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【完結】異世界で道具屋はじめました  作者: SAK


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25.悩み

「相変わらずよく食べますねえ……」

『はっはっは、実に美味! 実に美味だ!』


 今日も道具屋のお仕事を終え、泉に来て爆裂草をドラゴンにお供えする。

 凄い破裂音が口の中で響いていて、よく体内が無事だなあと呆れながらもそれを見守る。


「口の中とか大丈夫なんですか……?」

『うむ、我は水属性でな。爆裂草は属性としては火になるから、我には効かぬのだよ』

「属性の相性が良いとはいえ、破裂したら物理的にダメージを受けそうなものなのですが……」

『細かいことは気にするな! まあ我がドラゴンだから頑丈というのはあるだろうな』


 確かに以前少しだけ鱗に触らせてもらったが、鉄よりも硬い感じで、これが幾重にも重なっているから普通の武器ではまず傷が付かないらしい。

 ……表面はそれで納得できるんだけど、内臓まで硬いのはどうかと思うんですが?


『……む。爆裂草が無くなってしまったか。シゲル、追加で育ててはくれぬか?』

「そうしたいのはやまやまなのですが、これ以上魔力を使うと明日の商品が作れなくなりますので……」


 そう、僕の魔力はいまだ初期値の100のままだ。

 『土の精霊の加護』スキルのおかげで、『成長促進』スキルの消費魔力が半分になっているものの、元々の魔力が少ないから、それほど数を作れないのが現状である。

 最近は常連さんも増え、道具の売り切れる時間がかなり早くなってしまい、在庫が足りないのが悩みの種となっている。


『ふむ、それなら自身のレベルを上げ、魔力を増やせばよいのではないか?』

「そうなんですよね、この泉が以前あった森でレベル上げをしようとは思ったのですが……」

『何か不都合がある、と』

「僕の魔力以外のステータスが低いからか、ギリギリまで削ってもらっても倒せないんです」


 どうも僕のステータスは一般人……というかこどもよりも低いみたいで、体力を削ってもらってもラッシュボアが硬くてトドメを刺せない始末。

 リリーは以前森に入った時に倒したラッシュボアのおかげでレベルが上がり、魔力などが強化されたと喜んでいたので、僕もできることならリリーみたいにレベルを上げたい所なんだけど……。


『それならばスキルのレベルを上げるしかないだろうな』

「はい……でも『成長促進』はいくら使ってもレベルが上がらず、ツバキさんも首を傾げてました。『土の精霊の加護』はなぜかレベルが上がりましたが、何がレベルが上がるトリガーになっていたのかは分からないので、こちらのレベル上げもできないのが現状です」

『となると魔力を回復させるもの……魔力草が必要になるか。しかしあれは貴重品でな。育つのも2年ほどかかるぞ』


 育つのに2年、か。

 薬草は1年ちょっとで育ち、それを『成長促進』で育てると魔力消費が90(今は半分で45)というのを踏まえると、約2倍の180(半分なら90)も使うことになる。


「なかなかうまくいかないものですねえ……」

『我の爆裂草のためなら協力は惜しまんぞ』

「どれだけ好きなんですか……でも、ありがとうございます」


 様々な知識を持っているドラゴンの協力が得られるのはこちらとしてもありがたい。

 現に、魔力草の情報は今まで皆無だったからね。


『そういえば、人間は爆裂草を食べられないのにシゲルはなぜ種を持っていたのだ?』

「ええ、爆発しない調理方法もあるとツバキさんが言ってましたので……」

『何!? そういう調理方法があるのか……シゲル、我はそれを食べてみたいぞ』


 あっ。

 や、藪蛇だったかな……? でももう断れる雰囲気ではないし……。


「ではツバキさんから情報をもらって、完成したらお持ちします」

『うむ、楽しみにしておるぞ』


 でも普段からBランクの採取をさせてもらってるし、恩返しには丁度いいだろう。

 それに、僕もちょっとだけ爆発しない爆裂草の味が気になるというのもあるし。




 その後、何とか調理できる人を見つけ、爆発しない調理法で爆裂草を料理してもらったが、ドラゴン曰く『たしかに美味いが爆発しないと物足りない』とのこと。

 ……やっぱり、ドラゴンだからちょっと変わってるな、と思うのだった。


 ちなみに自分でも食べたが、かなり美味しくてびっくりした。

 また、その調理をしてくれた人も高ランクの爆裂草を初めて見たらしく、余っていたら購入したいと言われ、新規顧客の獲得にも成功してしまう。

 不思議な縁もあるものだなあ。




**********




 とある日、リリーと一緒に爆裂草を納品しに行き、その後町を散策していると、町はずれにあるとある大きな建物が目に付いた。


「これは……孤児院ですね」

「孤児院か……そんなに身寄りのない子が多いんだ……」


 ここ、フリーデンは冒険者と商人が興した国だ。

 そのため冒険者の数も多く、冒険者同士で結婚することも多い。

 しかし、夫婦ともども冒険者であるため、依頼先でこどもを残して亡くなってしまうケースも多く、孤児院のお世話になるこどもの数が他の国よりも増えてしまうらしい。

 そんな孤児院のこどもたちを観察していると、栄養状態が悪いのか、やせ細っているこどもが多々見受けられる。


「あの、さ。リリー」

「ふふ、もう道具屋はシゲルさんのものなんですから、シゲルさんのしたいようにしてください」


 僕が売上金を持ってリリーに話しかけると、リリーも察してくれたようだ。

 僕はそれを孤児院に寄付すると、こどものお世話をしているシスターさんたちから大いに喜ばれた。


「……いいことをしましたね」

「うん。……でも、毎回寄付をするわけにもいかないし、どうにかしてあの孤児院自身で利益が出るような仕組みを作らないと、改善されないかも……」


 あの孤児院は寄付で成り立っているらしく、収入が不安定とのことだ。

 少しでもいいから、収入が入るような仕組みがあれば多少は違ってくると思うのだが……。


「リリー、スキルっていつ手に入るものなの?」

「スキルは生まれた時から持っているらしいです。でも成人……10才になるまでは不思議な力で封印されているみたいで、基本的には使えません」

「どうして10才……? いや、確かに善悪の判断ができない年齢でスキルが使えたら、それはそれで危ないか……」


 赤ちゃんが炎を扱うスキルを発動させたら家が燃えてしまうし、こども同士のケンカでスキルを使おうものなら大惨事になりかねない。

 そういう意味では成人になるまで使えなくしておくのが安全ってことなのかな。誰がスキルを封印しているかは分からないけど……おそらく神様か精霊様だろう。


「あと、スキルってどうやってそれを持っていることに気付くの?」

「そうですね、偶然自分で見つけるほかには、『鑑定』を使って調べるぐらいです。ツバキさんレベルの『鑑定』ならスキルの効果も分かりますしね。ただしスキルの『鑑定』は使える人が限られていて、それなりの費用がかかります」

「なるほど、ありがとう」


 それなら……。




**********




「ふむ、儂に孤児院のこどものスキルを『鑑定』して欲しいと」

「もちろんタダとは言いません、Bランクの各種アイテムとお金を用意します」

「乗った」


 ……話が早いなあ。ありがたいけど。


 こうして、孤児院の10才を超えるこどもたちのスキル鑑定が始まった。

 すると、僕と同じ『成長促進』を持つ子や、リリーやツバキさんの持つ『鑑定』の子など、人材が次々と発掘されていく。


「……ふう、久々に『鑑定』をここまで使うたわ」

「お疲れ様です。……こどもたちの喜ぶ顔を見られるのは嬉しいものですね」

「そうじゃな。普通、ここまでの規模の鑑定をするなら金貨数枚あっても足りんからのう」

「そ、そんなにするんですか!?」


 確かにリリーはそれなりの費用がかかるとは言ってたけど、そこまでだったなんて……そりゃ孤児院の人も払えないわけだ……。

 でも、それ以上に収穫は大きい。


「あとは種を渡して『成長促進』を使えば、食料の方の問題は解決できますね」

「余ったものを売れば金も手に入るしのう。それで肉などを買えば栄養の問題も大丈夫じゃろう」


 そう僕たちが話していると、一人のこどもがこちらへ駆け寄ってくる。


「あ、あのっ。これ、あたしが初めてスキルで育てたものなんです……初めてはお世話になったお兄ちゃんとお姉ちゃんに食べてもらいたくて……」


 少女はおずおずと、僕が持ってきたトマトの種から育てたトマトを差し出す。

 僕とツバキさんはそれを受け取ると、口に運ぶ。


「うむ、よくできておるぞ」

「そうだね。明日からはこれをみんなに食べさせてあげて」

「……うんっ! お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう! だいすき!」


 少女は恥ずかしかったのか、顔を赤くしながらみんなの所へと走って戻って行った。


「やれやれ、シゲルよ、あの年齢の子に手を出すのは感心せんぞ?」

「ちょっと待ってください。なんでそんな話になるんですか」

「どう見ても恋する乙女の目じゃったぞ? まったく、リリーやガーベラやイベリスだけでは飽き足らんのか」

「人聞きの悪いことを言わないでください」


 ……まったく、ツバキさんという人は。 いや、ツバキさんという狐は。

 なんにせよ、これで孤児院の経営状態が改善され、こどもたちが少しでも幸せになれるといいな。




 その後、スキルが判明した子たちはそれを鍛えるため、自己鍛錬をしたり、弟子入りしたり。

 そして僕たちにトマトをくれたあの子は――。




「あ、あのっ、あたし、ルピナスと言います。これからよろしくお願いします!」


 こうして僕の道具屋に1人、従業員が増えたのだった。

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