡』みたいな名前のスキルを持ってた子がいたはず……」
スキル名しか聞いてないので詳細までは分からないけど、もしかしたら……!
僕はリリーにお礼を言うと、ツバキさんの錬金工房へと駆け出していた。
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「……ふむ、確かにそのスキルを『鑑定』した覚えはあるのう」
「それなら、もしかすると魔力草を量産できるのでは……?」
「うむ、確かにその子の魔力量や、スキルレベルを上げれば可能になるかもしれん。じゃが……」
「何か問題があるんですか?」
ツバキさんがスキルレベルと言ったのが引っかかる。
魔力量なら分かるんだけど、なんでスキルレベルが……?
「『魔力譲渡』はのう……他者に魔力を渡す時に魔力が漏れ出てしまうのじゃよ」
「つまり、100の魔力を譲渡しようとしたら、90しか渡せないこともある……という事ですか?」
「そういうことじゃ。スキルレベルを上げれば譲渡効率は良くなるのじゃが……まあ、まずはその子の魔力量と譲渡効率を見てからじゃのう」
「そうですね、すみませんが孤児院まで同行をお願いできますか?」
「よかろう。魔力草が量産できれば儂にも得があるからの……くふふ」
なんだかよからぬことを企んでいる笑い方だけど……ツバキさんの協力がなければできないだろうし、ここは突っ込まないことにする。
僕は孤児院への差し入れの果物や野菜を袋に詰めると、ツバキさんと孤児院へ向かった。
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「シゲルさん、ツバキさん、先日はありがとうございました。おかげさまで、みんなスキルを活用してみようと活き活きしています」
「お力になれたなら幸いです。ところで『魔力譲渡』を持った子を探しているのですが……」
「分かりました、トレニアですね。少々お待ちくださ……」
「あ、その前にこの野菜も持って行ってください。今日の夕食に使って頂ければと」
「シゲルさんの野菜ですか! 実はみんなシゲルさんの野菜を食べたら虜になりまして……『自分もいつかこんな野菜を育てたい!』と、シゲルさんと同じ『成長促進』持ちの子が言っていましたよ」
「ありがとうございます、それは嬉しいですね」
この世界のスキルはやっぱり戦闘スキルが花形らしいんだけど、こういう後方支援のスキルにも注目してくれて、更には誰かの目標にもなれるなんて……道具屋冥利に尽きるなあ。
もしかしたら恥ずかしくて話してくれないだけで、ルピナスもそう思ってくれているのかな。
「それでは調理場に置いて来てから、トレニアを連れてきますね」
「はい、それではよろしくお願いします」
「お待たせしました、こちらが『魔力譲渡』持ちの子……トレニアになります」
「……トレニアです」
紹介された子は薄い緑色の髪で片方の目を隠していて、目は少しジト目な感じだ。
話す前に一呼吸置く感じで、クール系の子なのかな……?
「それじゃトレニアちゃん、君の魔力とスキルを『鑑定』してもいいかな?」
「……大丈夫です。……それと、『ちゃん』はなくていいです」
「分かったよトレニア。それではツバキさん、お願いします」
「うむ……」
ツバキさんは『鑑定』を発動させると、なるほど、と頷く。
これはいい報告が期待できそうかな……?
「魔力は200、シゲルの2倍じゃな。そして魔力の譲渡効率は50%といったところか」
「ちょうど僕の魔力が全回復しますね」
「うむ。スキルレベルが上がればもっと効率がよくなるはずじゃ」
「……そうなんですね、使えばレベルが上がりますか?」
「そうじゃな……最初は50回ほど使えば上がると思うが……お主、シゲルの手伝いをしてみんか?」
僕が言おうと思ってたんだけど、ツバキさんが代わりにトレニアを誘ってくれる。
恐らく、この子の『魔力譲渡』と僕の『成長促進』で素材を量産できるから、ツバキさんにとっても利があるからだろう。
「もちろん、無理強いはしないよ。でも、協力してくれればそれ相応の賃金などは出るから、考えてみて欲しいかな」
一番優先するのはこの子がどうしたいかだ。
強制的に働かせるなんてブラックなことはしたくない。
「……大丈夫です。スキルのレベルも上げたいし、お金を稼いでシスターに楽してもらいたいし……それから……」
「それから……?」
「……ちょっとでいいのでシゲルさんの野菜も欲しいです」
「なるほど、それでいいのだったら付けられるよ」
もしかして、孤児院の子たちに分けてあげたいのかな。
それなら奮発して多めに……。
「実はですね、この子シゲルさんの野菜が大好きでして」
「……し、シスターっ……!」
「野菜が苦手で普段はあまり野菜を食べない子なんですけど、シゲルさんの野菜だとどんどん食べてですね……」
「……い、いっちゃダメっ!」
トレニアはシスターの口を塞ごうと、シスターの周りをぴょんぴょん跳ねる。
でも流石に身長差があって、シスターの口からはどんどんと彼女のことが語られる。
ちょっとクールっぽいって思ってたけど、やっぱりちゃんとこどもなんだな。
「し、シスター、そろそろトレニアが泣きだしそうなので止めてあげてください」
「あ、あら……ついつい嬉しくて語り過ぎてしまいましたね……それではシゲルさん、トレニアのこともよろしくお願いしますね」
「分かりました。それじゃ、これからよろしくねトレニア。……働いてくれてる間は、お昼ご飯もごちそうするから」
「……お昼ご飯……!」
お昼ご飯が出ることを聞いたトレニアは、さっきまでは泣き出しそうだった目を今度は輝かせはじめた。
あれだけ僕の野菜のファンって言われたんだから、リリーやガーベラさんにお願いしておかずは野菜を多めにしてあげたいな。
「さて、話は纏まったようじゃし、家に帰るとするかのう?」
「そうですね、早速いろいろと試してみましょう」
「……楽しみ……!」
こうして僕たちは『魔力譲渡』を持つトレニアを新たな店員として迎え入れたのだった。




