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【完結】異世界で道具屋はじめました  作者: SAK


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28.魔力草

「うーん……せっかくの魔力草なんだから、何とか使いたいんだけど……」


 僕は魔力草の種を前に頭を捻っていた。

 『成長促進』で育てるのに魔力の全てを持って行かれるのに、魔力の回復量はBランクでも半分の5割。

 更に、魔力を回復する可食部分……葉は魔力草1つにつき1枚しか採取できない。

 更に更に、種ができても2つしか採取できない。


 貴重品なので育てればかなりの値段で売れるんだろうけど、他の商品を育てるのを犠牲にしてまで育てるのは躊躇してしまう。

 ただでさえ今は僕の魔力が100しかないせいで品薄なんだし、来てくれているお客さんに悪い。


 同じ『成長促進』を持つ、孤児院出身のルピナスが商品を育ててくれているものの、それでも追いつかないレベルなのだ。

 魔力草をうまく活用できれば品薄も解決できそうなんだけどなあ……。


「お悩みですか、シゲルさん?」


 僕が机に突っ伏していると、リリーが優しい声で話しかけてくれる。

 どうにかして魔力草を使えないかと考えている、とリリーに話すととても親身になって聞いてくれた。


「そうですね……魔力草以外での魔力の回復手段があればいいんですけど……例えば、スキルとか……」

「…………それだ! ありがとうリリー!」

「えっ、えっ!?」

「以前孤児院でスキルの鑑定をツバキさんに頼んだことがあるんだ。確かその時に『魔力譲渡』みたいな名前のスキルを持ってた子がいたはず……」


 スキル名しか聞いてないので詳細までは分からないけど、もしかしたら……!

 僕はリリーにお礼を言うと、ツバキさんの錬金工房へと駆け出していた。




**********




「……ふむ、確かにそのスキルを『鑑定』した覚えはあるのう」

「それなら、もしかすると魔力草を量産できるのでは……?」

「うむ、確かにその子の魔力量や、スキルレベルを上げれば可能になるかもしれん。じゃが……」

「何か問題があるんですか?」


 ツバキさんがスキルレベルと言ったのが引っかかる。

 魔力量なら分かるんだけど、なんでスキルレベルが……?


「『魔力譲渡』はのう……他者に魔力を渡す時に魔力が漏れ出てしまうのじゃよ」

「つまり、100の魔力を譲渡しようとしたら、90しか渡せないこともある……という事ですか?」

「そういうことじゃ。スキルレベルを上げれば譲渡効率は良くなるのじゃが……まあ、まずはその子の魔力量と譲渡効率を見てからじゃのう」

「そうですね、すみませんが孤児院まで同行をお願いできますか?」

「よかろう。魔力草が量産できれば儂にも得があるからの……くふふ」


 なんだかよからぬことを企んでいる笑い方だけど……ツバキさんの協力がなければできないだろうし、ここは突っ込まないことにする。

 僕は孤児院への差し入れの果物や野菜を袋に詰めると、ツバキさんと孤児院へ向かった。




**********




「シゲルさん、ツバキさん、先日はありがとうございました。おかげさまで、みんなスキルを活用してみようと活き活きしています」

「お力になれたなら幸いです。ところで『魔力譲渡』を持った子を探しているのですが……」

「分かりました、トレニアですね。少々お待ちくださ……」

「あ、その前にこの野菜も持って行ってください。今日の夕食に使って頂ければと」

「シゲルさんの野菜ですか! 実はみんなシゲルさんの野菜を食べたら虜になりまして……『自分もいつかこんな野菜を育てたい!』と、シゲルさんと同じ『成長促進』持ちの子が言っていましたよ」

「ありがとうございます、それは嬉しいですね」


 この世界のスキルはやっぱり戦闘スキルが花形らしいんだけど、こういう後方支援のスキルにも注目してくれて、更には誰かの目標にもなれるなんて……道具屋冥利に尽きるなあ。

 もしかしたら恥ずかしくて話してくれないだけで、ルピナスもそう思ってくれているのかな。


「それでは調理場に置いて来てから、トレニアを連れてきますね」

「はい、それではよろしくお願いします」




「お待たせしました、こちらが『魔力譲渡』持ちの子……トレニアになります」

「……トレニアです」


 紹介された子は薄い緑色の髪で片方の目を隠していて、目は少しジト目な感じだ。

 話す前に一呼吸置く感じで、クール系の子なのかな……?


「それじゃトレニアちゃん、君の魔力とスキルを『鑑定』してもいいかな?」

「……大丈夫です。……それと、『ちゃん』はなくていいです」

「分かったよトレニア。それではツバキさん、お願いします」

「うむ……」


 ツバキさんは『鑑定』を発動させると、なるほど、と頷く。

 これはいい報告が期待できそうかな……?


「魔力は200、シゲルの2倍じゃな。そして魔力の譲渡効率は50%といったところか」

「ちょうど僕の魔力が全回復しますね」

「うむ。スキルレベルが上がればもっと効率がよくなるはずじゃ」

「……そうなんですね、使えばレベルが上がりますか?」

「そうじゃな……最初は50回ほど使えば上がると思うが……お主、シゲルの手伝いをしてみんか?」


 僕が言おうと思ってたんだけど、ツバキさんが代わりにトレニアを誘ってくれる。

 恐らく、この子の『魔力譲渡』と僕の『成長促進』で素材を量産できるから、ツバキさんにとっても利があるからだろう。


「もちろん、無理強いはしないよ。でも、協力してくれればそれ相応の賃金などは出るから、考えてみて欲しいかな」


 一番優先するのはこの子がどうしたいかだ。

 強制的に働かせるなんてブラックなことはしたくない。


「……大丈夫です。スキルのレベルも上げたいし、お金を稼いでシスターに楽してもらいたいし……それから……」

「それから……?」

「……ちょっとでいいのでシゲルさんの野菜も欲しいです」

「なるほど、それでいいのだったら付けられるよ」


 もしかして、孤児院の子たちに分けてあげたいのかな。

 それなら奮発して多めに……。


「実はですね、この子シゲルさんの野菜が大好きでして」

「……し、シスターっ……!」

「野菜が苦手で普段はあまり野菜を食べない子なんですけど、シゲルさんの野菜だとどんどん食べてですね……」

「……い、いっちゃダメっ!」


 トレニアはシスターの口を塞ごうと、シスターの周りをぴょんぴょん跳ねる。

 でも流石に身長差があって、シスターの口からはどんどんと彼女のことが語られる。

 ちょっとクールっぽいって思ってたけど、やっぱりちゃんとこどもなんだな。


「し、シスター、そろそろトレニアが泣きだしそうなので止めてあげてください」

「あ、あら……ついつい嬉しくて語り過ぎてしまいましたね……それではシゲルさん、トレニアのこともよろしくお願いしますね」

「分かりました。それじゃ、これからよろしくねトレニア。……働いてくれてる間は、お昼ご飯もごちそうするから」

「……お昼ご飯……!」


 お昼ご飯が出ることを聞いたトレニアは、さっきまでは泣き出しそうだった目を今度は輝かせはじめた。

 あれだけ僕の野菜のファンって言われたんだから、リリーやガーベラさんにお願いしておかずは野菜を多めにしてあげたいな。


「さて、話は纏まったようじゃし、家に帰るとするかのう?」

「そうですね、早速いろいろと試してみましょう」

「……楽しみ……!」


 こうして僕たちは『魔力譲渡』を持つトレニアを新たな店員として迎え入れたのだった。

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